魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第十八章 明木史奈救出作戦

03 リビングの中央に置かれたテーブルの上、空間上に、コ

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 リビングの中央に置かれたテーブルの上、空間上に、コンピュータ映像がくっきりと浮かんでいる。

 最新の空間投影技術によって、コンピュータの平面画像を、どの角度からも同じように見ることが出来るのだ。

 現在映し出されているのは、建造物の情報である。
 リヒト、東京支部の。

 フロアマップが左上。
 右や下に、セキュリティシステムについてのデータが細かく記されている。

 ぐろさと先生が、手元の端末をタッチし、画面上のポインターを動かして、集まった三人の少女たちへと説明をしている。

「えっと、この部屋は、その渡したキーカードで簡単に開くはずだから。それと、こことここ、A通路とD通路、Aは警戒厳重だけど、魔法使いマギマイスターではなく一般の警備員だけだから、むしろこっちの方がいいと思う。それとこの……」

 リヒト支部へと侵入し、あきらふみを救出するため、須黒先生が打ち立てた作戦。
 その、落とし込みをしているところである。

 すべて予定通りであることを想定したAプランは、完全隠密行動。
 誰にも気付かれずに、史奈を救出する。

 だが、なにを考えているのか分からない老獪なだれとくゆうが相手だ。
 だから、
 メインプランCとD、途中分岐のサブプランなどは、戦いになることも想定している。

 カズミたち魔法使い同士でも話し合って、机上の論としてなら着々と、機に臨み変に応じる自信や心構えが出来つつあった。

 ただ、やはり基本は、見付かることは厳禁。
 とにかくAプランを進めることを努力しなければならない。

 戦いも想定している、といっても、だれの目的を考えると、絶望への駒である史奈をすぐに殺すとも考えにくい。そんな希望的観測からの判断に過ぎない。
 例えば、もしもだれが、侵入されたことに激高して打算勝算を無視した行動に出たならば、この救出作戦は、すべてが無に帰すかも知れないのだ。

 ただそれは、現在でも同じこと。
 なにがどうであれ最悪の結果になる、ということだって有り得るわけだが、それでは進まない。とにかく、自分たちのやることを信じるしかない。

「だいたい、こんなところかしら。全部、頭に入った?」

 アサキ、治奈、カズミ、三人はこくり頷いた。

「……あの所長、以前から強引なところが色々と噂されていたけど、一応は善人面はしていた。ところが、ここ最近のあの態度。それどころか、こんな幼稚で下劣なことを、堂々と仕掛けてきて……もしかしたら、オルトヴァイスタや、『絶対世界ヴアールハイト『』の、なにかを掴んだのかも知れないわね」
「なにか、って」

 アサキがおずおずと尋ねる。

「さあ。オルトヴァイスタを作るためのあと一押しがなんなのか、確信を得たとか。分からないけど」
「一押し……確信……」

 ごくり。
 アサキは唾を飲んだ。
 飲んだけど、まだなにか引っ掛かっている感じがして、不快な顔でもう一回、飲み込む唾もないのにごくり喉を動かした。

 そうかどうかは分からない、といっているにも関わらず、須黒先生の言葉が重くのしかかっていたのである。

 無理もないだろう。
 だれが考えているオルトヴァイスタの素体とは、すなわちアサキのことなのだから。
 ヴァイスタになる気など毛頭ないとはいえ、だれがその気でいることに違いはない。だって、本人がアサキに面と向かって、そう宣言しているのだから。

「もしかしたらね。その一押しを確実にするため、今回のようなことをして、こちらの心を乱そうとしているのかもね。……だから本当はね、令堂さんは行かない方がよいのかも知れない。でも、いざという時に、令堂さんほど頼りになる戦力はないし」
「ここで待ってるだけの方が気が狂います。大丈夫です。わたし、なにがあろうともオルトヴァイスタなんかには、絶対になりませんから。仕掛けてくる絶望なんか振り払って、必ず希望を掴んで、帰ってきますから」

 アサキは膝の上で、ぎゅっと両の拳を握り、強気なのか弱気なのか自分でも分かっていない微妙な笑みを浮かべた。

「今の先生の言葉だけど……アサキさ、お前の力を借りたいのは山々なんだけど、やっぱりここに残った方がいいんじゃねえのか」

 カズミが困惑の浮かんだ申し訳なさそうな顔で、アサキへと提案する。

「いったでしょ。その方が気がおかしくなっちゃうよ」
「分かった。……もしもお前が、野郎の思惑にはまって、ヴァイスタだなんだの、そんなのになりかかったら、あたしは容赦しない。躊躇いなくぶった斬って、昇天させるからな」
「その時は、お願い。……ならないけどね」

 笑った。
 カズミもつられて苦笑し、アサキの肩を軽く叩いた。

「なっても意外と無害な気がするよ。バカ過ぎて」
「ならないってば! ……だからみんなで、力を合わせて、必ずフミちゃんを助けよう」
「だな。そして、だれのクソ野郎を、顔面がマタンゴになるくらいにボッコボコに殴ってやる」

 そう。
 作戦は、史奈を助け出すだけではない。
 それだけでは、まったく意味がないのだ。

 単純な話、だれがまた同じことをする。
 より慎重に、狡猾に、大胆に、悪質に。

 対するアサキたちは、一個人。
 普通の生活を行わなければならないわけで、持久戦では不利に決まっている。

 一気に、勝負を決するしかないのだ。
 史奈を助け出して、とりあえずの後顧の憂いを断ったならば、そのまま電光石火でだれの身柄を拘束する。

 そして、幹部に対して、これまでの悪事を白状させるのだ。
 おそらくこれまでのことは、だれ個人の暴走であろうから。

 ゲーム世界の魔王軍ではあるまいし、そうそう悪の組織など作れるはずがないのだ。

 幹部がだれしだれの飼い犬である可能性も、否定は出来ない。だが、全員ということもないだろうし、少なくとも一枚岩ではないだろう。

 希望的観測の多分に交じる考えではあるが、協力者が誰もいないなどということは、ないはずだ。

「あそこ、土地が物理的に『扉』に近いから、常に注意をしてね。なにを利用して、どう仕掛けてくるのか、まったく分からないから」

 須黒先生のいう「扉」とは、本州の半分を使った超巨大な五芒星の、中心地のことだ。
 そこには霊的な作用の凝縮した力場が存在しており、真実の世界へと繋がる場所であるとされている。

 そこへヴァイスタが辿り着くことにより、「新しい世界ヌーベルヴアーグ」という現象が生じ、この時空は消滅する。
 歪んだ世界そのものが、やり直しを願うためだ。

 だがそれは、本来の「新しい世界」ではない。
 導き手がいないため、世界が滅ぶのだ。

 オルトヴァイスタがそこへ辿り着いた時に、導き手となって、本来の「新しい世界」である、「絶対世界ヴアールハイト」への道が開かれる。
 そのような霊的場の、物理的座標が東京都、たいらのまさかどの首塚のある大神社の地下。リヒト東京支部の、すぐ近くなのである。

「もちろん注意しますよ。だれのクソ野郎に、ほくそ笑まれるのも癪ですからね。……向こうのセキュリティも、対策も分かったし、作戦も立てたし、そんじゃちょっくら行ってこようぜ! アサキ、治奈!」

 カズミは立ち上がると、ぶんっと右拳を突き出した。
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