転生勇者観察日記~不器用最強勇者を飼うことになりました~

常に眠い猫

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第1章「最強勇者観察日記1冊目」

観察日記6「青空の下」短い

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「なんというか、いろいろ起こりすぎて、何が何やら」
 嵐のようなクリスが家を去って、静まり返ったリビングの机の上で、くるみは項垂れながらそう言った。。
「アカメの腕力もそうだけど、研究の成果って何?このネックレスをつければ大人しくなるとかいうの?」
 このネックレスに何があるのか。あの人は一体何を研究していたのか。何より。
「おじさんが、なぜこれを渡すように頼んだのか、分からないのよね」
 なんだろう、頭は巡っているはずなのに、考えがまとまらない。クルミは一旦考えるのをやめ、アカメにそのアクセサリーを手渡した。
「取り合えずこれは渡しておく」
 差し出されたそれをアカメは受け取り。
「ん?クルミ?どうした?」
 それを握った際、なにかに気づいたようにそう言って、クルミの顔をのぞきこむ。
「え?なに?」
「顔色が悪いぞ。何かあったのか?」
「何かって、何もないよ。強いて言うならクリス?さんがちょっと刺激的だったなと」
 あのクリスという女のせいなのか、ドット体に疲れが出て、クルミは深いため息をつく。
 すると、とたんに体の力が抜け、どんと体が重くなるのを感じた。
 あぁ。とんでもなくだるい。
「あいつには、また話を聞かねばなるまい」
 机に頬をくっつけて、目をつぶっていたクルミの耳に、やけに真剣なアカメの声が聞こえ、首を巡らせる。
「あれ、似合ってるじゃない」
 すると視界に移ったのは、先ほどのイヤリングをつけたアカメが、クルミを見下ろしてる姿だった。
「ふむ。何やらむず痒い感覚はあるが、まぁ、悪くはない。それよりクルミ。どうかしたのか?」
「どうかって?何もないよ?」
「何も無いことはないだろう?」
 首を傾げるクルミに、アカメは困ったように眉を寄せながら顔を近づけてくる。
 整った顔立ちと綺麗な瞳が急接近してきて、クルミはつい身をそる。
「え?ちょ、アカメ?」
「ふむ、顔が赤い。その上息も少々荒い」
 近づいた顔の距離わずか数センチ。
「あ、アカメ、近いってばもうっ」
 そう言って椅子から立ち上がり、数歩後ずさって距離をとる。
 すると。
「あれ?」
 突然世界がグニャりと歪み、次の瞬間視界が暗転した。
「クルミ!」
 あれ、なに、、、これ。
 声を上げるアカメの声を聞きながら、クルミの視界は暗転した。


###############



「ああ!なんてことだ!」

 とある高層ビルの一室で、やけに芝居がかった声が部屋の中に響いた。
 その声の主は大仰に頭を抱え、今しがた戻ってきた部屋の奥にある大きな椅子に、ガタンッと音を立てて座り込む。
「いや結果的には悪くは無いのだが、まさかグランス氏がクルミの家に行くなんて予想外だいや有り得たのか?イヤしかし」
 そう悶絶に近い様子で頭を抱えたまま、大きな机の上に突っ伏す。
 その様子からは膨大企業の社長であるはずの貫禄が欠片も見られない。
「まぁまぁ社長、まずはお茶でも飲んで落ち着いてくださいな」
 そこに一緒に帰ってきた陸元が、お茶を用意しながら苦笑して言った。
「ううう」
「はい、どうぞ」
 うなり始めた社長の前に、コトンと緑茶を出す。
「あ、あぁ。ありがとう」
 それで少し冷静さを取り戻したであろう男、クルミの叔父上は、一気に飲み干すと湯のみをコトンと机に置き、背もたれに寄りかかった。
「、、、なぜ家にまで押しかけたのか」
「なにか理由があるのでしょう」
「私の見立てでは君に問題があったと思うんだがなぁ?」
「う」
「はぁ。あの子が何も気づかなければいいのだがな」
 そうしてため息をつく。
 あの子は時々恐ろしいくらいにさといところを見せる事がある。
 それは初めてあった時からずっとそうだった。
「、、、気づかなければいいのだが」
 そうして目を伏せる。
 まだあの子に教える時ではない。まだ、そう今はまだ。
「大丈夫でしょう。いくらクルミちゃんとは言え、私たちの秘密があんな事・・・・だなんて、思いもよらないと思われますよ」
「その言い回しだと、随分な悪役をやってる気分になるんだか?」
「失礼いたしました。違いますね」
 そんな会話をしながら、美優はお盆を脇に抱えて部屋を出ようと、扉にてをかける。

――コンコン、、、。

 扉に手をかけたのと同時に、ノックの音が響いた。続いてガチャというドアノブが回された音がして
「おっと」
 美優は慌てて手を離し、数歩後ずさって、扉を開けた主を出迎えた。
「どうもこんにちは」
 その来訪者に、二人はまゆをしかめた。






###############




 小さい頃、クルミは母親にくうちゃんと呼ばれていた。
 物心ついた時には既に父親の姿はなく、事故でなくなったことだけを聞かされた。
 クルミは嫌いなものが少なかった。
 食べ物も、玩具も、人に対しても。
 好き嫌いが少なく、誰に対しても態度を変えなかった。
 そんなクルミを母親は一度だけ叱ったことがある。
 最低限あって叱るべき、区別というものにかけていたからだ。
 何でもかんでも手を出し、何に対しても見境のない姿を見て、母は危機感を感じたのだという。
『いい?クウちゃん?何でもかんでもやればいい、やってもいいなんてことは、この世にはないのよ?きちんと我慢するところはして、しちゃいけないことはしない。自分が関わると危ないなって思うことには手を出さない。じゃないと、くうちゃんはいつか危ない目に遭っちゃうからね?』
 幼いながら、その言葉の中に、母の気心がつまりに詰まっていたのを感じ取って、クルミは静かにうなづいたのを覚えている。

 そんな母が生きていたら、今の私をどう思うのだろうか。




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