223 / 395
第十八章 明木史奈救出作戦
03 リビングの中央に置かれたテーブルの上、空間上に、コ
しおりを挟むリビングの中央に置かれたテーブルの上、空間上に、コンピュータ映像がくっきりと浮かんでいる。
最新の空間投影技術によって、コンピュータの平面画像を、どの角度からも同じように見ることが出来るのだ。
現在映し出されているのは、建造物の情報である。
リヒト、東京支部の。
フロアマップが左上。
右や下に、セキュリティシステムについてのデータが細かく記されている。
須黒美里先生が、手元の端末をタッチし、画面上のポインターを動かして、集まった三人の少女たちへと説明をしている。
「えっと、この部屋は、その渡したキーカードで簡単に開くはずだから。それと、こことここ、A通路とD通路、Aは警戒厳重だけど、魔法使いではなく一般の警備員だけだから、むしろこっちの方がいいと思う。それとこの……」
リヒト支部へと侵入し、明木史奈を救出するため、須黒先生が打ち立てた作戦。
その、落とし込みをしているところである。
すべて予定通りであることを想定したAプランは、完全隠密行動。
誰にも気付かれずに、史奈を救出する。
だが、なにを考えているのか分からない老獪な至垂徳柳が相手だ。
だから、
メインプランCとD、途中分岐のサブプランなどは、戦いになることも想定している。
カズミたち魔法使い同士でも話し合って、机上の論としてなら着々と、機に臨み変に応じる自信や心構えが出来つつあった。
ただ、やはり基本は、見付かることは厳禁。
とにかくAプランを進めることを努力しなければならない。
戦いも想定している、といっても、至垂の目的を考えると、絶望への駒である史奈をすぐに殺すとも考えにくい。そんな希望的観測からの判断に過ぎない。
例えば、もしも至垂が、侵入されたことに激高して打算勝算を無視した行動に出たならば、この救出作戦は、すべてが無に帰すかも知れないのだ。
ただそれは、現在でも同じこと。
なにがどうであれ最悪の結果になる、ということだって有り得るわけだが、それでは進まない。とにかく、自分たちのやることを信じるしかない。
「だいたい、こんなところかしら。全部、頭に入った?」
アサキ、治奈、カズミ、三人はこくり頷いた。
「……あの所長、以前から強引なところが色々と噂されていたけど、一応は善人面はしていた。ところが、ここ最近のあの態度。それどころか、こんな幼稚で下劣なことを、堂々と仕掛けてきて……もしかしたら、超ヴァイスタや、『絶対世界『』の、なにかを掴んだのかも知れないわね」
「なにか、って」
アサキがおずおずと尋ねる。
「さあ。超ヴァイスタを作るためのあと一押しがなんなのか、確信を得たとか。分からないけど」
「一押し……確信……」
ごくり。
アサキは唾を飲んだ。
飲んだけど、まだなにか引っ掛かっている感じがして、不快な顔でもう一回、飲み込む唾もないのにごくり喉を動かした。
そうかどうかは分からない、といっているにも関わらず、須黒先生の言葉が重くのしかかっていたのである。
無理もないだろう。
至垂が考えている超ヴァイスタの素体とは、すなわちアサキのことなのだから。
ヴァイスタになる気など毛頭ないとはいえ、至垂がその気でいることに違いはない。だって、本人がアサキに面と向かって、そう宣言しているのだから。
「もしかしたらね。その一押しを確実にするため、今回のようなことをして、こちらの心を乱そうとしているのかもね。……だから本当はね、令堂さんは行かない方がよいのかも知れない。でも、いざという時に、令堂さんほど頼りになる戦力はないし」
「ここで待ってるだけの方が気が狂います。大丈夫です。わたし、なにがあろうとも超ヴァイスタなんかには、絶対になりませんから。仕掛けてくる絶望なんか振り払って、必ず希望を掴んで、帰ってきますから」
アサキは膝の上で、ぎゅっと両の拳を握り、強気なのか弱気なのか自分でも分かっていない微妙な笑みを浮かべた。
「今の先生の言葉だけど……アサキさ、お前の力を借りたいのは山々なんだけど、やっぱりここに残った方がいいんじゃねえのか」
カズミが困惑の浮かんだ申し訳なさそうな顔で、アサキへと提案する。
「いったでしょ。その方が気がおかしくなっちゃうよ」
「分かった。……もしもお前が、野郎の思惑にはまって、ヴァイスタだなんだの、そんなのになりかかったら、あたしは容赦しない。躊躇いなくぶった斬って、昇天させるからな」
「その時は、お願い。……ならないけどね」
笑った。
カズミもつられて苦笑し、アサキの肩を軽く叩いた。
「なっても意外と無害な気がするよ。バカ過ぎて」
「ならないってば! ……だからみんなで、力を合わせて、必ずフミちゃんを助けよう」
「だな。そして、至垂のクソ野郎を、顔面がマタンゴになるくらいにボッコボコに殴ってやる」
そう。
作戦は、史奈を助け出すだけではない。
それだけでは、まったく意味がないのだ。
単純な話、至垂がまた同じことをする。
より慎重に、狡猾に、大胆に、悪質に。
対するアサキたちは、一個人。
普通の生活を行わなければならないわけで、持久戦では不利に決まっている。
一気に、勝負を決するしかないのだ。
史奈を助け出して、とりあえずの後顧の憂いを断ったならば、そのまま電光石火で至垂の身柄を拘束する。
そして、幹部に対して、これまでの悪事を白状させるのだ。
おそらくこれまでのことは、至垂個人の暴走であろうから。
ゲーム世界の魔王軍ではあるまいし、そうそう悪の組織など作れるはずがないのだ。
幹部が至垂しだれの飼い犬である可能性も、否定は出来ない。だが、全員ということもないだろうし、少なくとも一枚岩ではないだろう。
希望的観測の多分に交じる考えではあるが、協力者が誰もいないなどということは、ないはずだ。
「あそこ、土地が物理的に『扉』に近いから、常に注意をしてね。なにを利用して、どう仕掛けてくるのか、まったく分からないから」
須黒先生のいう「扉」とは、本州の半分を使った超巨大な五芒星の、中心地のことだ。
そこには霊的な作用の凝縮した力場が存在しており、真実の世界へと繋がる場所であるとされている。
そこへヴァイスタが辿り着くことにより、「新しい世界」という現象が生じ、この時空は消滅する。
歪んだ世界そのものが、やり直しを願うためだ。
だがそれは、本来の「新しい世界」ではない。
導き手がいないため、世界が滅ぶのだ。
超ヴァイスタがそこへ辿り着いた時に、導き手となって、本来の「新しい世界」である、「絶対世界」への道が開かれる。
そのような霊的場の、物理的座標が東京都、平将門の首塚のある大神社の地下。リヒト東京支部の、すぐ近くなのである。
「もちろん注意しますよ。至垂のクソ野郎に、ほくそ笑まれるのも癪ですからね。……向こうのセキュリティも、対策も分かったし、作戦も立てたし、そんじゃちょっくら行ってこようぜ! アサキ、治奈!」
カズミは立ち上がると、ぶんっと右拳を突き出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる