転生勇者観察日記~不器用最強勇者を飼うことになりました~

常に眠い猫

文字の大きさ
2 / 20
始まりの章「勇者観察日記その1勇者の扱い方」

プロローグ2「自称最強勇者の目覚め」

しおりを挟む
転生勇者観察日記。


20xx年某月某日

 昨日あの男を拾ってから一夜が過ぎた。
 いったい何をやっているのだろうと自分でも思う。
 警察に届け出るのが当たり前だろうか。
 しかし、彼が起きればどこから来たのかわかる。そうなったあとで家まで送り届ければ万事解決だろう。
 (略)
 とにかく、彼の目が醒めるのをおとなしく待とう。




20xx年某月某日

 現在時刻夜の9時。
 昨日も今日も、彼が起きてくる気配はない。
 拾ってきた日に体を見てみたけど、目立った傷は何一つだってなかった。
 あれだけの血が付いているのだし、吐血までしていたのだから、怪我でもしているのかとは思ったが、見当違いだったようだ。
 しかしなぜか目覚めない。
 何か病気を持っているのだろうか。
 このまま目覚めなかったら素直に警察に届出よう。
 (略)
 とにかく、明日。明日まで待って、起きないようなら警察に届け出る。
 その前に起きてくれればいいけれど。




###############


 そこは混沌だった。
 何もない、何もいない、何も見えないし聞こえない。
 自分という概念すら消え失せ、ただそこにあるだけのものとかした私がいた。
 視界は闇に包まれていた。
 いや、何色であって何色でもない。
 もちろん黒でもなければ白でもなく、闇でもなければ光でもない、そんな場所。
 そんな混沌とした世界で彼女は何かを耳にした。
 それは音のようで、声のようだった。
 けれどそれを確認する前に、意識は浮上した。



