夢物語〜わたしがみた夢の話集〜

常に眠い猫

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正義のヒーロー

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正義のヒーロー

 世界はどこまでも残酷にすべてを奪う。
 何者にも期待せず、諦めてしまった今の世界で、希望を持つことができた。
 その希望のために頑張ろうと意思を固くし、彼女は立ち上がった。
 守らなければ。立ち上がらなければ。
 大規模で楽しい行事の水面下で、何かよくないことが起ころうとしている事実を知った彼女は、それを止めようと動いた。
 走り回り、探し回り、そして、ついに突き止めた。
 全ての策を挫き、さぁラスボスと対決と思ったところで、そのラスボスが身内にいることに気づく。
 信じたくないと思う反面、それ以外にあり得ない状況に、仲間と2人でその人間を問い詰める。
 見た目年齢層12歳のツインテールの女の子は、彼女の尋問を黙って聞き。
 彼女に殴りかかってきた。
「っ!?」
 ギリギリで交わす彼女に、仲間が「これを持て!」と何かを投げてくる。
 それを両手でキャッチすると、手には古臭いリボルバー。
「あんたに、うてるの?」
 少女が嘲笑うように吐き捨てるのをきいて、彼女はそのリボルバーを構えた。が。
 少女も懐に手を入れて何かを探し出す。
 そしてその手に握られて出てきたのは

 ____小型の拳銃だった。

「ごめんね?」
 にっこり笑って少女は仲間の方に銃口を向けて、迷わず引き金を引いた。
 その直前、まずいと悟って彼女は飛び出し、仲間を庇う。
 左肩から背中に貫通した銃弾を痛みと共に感じ、悲鳴にならない声が漏れる。
 後ろで仲間が叫ぶが、痛みでそれどころではない。
「く、、そ」
 視界が霞む。息も荒くなり始めるのを理性で押さえる。立ち上がって、何十倍にも重くなったように感じるリボルバーを構えた。
「あら?いいわね。そういうの。嫌いじゃないよ?」
 少女が黒い笑みを浮かべていうのを、彼女は聞き流した。
 聞く余裕はない。体に力が入らず、ハンマーをあげようにも、重すぎて上がらない。
「なにそれ。遊んでるの?」
 そう言って少女は拳銃をこちらに向けたままにやりと変わらずわらう。
「ほら、準備してみれば?待っててあげるから」
 正面では少女が楽しそうにそう言う。
 後ろでは仲間が彼女を止めようと必死になっているが、彼女にはもう聞こえない。
 止めなければ。止めなければ。仲間だとしても。打たなければ。
 そんな思いが頭を体を縛り上げて離さない。
 さらにハンマーは重くなり、両手で必死に構えながら、コンクリートの塊のように重くなったハンマーをやっとの思いでおろす。
 カチッと言う小気味のいい音がして、リボルバーは準備完了の合図を鳴らした。
 それだけで息がさらに荒くなる。
 しっかりと照準を合わせて少女に向ける。
 しかし。
「ふふふ」
 少女は無情にもそんな彼女にもう一度引き金を引いた。

 _____ドン

「んぐ!?あっ!」
 体がわずかに後ろに飛ばされ、その場で膝をつき、彼女は床に倒れ伏す。
「ユキア!!」
 仲間が彼女を、私を呼ぶ。
 その声になんとか腹に力を入れて上半身を起こし、リボルバーを手に取る。
 ここで倒れるわけにはいかない。
 仲間を見捨てるわけにはいかない。
 私はもう戻れない。後戻りは、もうできないのだ。
 それなら_______

「やるしか、、、ない、、よね」

 呟いて、一度息をつく。
 大きく息を吸って、大きくはく。
 右の脇腹を通り過ぎた弾丸の跡が、肩口が限界を訴えてうずいている。
 それに呼応する様に、心臓がとんでもない速さで走る。
 もう少し、持ってくれればいいけど。
 倒れる前に、決着をつけるには。
 無理を通す以外に方法はない。
 静かに呼吸を繰り返し、目を閉じる。
 ごめんね。私の体。無理をさせるけど、後でゆっくり休ませてあげるから、後1時間でいい。まってて。
 お願い。持って。
 そうして目を開ける。固くリボルバーを握りしめ、ふっと息を止める。
 一瞬全ての痛みが嘘のように消え失せ、全身の動きの制限が取れた。
 それを逃さない。
「はあ!?」
 驚く少女の声。
 それもそうだ。
 二発もの弾丸を受けたただの一般人が動けるはずがないのに、うずくまっていたかと思えば突然走り出し、目の前に銃口を向けてきているのだから。
 二発目の弾丸を受けてからここまで、わずか2秒と少し。
 状況を把握する前に。
「さよなら」
 その言葉が尾を引く前に、私は少女のこめかみに銃口を向けたまま、引き金を引いた。

