魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第三十一章 なにが、出来るのかな

02 「この雲みたいなコンピュータの中にある、あたしたち

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「この雲みたいなコンピュータの中にある、あたしたちにとっての宇宙や、地球を、こっち世界から好き勝手にいじくれるっつーなら、そりゃあ神だよな。全能どころじゃない」

 話の大きさ故か、現実感と非現実感に挟まれた、ちょっと他人事っぽい笑みを、カズミは浮かべた。

「機械の作り出した、疑似現実ですからね。全人類すべてを、窒息させつつ生かすという、攻め苦を味合わせることだって出来る。五感のない、意識だけの状態で、永遠を生かすことだって出来る」

 白い衣装を着たブロンド髪の少女が、おだやかな顔でさらり物騒なことをいう。

「怖いこというなよ! それ死んで無になった方がマシってレベルだぞ!」
「疑似因果の配列や複合関数を書き変えさえすれば、そういう設定も可能というだけです。実際には、なんでもかんでも好きに出来るわけではない。陽子配列に基づいた実際の生物が生きて行くことを前提に、仮想世界は作られていますから、無意味に残酷なことなど仕組まれてはいませんよ。単なる、もう一つの現実というだけです」
「その仮想世界の中で、本当だったら時間をジャンジャカ早送りさせて、ジャンジャカ未来に進めて、宇宙の生命を延ばすための科学技術を、生み出して貰おうとしていたってわけだ」
「そうですね。さらに、今回の世界には魔法があり、それによって選択肢が加わりました」
「魔法による奇跡で、宇宙を存続させること、だね」

 アサキが、言葉を割り込ませた。

「はい。ただし、強大な魔法使いであればよいというわけではない。宇宙を操作するには、物理法則のみならず、次元転換法則のみならず、もっと踏み込んだかつ膨大な領域の、ことごとくを寸分の狂いなく捻じ曲げなければならない。最低それくらい出来なければ、宇宙空間の因果律など変えられるはずがない。簡単にいって、絶対神を作る必要があるんです」
「絶対神?」
「はい。自然発生した、かつて地球の人類が考えていたような神の概念でもよいですが、そうでなくとも構いません。要するに、世界はすべて科学ですから」
「え、どういう、こと?」

 話が分からなくってきて、おもわずアサキはきょとんとしてしまう。

「ロケット、人工天体、反応素子のゼロイチ概念、などだけが科学ではない。神がいる、悪魔がいる、魔王がいる、魔法がある、神獣がいる、霊魂がある、それが本当にあるというのならば、等しくみな科学なんです。最終的に、左と右が等号で結ばれていればよいのです。因果が合えばよいのです」
「あ、あの、ヴァイスちゃん、ごめん、いってることの……」
「どうであれ、ただ神でありさえすれば良い、ということです」
「どうであれ、神で……」
「はい。この惑星の管理者という意味の『神』とは別に、神という概念を完璧に備えた神であればよい」

 白い衣装の少女が語るのを、アサキは口をぽかんと半開きにして聞いている。
 見ると、治奈もカズミもおんなじ顔だ。さもあろう。

「そうした神を作り上げるための陽子配列式は、まったくの不明であり、研究解析には無限に近い時間が掛かるかも知れない。といった、霊的な仮想地球が生まれ、現実世界を影響させていく可能性も考慮して、余裕を持たせるため十五基もの人工惑星を作ったのです。古代地球の、科学者たちは。でも……」
「結局、この一基しか、残らなかった」
「はい。先ほどお話をした、時送りの不具合のため。……結果、現実と時を同期せざるを得なくなり、地球を育てるという一回の実験の都度、膨大な時間を使うことになった。もう宇宙の寿命は、あと八十億年ほどしか残されていない」

 先ほども、同じような説明を聞いた。

 やっぱり話は真実で、いまいるここが、現実の世界なのだろうな。
 と、アサキはいまさらながらに思っていた。

 問題が切実であることも、なんとなく実感が沸いてきた。

 八十億年、回答を導くに充分過ぎる時間に思えなくもない。
 でも、仮想地球を使ってのテストがあと一回しか出来ないことを考えれば、確かに絶望的なことなのかも知れない。
 自分の世界もテストの中の一回だったと思うと、面白い気持ちではないが、ここでそれをいっても始まらない。

 なにが、出来るのだろうか。
 わたしに。
 いや、わたしたちに。

 なにが、出来るのだろうか。
 この、ほとんど死んだような、
 この、現実の世界で。

「なあ、誰かの、声、聞こえない?」

 カズミの言葉に、アサキは、はっと顔を上げた。
 確かに、なにか、聞こえる。
 聞こえるといっても、空気のない世界であり、鼓膜が捉えているわけではない。
 でも確かに、なにかが、誰かの声が、聞こえている。

 治奈も気付いているようで、しきりに周囲を見回している。

 お姉、ちゃん……

 聞こえた。
 はっきりと。
 アサキの頭の中に、確かにそう声が反響した。
 お姉ちゃん、と。

「フミ、フミの声じゃ!」

 治奈が叫ぶ。
 やはり彼女にも、聞こえていたのだ。

 あきらふみ、治奈の妹の、声が。
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