###############

まぶたの裏にまで届くほどの光で、クルミは目覚めた。
 カーテンの隙間から入り込む朝日が、クルミの目をダイレクトアタックしている。
 眩しい。
 クルミはたまらず寝返りを打ち、朝日から逃れた。
「ぬ?起きられたのかご婦人」
 どこかから声が聞こえ、クルミは寝ぼけながら返答。
「んーもう2日は寝させてくださいぃ~。眠くて死にそうなのぉ~」
 そう言いながら寒さに身震いして布団をかぶる。
 とにかく眠い、眠たい眠くて死ぬ。
「ふむ、ご婦人は朝に弱いとみた。しかし、そんなに寝てしまっては人間だらけてしまいますぞ?」
「んぅ~関係ないでしょ~。とにかく私は寝るの」
 そこまで来て、クルミの頭はほんの少しはっきりし、同時に今自分が誰と話しているのかにようやく思考がいく。
「ふむ、困ったものだ。これでは礼の一つも」
「ふぁぁっ!!」
「ぬん?」
 クルミは今誰と話しているのか思考が結論に追いつき、たまらず飛び起きた。
 その際に変な声が出たのは、なぜそんなことに気づかなかったのかと言う自分への怒りと、なぜこの人がこの部屋にいるのかという混乱から発されたものだ。
 そして素直なクルミはそれを隠さない。
「なんであなたが私の部屋にいるんですか!びっくりするじゃないですか!あぁなんで私も気づかないかなぁ!」
「それは申し訳ないと思うが、ご婦人が私を助けてくれたのであれば礼を欠くことなどしたくはない。ゆえに礼をしに来たのだが返事がなかった故、何かあったのではないかと中に入らせてもらった。何事もなくてよかったのだがご婦人、今のだらけぶりは少々」
「うるさい!」
 ベッドの横、椅子に腰をかけた男は、それはそれは姿勢はよく、真顔でクルミの醜態を窘めようとした口をぴしゃりと黙らせた。
 そのままの勢いでクルミは畳み掛ける。
「女の子の部屋に入る時はノック!返事がなければ入らない!これは常識中の常識でしょう!?それともあなたは恩人の寝込みを襲いに来たわけ!?」
「決してそんなことはない」
 フカー!と猫のように警戒をあらわにするクルミに、起きてきた男はきっぱりとした口調で言い切った。
 その言葉と、少しの迫力にクルミはおし黙る。
 怒ったように聞こえたような気がして、クルミは少しばかりやりすぎたかと思い始めた時、男は瞑目していった。
「あなたは私を助けてくれた。あれほどの血を流した私を。いわばご婦人、あなたは私の命の恩人だ。そんな方に無礼や不敬を働くつもりは毛頭ない。しかし、ご婦人が不快に思ったのなら、申し訳なかった」
 そう言って深々と頭を下げた。
 これにはクルミも驚き、慌てて手を振る。
「あ、いや、こちらこそごめんなさい。突然怒ったりして!なので頭をあげてください」
 そう言って方に手を置き、頭をあげさせようとする、が。
 、、、、、重い!?
 彼は頭を上げる様子もなければ、こちらが上げようとしても、その肩はビクともしなかった。
 え??なんで機械のロボットみたいに動かないの??
 そんなことで狼狽してるクルミの心の内を知らず、男は顔を上げた。
「ありがたきお言葉です」
 そうして嬉しそうににこりと微笑んだ。
 あ、よく見るとイケメン君?
 ここ数日はまともに顔を見ていなかったし、それに寝ている人間の顔をジロジロ見るクルミではない。拾った日もいろいろごたついててじっくり見ることはなかったのだが、こうしてみると男は意外に好青年だった。
 短髪の髪に、少し体育会系な雰囲気がありながら、その目元は優しげで、目の色は
「あれ、あなたの目、、、」
 クルミはそれに気づいて少し近づいた。
「え?」
 男はなんのことかわからないのか、首をかしげる。
 クルミは至近距離にまで近づいて、ベッドの上で膝立ちになった。
 どうしてか吸い込まれそうな感覚。
 クルミは無意識に男の目の前にまで迫り、両手で男の頭を掴み上を向かせた。
 そうすると、瞳がよく見える。
 その色は普通の人たちとは違う
「赤、青、黄色、白、あなたの目って色が変わるのね」
 そう、それは二つに分離した水に色をつけたかのような感じで、瞳の色がゆらゆら揺れている。
 左が赤と黄色、右が青と白という組み合わせだ。
「っ!?」
 クルミの言葉に、男は体を硬直させ、目を見開いた。
 その様子にクルミは気づいていないのか、ただひたすらその瞳を見つめる。
 あ、これはよく見える。
 そんな場違いな喜びをもって、クルミは見つめていた。
 二つの色が、二つの目の中で揺らめく。
 それが差し込む朝日によってまるで宝石の粒が混ざり合うことなくその中で揺れているような幻想的な光景。
 ほう、とクルミはたまらず息を吐き出した。
「すごい、、、、綺麗」
「なっ」
 クルミは幸せそうに呟いて、微笑んだ。
 こんなに綺麗なものがあったとは知らなかった。なんて人生損をしていたのだろう。
 そんなことまで考えてしまうほどだ。
 男は固まったまま動かない。
 ユラユラユラリと揺れるその瞳の色を見ていたクルミは、男が完全に硬直してしまっているのに今更ながらに気づき、そして自分が失礼なことをしていたことにも気づいて慌てて飛び退った。
「あ!ご、ごめんなさい!あなたの瞳が綺麗すぎてつい!」
「あ、いや、大丈夫だ。きにしなくていい」
 わ、私何してるんだろう!恥ずかしいい!
「い、いえいえ!それでも、す、すいませんっ!」
 そう言って赤面しているであろう顔を隠すため、クルミは顔を伏せた。
 わ、わぁぁ失礼極まりないことしたぁ!
「ありがとう」
「え?」
 男の方から何か聞こえた気がして顎を挙げる。
 するとさっきまで美しかった瞳は、一般的は色になっていて、クルミは少し残念だと思った。
「目の色、あれ?黒?」
「いつもは隠していたんだが、何かの拍子で術が取れたらしい。見苦しいものを見せてしまった」
「そんなことないです!すごく、すごくすごく綺麗でした!隠すのもったいないくらい!」
「いえ、この瞳は少々訳あり故、晒して歩くわけにはいかぬのです」
「そうなんですか?」
 クルミが首をかしげると、男は少し表情を暗くして
「そうなのですよ」
 そう言った。
 何か事情があるのだろうか。
 しかし、今の様子だとただならぬ事情のようで、クルミはそれに突っ込むのはやめた。
「そういえば自己紹介がまだだったな」
「あ、そうですね」



「私は世界唯一最強で最高峰の『勇者』の称号を受け継いできた名家の当主であり、魔王を打ち倒した唯一の勇者、アルカイト・カイメル・メイルース。カルクと呼んでくれ」


「は?」


こうしてクルミは望まずして、自称最強勇者と出会う運びとなりましたとさ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...