 どさっ


 少女の亡骸が地面に頽れる。
 直後、ガシャんと言う、リボルバーが床に落ちる音が響いた。
 もう、手に持っていられるほど力は残っていない。
「はぁっはぁっ」
 やった、のだろうか。
 しばらく少女を見下ろすが、動く気配はない。
 体をよく見て、呼吸がないことを確認。
 私は、やりきった。
 後ろで泣きそうに私の名前を呼ぶ仲間の声がする。
 あぁ。。ダメだ。答えられない。
 立っているのがやっとなんだ。ごめんな。
 後で文句はいくらでも聞くから。今は許してくれないか。
 目の前が霞む。
 朦朧とする意識の中で、聞こえるのは悲鳴を上げる心臓と、荒い自分の息。
 でもまだ、倒れるわけにはいかない。。見届けなければならないものがあるんだ。
 どこか遠い場所で誰かが呼んでいる気がするが、後でもいいよな?
 今は。
 ゆらり。
 なんとか必死に振り返る。しかし、あまりにも体の力が入らず、今にも倒れてしまいそうだ。
 これではたどり着けない。
 仕方なく、壁に手をついてなんとか振り返る。
 たったそれだけで、倦怠感が体を襲う。
 あまりにも激しい消耗に、つい笑ってしまう。
 右足を出して、左足。
 壁に手をついて、もう一度。
 そうして歩いていると、遠くに聞こえていた仲間の声が途切れた。
 ぼんやりする視界の中で、仲間がこちらを見ているのはわかるが、視界はどこまでも霞んで、歪んでしまって、どんな顔しているかまではわからなかった。
 壁伝いに歩きながら、仲間の横を通り過ぎる時、とにかく今は相手にできないので「すまない」と声をかけておいた。
 その声も驚くほどかすれてしまって、ちゃんと伝わったかは定かではないが。
 行った数秒後にどさっと、床に頽れるような音がしたので、伝わりはしたのだろう。
 私はともかく目的地まで行かなければ。 



 ここからだと、部屋を出て左にまっすぐ。階段を二階分上がって右へ行けば目的地だ。
 歩いて5分もしない場所までが、今では山を越えるのかと思えるほど遠い。
 あぁ、身体中が痛い。
 肩と背中。脇腹になにより、なんだろうな

 _______胸が痛いのは。

 あいつを殺してからずっと、胸の奥の方が痛くてたまらない。
 視界が歪んでたまらない。
 頭の中をあいつとの思い出が浮かんでは消えていく。

『大丈夫!やればできるもんよ!そうでしょ?』

 見てきた笑顔。ぬぐってきた涙。

『やめてよ!そう言うのをずるい人っていうの!』

 小さい体をして、想像を絶する定めを抱えていた少女。
 ただ認めて欲しかっただけなんだと、吐き出したあの日の夜のことは、忘れたくても頭にこびりついて離れることはない。

『高望みはしないわ。それでも、人並みくらいは、許されるわよね?』

 強い意志で、抗えないものから逃げて、戦って。
 勝ってきた。
 強くて、優しくて。
 どこまでも、弱かった少女。

『また明日、遊びましょうか!』

 そうだね。遊びたかったよ。
 馬鹿みたいにはしゃいで。楽しい日々を。
 望めるのなら私も、それが欲しかった。
 流れていく記憶と、感情と。


 涙と。


「はっあぁっ!」
 どうして
「ああっ、、うっ」
 どうして?
「うっううっ」
 こうなってしまったのだろう?
「くぅっ、、!」
 まだ道はあったはずなのに。
「ふううっ、、あぁっ」
 気付ける場所は多かったはずなのに
「あっ、、ああっ」
 救えた命なのに
「ああぁぁぁっ」
 なによりも

「アアァァァァァァァァアーーーっっ」



 ______仲間なのに。



 流れ落ちる涙を止められない。
 胸の奥の痛みが、体にもたらす痛みを上回り、まるで私を責めるように喉を締め上げて離さない。
 息ができず、あえぐように空気を貪る。
 貪った先でまた泣き叫ぶ。
 血だらけでうずくまり、薄暗い道端で泣き叫ぶ彼女は、



 正義のヒーロー。



 その二つ名で知れ渡ることになる。
 悲しい、悲しいヒーローの真実の物語。
 多くの人を守るために奔走し、事実世界を救った。
 代わりに彼女は、唯一大切なものを失い、大きな傷を受けた。


 世界はどこまでも残酷にすべてを奪う。
 何者にも期待せず、諦めてしまった今の世界で、希望を持つことができた。
 その希望のために頑張ろうと意思を固くし、彼女は立ち上がった。
 守らなければ。立ち上がらなければ。
 そうして意思を固くして遂行した正義の先に残るのは、ヒーローという犠牲の上に成り立った希望の溢れた世界だった。
 たった1人の大切なものを失い、大きな心の傷を残したヒーローを、今は誰1人知るものはいない。
 ただただ、真実が知られぬまま、世界を救ったヒーローの伝説として語り継がれることとなる。



完?
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