魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第十一章 至垂徳柳

01 天王台第三中学校の体育館は、全校生徒が集まっている

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 天王台第三中学校の体育館は、全校生徒が集まっているにもかかわらず、賑やかさなどは微塵もなく、むしろ、どんよりとした静けさに包まれていた。

 現在、臨時朝礼の最中である。
 壇上に、ぐちだいすけ校長が立って、生徒たちへ向けて話をしている。
 昨日に起きた、第三中学校の生徒が巻き込まれた事件についての話である。

 どのような事件であるかを考えれば、唾を飲む音も聞こえそうなこの静寂も当然と思うだろう。

 二年三組のへいなるが、狂犬の群れに襲われて、死亡した。
 同じく二年三組、おおとりせいが、行方不明。

 昨夜からテレビ、ネット、様々なメディアで報道されている。
 大鳥正香については、名前までは報道で公表されてはいないが。

 噛み殺された子と、同じクラスの生徒が現在行方不明。二人が直前に喧嘩していたらしいことから、殺人事件についてなんらかの関わりを持っている可能性があり、現在捜索中である。
 大鳥正香については、このような扱いだ。

 その行方不明の女子生徒が、野犬をけしかけたのでは。
 いや、単にショックで立ち去っただけでは。
 ならば、自殺している可能性も高いのではないか。
 各メディアでは、様々な憶測が飛び交っている。

 そうした情報のあること、みな知って理解した上で、校長の話を聞いているのである。

 校長の話は、とりたてて独創的なものでもなく、ある意味ひながた通りのものだ。

 まずは、事件の概要を説明。
 この中学から、このような被害者を出してしまったことを、責任者として謝罪。
 喧嘩と事件の繋がりなどまだ分からないが、残った生徒たちには、普段から悩みを相談しあうなどして抱え込まないように。
 と、このような話である。

 嘘ばかりだが。

 なにが起きたのか、真実を校長は知っている。
 知っていることを知っているから、全校生徒たちのちょうど真ん中あたりに立っているりようどうさきは、そんな嘘っぱちな話など全然聞いておらず、口をきゅっと結んで俯いていた。
 仕方ないのは分かっているが、話を聞いていても、不快で、腹が立つだけなので。

 しかしながら、というべきか、黙っていると当然ぐるぐる頭の中を回るのは、正香と成葉のことだ。

 いつも、穏やかな笑みを浮かべていた正香。
 いつも、無邪気にはしゃいで周囲を明るくしてくれた成葉。

 もう、その二人はこの世にいない。

 付き合いの長短など関係なく、彼女たちは自分にとって、かけがえのない親友だった。
 二人を失ったことは、どんなに泣いても泣き足りないくらいに悲しい。

 いつ自分を押さえられなくなって、発狂したように泣き叫んでしまうか分からないが、現在のところは、耐えることが出来ている。
 昨日、というよりも今朝までずっと大泣きをしており、涙が枯れ切った状態だからだろうか。
 おかげで、まぶたが真っ赤に腫れており、ひりひりしているが。

 アサキの代わりに、というわけではないが、周囲のところどころで、女子たちのすすり泣く声が聞こえている。
 毎日会っていた、言葉だってかわしたことのある生徒が、むごたらしい死を遂げたのだ。友達でなくたって、泣いて不思議はないだろう。

 ましてや、自分は親友と思っていたのならば、なおのこと。と、考えると、アサキは、自分が現在、ただ俯いているだけであることに対して、罪悪感さえ抱いてしまう。

 単に涙を流し過ぎて枯渇しただけならば、よいのだが、自分の、ある感情、ある気持ちが、涙の邪魔をしている気がして、それが後ろめたい。
 自分もいつか正香のように、ヴァイスタ化してしまうのではないか、という不安や恐怖だ。

 他人の心配だけをしていられない状況で、そのために同情心や悲しみが薄められているのでれば、ある意味でありがたくもあるものの、同時に申し訳なさや、腹立たしさを感じてしまうのだ。
 実際に亡くなったのは正香であり成葉であるというのに、そんな自分の勝手に。

 だん。
 背後で、床を蹴る音がした。
 見えていないが、おそらく、蹴ったのはカズミだ。

 悔しくて、悲しくて、といった押さえられない気持ちからの行動だろうが、アサキはなんだか、自分が責められたような気がして、肩を縮めた。

 アサキの正面、二人分前にはおうがいる。
 頭と肩が、少し見えているだけであるが、どのみち後ろ姿なので、表情などは分からない。

 どのような表情をしているのだろう。
 どのような気持ちでいるのだろう。
 カズミや治奈と同じように、仲間としてただ悲しいのか。
 それとも……

 昨日カズミが、隠し事をしていないかと、応芽を問い詰めていた。
 応芽は、なにも隠していないといっていたが、とにかくそうした件があったものだから、やっぱり意識はしてしまう。
 心から信頼しあう仲間であること、疑っていないが。
 ……言葉に矛盾のあることは承知ながら、本気でそう思う。

 壇上での、校長の長い話もようやく終わりである。
 黙祷の合図と共に、全生徒と教師はまぶたを閉じた。

 と、その時である。
 つうっ、とアサキの頬を涙が伝い落ちた。

 枯れては……いなかった。
 よかった……
 いや、よくはないけど。
 ごめん。
 正香ちゃん……
 成葉ちゃん……
 こんな、ことで。
 二人のために泣けることを、喜んでなんかいちゃあ、いけないんだけど。
 でも、
 でもっ、
 悲しくて、
 寂しくて、
 わたしは……

 一粒の涙がこぼれたことをきっかけに、様々な感情が錯綜し、そんな混乱の中、一つ一つの気持ちは本物で、そんな戸惑いの循環の中で、気が付けばアサキは、大声を上げ、泣き出してしまっていた。
 幼児のように、ただ感情のままに。

 周囲がざわつく中、枯れていなかった涙をボロボロこぼしながら、アサキはいつまでも泣き続けていた。
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