魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第六章 六番目の魔法使い

04 「このケリは後でつけっから、忘れんなよ!」昭刃和美

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「このケリは後でつけっから、忘れんなよ!」

 あきかずは、不敵な笑みを浮かべながら、みちおうの眼前へびしっと指を突き付けた。

「あーめんどくさ」

 慶賀応芽は、気怠そうに頭を掻いた。

「二人とも、そがいな争いしとる場合じゃないじゃろ」

 あきらはるは二人を冷ややかな目で見ながら、リストフォンを通信モードに切り替えて口元へと近付けた。

「……はい。明木です。はい。……はい、その慶賀さんも一緒におりますよ。なんでうちらが彼女のこと全然知らされとらんのか、後でたーっぷりと納得いく答えを聞かせて貰いますけえね。……はい、これから一緒に向かうつもりでいます。ほいじゃ、後で報告します」
「校長?」

 なるの問いに、治奈は頷いた。

「慶賀さんのこと、笑ってごまかそうとしておったわ」

 新戦力を内緒にしていたことを。

「やっぱりさあ、ゴリラゴリラしつこくいい過ぎて嫌われてるんだよお」
「それか、もしかしたらお菓子の件じゃないのお?」

 アサキが口を挟んだ。

「え、え、アサにゃん、なにそれ?」
「あのね、わたしとカズミちゃんで校長室に行った時にね、机に置いてあった高級そうな和菓子をカズミちゃんが勝手に食べちゃったんだ」
「えーーっ!」

 ヴァイスタ絡み組織ギルド絡みの話ではなく、ドッヂボールで校長室のガラスを割ってしまい謝りに行った時のことだ。

「誰もいないと思ってたら、直後に校長が入ってきてね、お菓子がないことに気付いて、『知らない?』って聞くんだけど、カズミちゃんってば澄ました顔で『知らない』って首を横に振って。『ほんとに知らない?』『知りません。窓ガラスの件で謝罪にきて、そんなことする人がいますかあ?』とかなんとか、口の周りに思い切りチョコが付いているくせに、気迫でごまかし通してしまったんだよ」
「そういやありましたかなあ、そんなこと」

 カズミは、はははと笑いながらぼりぼり頭を掻いた。

「ぎゃいーーーーん、絶対それだよお! カズにゃんのせいで、ナルハたちみんな校長から嫌われたあ!」
「でも、そこまでたいそうな菓子でもなかったぜ」

 などと軽口というかなんというかを叩きながらも、彼女たちは、カーテンを開くかのごとく空気を掻き分け開いて、異空へと入っていく。

 異空。
 同じ場所の、裏の空間である。
 色調が全て反転して、さらに見る物ことごとくがぐにゃり歪んでいる、瘴気に満ちた世界だ。

 カズミ、成葉、正香、アサキ、治奈、と順番に、学校屋上の異空側へと、足を踏み入れていく。

「なんかどろんどろんしてて、やだなあ。せめて移動してから異空に入るのはダメなの?」

 瘴気まみれの空気に嫌悪して、誰にともなくアサキがぼやき尋ねる。

「時間が掛かるけえね。それに、先に変身しとった方が安全じゃろ。異空なら、移動時に人に見付からないし、早い」

 治奈が説明する。

「いわれれば、そうだなあ」

 さて、既存メンバー全員が異空へと入り込んで、残るは一人、新戦力の慶賀応芽だけである。
 異空の側から見ると、彼女の方こそが、どんより薄暗い空間にいるように見える。
 透明フィルムを何枚も重ねたような、濁った向こう側にいるような。

 最後の一人、慶賀応芽も、

「ほな、あたしもいくでえ」

 すっ、と手を横に動かして、空間をかき分けて開こうとするのであるが、
 しかし……

 なんだか難しい顔になっている彼女。
 立て付けの悪い家の戸を開こうとするかのように、ガタガタガタガタ。
 しかし、開こうとすれどもすれども空間が開かない。

 それもそのはず。
 カズミが両手でがっしり、空間の裂け目を押さえ付けているのだから。

 慶賀応芽も、両腕に渾身の力を込めて、異空への空間をこじ開けようとするが、カズミの怪力の前にびくとも閉じた裂け目は開かない。

「幼稚なイタズラやめろや! クソボケが! ハゲえ!」

 激怒絶叫、ガッと一気に力を込めた瞬間、待ってましたとばかりにカズミが押さえ付ける手を離したものだから、突然扉が開いた感じに慶賀応芽はがくり前のめり、バランスを崩して転びそうになった。
 いや、転んだ。
 無様に、ばたんごろんと。
 スカートまくれて可愛らしい柄のパンツが丸見えになってしまった彼女、物凄い勢いで起き上がって、恥ずかしげに顔を赤らめながら裾を直すと、怒りの形相、大股で異空側へと入り込んだ。

「覚えとれや、このカスが!」

 沸騰しそうな凄まじい顔で、カズミを睨み付けた。

「な、なんのことでしょう応芽先輩っ。それより、派手に転んでいたようですがお怪我はなかったですかあ?」
「やかましいわ」
「それとも、実は味方をも騙すエリート様の崇高な作戦なのでありますか? わたしのような下層の者の目には、単なるバカのズッコケにしか見えなかったのですが」
「黙れ! やかましゆうとんのが聞こえへんのか!」
「うん、聞こえない。あ、間違った、聞こえへん」
「よお聞こえるよう耳の穴ァほじくり回してでっかくしたろか!」
「いてててて、なにすんだあ!」

 耳を掴まれ引っ張られたカズミは、痛みに悲鳴を上げつつ慶賀応芽の耳を掴んで引っ張り返した。

 と、そんなバカなことしている横で、アサキが真顔で、

「ヴァイスタが現れたんだよ! 遊びはそこまでにして、いくよみんな、変身だあっ!」

 リストフォン型変身アイテムであるクラフトを、胸の前に構え、叫んだ。

「なんでお前が仕切るんだあ!」

 ボガッ!

