魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第一章 令和の魔法使い

10 「今日、特筆すべきことは、これしかないだろう。我孫子

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「今日、特筆すべきことは、これしかないだろう。

 我孫子市立天王台第三中学校の生徒になった、ということ。

 最初は、うまくやっていけるか不安だった。

 自己紹介の挨拶では緊張して声が出ず、ああやっぱり不安的中か、また誰とも話せず隅っこでじっとしているだけの学校生活になるのかなあ、と悲観に暮れるところだったのだけど、でもそのような心配はいらなかった。

 前の座席のあきらはるさんが、色々と話し掛けてくれたおかげだ。

 家が近いということで一緒に帰ったのだけど、その際に立ち寄った公園で見付けた弱った捨て猫を、動物病院に診せにいくのにも付き合ってくれた。
 明木さん、名前の通り明るいし、とっても親切な子だ。

 そうそう、教室での自己紹介失敗の件も、捨て猫の件も、直美さん知っていた。

 ジョギングの後に寄ったお好み焼き屋さんが、たまたま明木さんの家だったのだそうだ。

 帰ってきた直美さん、お酒に強いからしらふにしか見えないのだけど、でも、かなり飲んでそうな感じだったな。

 やけ酒、というほどでもないのだろうけど、それに近いものを感じる。

 修一くんも、そろそろ直美さんが働くのを認めてあげればいいのに。
 でないと直美さん、下手すれば酒浸りだ。

 呼吸器の病気だって、もうジョギング出来るくらいまでに回復しているというのに。

 とはいえ、まだまだ半分ウオーキングのようなものではあるのだけれど。

 完全に回復したら、いつか見てみたいな。二人の、赤ちゃん。

 二人は、本当の子供ではない私に遠慮しているようだけど。
 私の精神的な居場所がなくなるのではないか、と。

 私が令堂家に貰われた経緯は色々あるにせよ、夫婦に子供が出来なかったからということも大きいのだろうから、つい私を気遣ってしまうのも分からなくはないけど。

 でも、私は別に平気なのに。

 むしろ早く会ってみたい。弟か、妹に」


 と、ここまで入力を終えたところで、キーを押す指がぴたり止まった。

「ダメだあああ!」

 学習机で端末に向かっていたりようどうさきは、頭をかかえると天井を見上げ叫んだ。

「なんだかとりとめなくなっちゃったぞお」

 日記を書いているのであるが、せっかくの転校初日だというのに、そこをろくに書けていない。

 明木さんにスポット当てたはいいが、平家さん大鳥さんたちのことにこれっぽっちも触れていない。

 特筆すべきは、などと書き出しておきながら、ほとんど語らないまま横道に逸れてしまっている。
 夫婦のくだりをたらたらと、それ別に今日の日記で書く必要もないことなのに。

「修正するか。……でもそれも面倒だな」

 最後を上手くまとめよう。
 どうにか我孫子に越してきたこととからめて、綺麗に文章を終わらせるんだ。
 そこで、明木さん以外のキャラも強引に出すんだ。そうそう、みたいな追伸的に。

「とはいうものの、文面が思いつかない」

 どう繋げばいいんだ。
 考えろ。
 考えるんだ。
 もっと脳を働かせろ、アサキ。

 我孫子、
 天王台、
 猫、
 お好み焼き、
 やけ酒、
 夜景、
 ベランダ、
 明木……治奈……
 彼女が、アサキの脳裏に浮かんでいた。
 紫色の衣装に身を包み、槍を持って走る、明木治奈の姿が。

 以前に住んでいた町でアサキは得体の知れない白い影を何度か見たことがあるのだが、それと同じようなものを明木治奈は追っていた。
 白い影がアサキ自身の気の弱さが生んだ幻影だというのなら、先ほど見た明木治奈もまた幻影、ということかも知れないが。

 でも、
 本当に、そうなのだろうか。
 すべては気のせいなのだろうか。

 反対に、もしも先ほど見た明木治奈が幻影ではなく現実ならば、あの白い影もまた現実なのではないか。

 などと考えはじめてしまったものだから、思考ぐるぐる回って日記どころではなくなってしまった。

 空間投影しているリストフォンの画面を消すと、椅子から立ち上がり、部屋を出た。

 キッチンで、直美が鼻歌混じりに料理を作っている。
 リビングのソファで、修一がお笑い番組を見ている。

「ちょっとだけ、外を散歩してきてもいい?」

 アサキはどちらへともなく尋ねた。

「ん? ああ、いいけど気をつけろよ。夜なんだからな。長い時間はダメだぞ」

 修一が、ちらり視線を向けつつ応えた。

「うん。気をつける。じゃあちょっと行ってくるね」

 ミルクをあげてから、と思ったが二匹の子猫たちは箱の中で、お互いの身体に顎を乗せ合って眠っていたので、軽く頭を撫でると玄関へ。

 靴を履き、外へ出た。
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