転生勇者観察日記~不器用最強勇者を飼うことになりました~

常に眠い猫

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第1章「最強勇者観察日記1冊目」

観察日記7「青空の下」2しょーと

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 お母さん?
 静かな闇の中に沈み込む視界に、僅かな人影が浮かび上がる。
 ぼんやりとしすぎていて、はっきり見えない。いくら目を凝らしても、それが誰なのかわからない。
 だ、、れ、、?
 なんだろうか。不思議な感覚が体を支配する。
 言葉にはしがたいそれは、何かをつかむまもなく、闇の中へと溶けて消えていった。

 代わりに誰かの声が耳に入る。
 なんだかたくましい声で呼んでいるような。
「、、、!く、、み!?」
 聞き覚えのある声に、思考がめぐり出す。
「大丈、、、るみ!?」
 あ、この声は

「クルミ!しっかりしろ!」

 ゆっくりと重たいまぶたを開けると、心配そうなアカメがこちらを見下ろしていた。
「あぁ、アカメ。どうしたの?そんなに大声出して」
「どうしたはこっちのセリフだ。突然倒れるから何事かと思ったぞ」
 倒れた?あー、そういえば背中に床の感触が。
「あー、大丈夫だよ。たいしたことな、いっ」
 そう言いながら体を起こすと、予想以上に重たい体に驚愕する。
 なにこれ、重。頭もズキズキするし、何よりめまいがひどい。
「クルミやめろ。もう少しそこで横になれ。状態を見る」
 そう言ってアカメはその場にクルミを寝かせ、おでこに手をそっと載せた。
 あ、冷たくて気持ちがいい。
 アカメの手ってすごく大きいなぁ。おでこなんてすっぽり手のひらの中だ。
「暑いな」
 そんなことを考えてウトウトしてると、アカメがボソリと呟いた。
「熱病か」
「ねつ、びょう?」
「あぁ。だがまだ軽い上に、これなら薬を飲んで安静にしていればすぐに治るだろう」
 熱病。風邪のことだろうか。
 あぁあたし風邪ひいちゃったのかァ。
 どうしようかな。ご飯作らなきゃなのに。
「ともかくベッドに連れていくから、大人しく寝てろ。俺のことは気にしなくていい」
 そんな声が聞こえた直後、体がふわっと浮き上がる。
 脇の下と足にたくましい腕の感覚があって、遅れながらもお姫様だっこされていることに気づく。
 これは気持ちいいな。
 リズムよく揺れる体に、頼もしい腕と、大きな肩にくるみは知らぬ間に安心感を得ていた。
 これは寝れるかもしれん。
 そう思いはするものの、流石にそれはと顔を上げる。
 すると視界にダイレクトにアカメの顔がアップに写っていて、その瞳がくるみの目に入った。
 そういえば目の色、この人確か違うんだよね。
 アカメが目覚めた初日のことを思い出し、じいっと見つめる。
 あれ、すごく綺麗だったんだよな。オッドアイ?なのかな?
 でもあれは一色づつだったし、アカメは合計4色。
 また調べてみるのもいいかな?
 にしても綺麗だったなぁ。もう一回見られないかな?
「ん?どうした?クルミ」
 ぐるぐると考えながら終始アカメの瞳を見つめていたクルミに、不思議に思った彼から声がかかる。
 少し居心地が悪かったのか、困ったような顔をしている。
 その瞳は普通の人と変わらないブラウン。
 もう一度と。そこで願望が沸き上がる。
 すると気づかずにくるみはアカメの頬に手をやっていた。
「クルミ?」
「アカメ」
 そう囁いて静かに頬を撫でる。
 その親指で目の下をなぞり、そっと目を細め。
「ねぇ、もう一度見せて。宝石の瞳」
 そう囁いた。
「っ!?」
 あまりにも予想外だったのか、アカメが固まる。
 その瞳は見開かれ、驚愕と動揺に揺れ動き、クルミを見つめた。
 そういえば前もこんな反応を見せた。
 何か、辛い過去があるのだろうか。
 そうだとしたら、今私がやっているのは。
 そこまで考えたところで、アカメがずっと目をそらした。
「っ。ごめんね。無理ならべつに」
「見たいのか?」
「え?」
 突然の問いかけに、クルミはキョトンとする。
「なぜ、そんなに見たがる」
 続いてかけられた問いかけの声に、少しだけ硬い印象を受け、これは間違えたかなと後悔が押し寄せる。
 いつの間にかアカメの足は止まっていた。
「綺麗、だったから。まるで宝石のようで、すごくキラキラしてて、本当に、すごく、綺麗だった」
 正直にそう話し、アカメの顔を伺おうとするが、顔は私の視界に入らない角度で背けられていて、イマイチ分からない。
 怒らせてしまっただろうか。
「そう、か」
 そういったっきり、アカメは黙ってしまう。
 何だかほんとにいたたまれなくなって。ゴメンナサイと口を開こうとした時。
「クルミなら」
 ボソリという声に遮られ、言葉を詰める。
 そしてアカメが目を閉じたままこちらに顔を向け。
「クルミなら、問題は無いだろう」



 そう言って、アカメは静かに目を開けた。
 ゆっくりと、のんびりと開くまぶたのその向こうから、陽の光にあたって僅かに見えた瞳がきらめく。
 それはまるで喜びをたたえているような、磨き上げた宝石のような美しさ。
 相も変わらず二つの宝石がゆらゆら揺れている姿がそこにあった。

 


「やっぱり綺麗」
 ほう、とたまらず息を吐き出す。
 するとそんなクルミの様子に、アカメはその瞳を僅かに細めた。
 とたんにその瞳の深みが増す。
「なぜ」
 アカメは見とれるくるみにそうつぶやく。
「ん?」
「なぜお前は怖がらない」
 眉根を寄せ、少しばかり俯きながら発された声は少し苦しげで、まるで子供みたいだなと思った。
「なぜ、お前は」
 そんなアカメの疑問の声は、スヤスヤと眠るクルミの寝顔を見て静かに消えた。




続く
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