「あいたあっ!」

 悲鳴。
 カズミに頭をぶん殴られたのである。

「ご、ごめんなさあい。一度いってみたかっただけでえ……」

 頭をすりすり。
 痛覚の敏感なところを直撃されたようで、涙目のアサキである。

「誰の声掛けでもええじゃろ。ほいじゃあ変身しよか」

 治奈が、リストフォンを付けた左腕を振り上げた。

「でも治奈ちゃんのなんともほんわかした声が、安らぐからナルハは好きだなあ」

 などと軽口を叩きながら、成葉もリストフォンを振り上げた。
 カズミに、正香、殴られて涙目のアサキも続く。

 それぞれの全身が光り輝いて、白銀の布に身を包まれたかと思うと、下半身が折り返って黒いスパッツ状に変化する。
 全身に、軽くて頑丈そうな防具が装着されて、四肢末端にはグローブやスニーカー型の軽量シューズ、いつも通りの魔道着姿へと変身完了だ。

魔法使いマギマイスターはる!」

「魔法使いアサキ!」

「魔法使いせい!」

「魔法使いナルハ!」

 次々名乗りを上げていく彼女らの様子を、じっと見ている慶賀応芽であったが、やがてニヤリ唇を釣り上げると、

「ははあ、それが自分らの魔道着姿ってわけか。ま、サマになっとらんこともないな。……ほな、あたしも変身や!」

 大きな声を出しながら、両手を高く振り上げた。
 頭上で交差させた両手を、ゆっくり下ろし、胸の前でリストフォン側面にあるスイッチを押した。

 まばゆい光が、彼女の全身を覆った。
 その光にほろほろ流されるように、着ていた服が溶けて無くなったかと思うと、全身、首から下が黒い布地に覆われていた。

 黒い布地の、腕や太ももの外側、脇腹、胸、と赤いラインがすうっと走る。
 頭上に金属の塊がぐるぐる回っており、それがバラけて防具状になると、なおぐるぐる回転しながら胸、腰、肩、腕、足へと装着されていく。

 治奈たちが胸と脛と前腕だけを守る機動性重視の軽量防具なのに比べて、こちらは腰や二の腕まで覆う重装備。西洋騎士の甲冑を連想させるデザインである。

 と、妙に太い槍が宙から落ちてきて、慶賀応芽は分かっているのかまるで視線を動かすことなく手を伸ばし、柄を掴むと、ぶんぶんと振って、両手に構えた。
 騎槍ランス、馬上の騎士が決闘で使う特殊な槍である。

魔法使いマギマイスターおう!」

 槍を背中に回して、応芽はビシッとポーズを決めた。

「なあに関西人のくせにかっこつけて名乗ってんだよ関西人のくせに」

 妙なツッコミを入れるカズミ。

「しっかり名乗るんは変身ヒーローヒロインの決まりごとやろ。意気を高めるためにも重要やろ。つうか関西関係ないやん」
「なんか変わった魔道着だねえ、ウメにゃんの」

 成葉が肩の防具をつんつん突っ付いた。

「うっ、ウメにゃん?」

 びっくりと脱力の、半分半分のなんだか間抜けな顔。

「え、だってオウメでしょ?」
「せやけど……。まあええわ。……別に変わっとるってわけやないで、この魔道着。単に、令和二十二年製のロットというだけや。見習いとはいえ、幼い頃から魔道着を着て戦場に出ておったからな」

 ふふん、と年期の違いに自慢げな笑みを浮かべる慶賀応芽である。

「おいおい、そんな古ショボイので大丈夫なのかよ。ポンコツ過ぎてすぐ爆発すんじゃねえの? 破けて変なとこ見えちゃったりしたら、大声で笑っちゃうぞお」

 下品な茶々を入れるのは、もちろんカズミである。

「いらん心配や! しっかりファームの更新はかけとるから、基本性能はお前らのと同じや! ……さあて、美少女魔法使い応芽、いよいよ関東での初陣やでえ。ほなあ、おっ先にい!」

 慶賀応芽は、不敵な笑みを浮かべながら、ぐにゃぐにゃ歪んで見える異空の学校校舎屋上から、ひらりフェンスを飛び越えて宙へと躍り出た。

「あー、あーーっ、あいつ抜け駆けしやがってえ。くそ、あたしらも急ぐぞ!」

 後を追うようにカズミもひらり、フェンスを乗り越え屋上から飛び降りた。なにが美少女だああああああぁぁぁぁ、という叫びがどんどん小さくなる。

 成葉、正香、治奈も続く。

「急ぐぞもなにも、カズミちゃんがダラダラしてたんじゃないかあ」

 最後にアサキが、ぼやきつつ飛び降りた。
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