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第三章☆魔法呪

第八話☆赤き竜

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アミルラナたちは、隣町のパチンカラまできていた。
 急を要したため、到着したのは早かった。
 だが、救援物資の到着が遅れていた。
 パチンカラの入り口付近で、アミルラナたちは止まった。
 街から火が上がっていた。
 それは赤くもえ、人々の叫び声がきこえた。
「パチンカラに着いたぞ。急げ、もう目前だ、火の手が街から上がっているぞ」
 アミルラナが隊にはっぱをかけた。
「一度、陣形を整えろ、恐らく、魔王軍のモンスターがいると推測できる」
「はっ、アミルラナ様」
 アミルラナがいうと近くにいたレイが返事をし、隊を整えようと馬に乗ったまま合図を出した。
 隊がすぐに整えられていく。カスミンもいた。
 そのときだった。
 夏菜(かな)がなにかを見つけたのか、一人で前に出た。
「姫さま、前に一人で出てはなりません、危険です。ダン、後を追え」
「はい、隊長」
 ダンが馬を出して、姫さまの後をすぐに追った。
 肝心の姫さまはそんな心配もいざしらず、建物の影で倒れている子の傍に駆け寄った。
 まだ、少年は生きている。
「ひどい、こんな。キミ、だいじょうぶ? いったい、どうしたんだ? 魔王軍にやられたのか?」
「大きい、赤い竜が現われた……」
 少年はせこそうにいう。
 夏菜(かな)の目には涙がたまっていた。
 優しすぎるのだ。
 ダンがかけよってきた。
「ソニアさ、いや、カナヤンさま、危険です。単独行動はおやめください」
「赤い竜? この子、まだ息がある。俺の回復魔法で」
 ダンの忠告を聞いて、軽くうなずき、夏菜(かな)は手を少年の負傷している部分にあてた。
 アエリアが、はっとして、夏菜(かな)がしていることに気がついた。
 それはというと。
「(どうやら、ユメリアの宝玉の知識が入ってきているみたいですね)」
 夏菜(かな)が一瞬、目を閉じた。
 そうすると、少年の体にあてていた手が光りだした。
 いったい何が? まさか?
「回復魔法、『エメゲリアムーン!』」
BABABA!
「あ、あれ、からだが動く?」
 夏菜(かな)は、魔法を使ったのだ。ユメリアの宝玉をつかいこなせているようだ。
 少年の傷はたちまちに完治して、動けるようになった。
「よかった。治ったね」
「キミは、ソニア姫さまの回復魔法で治ったんだよ」
 おどろいている少年に、ダンが馬から下りていった。
「ありがと、男の姫さま。」
 少年はうれしそうな顔でお辞儀をしながら夏菜(かな)にいった。
 夏菜(かな)は、にこりと笑顔を返した。
 だが、夏菜(かな)はぴんと来ない言葉があったのだ。
「う、男の姫さま? 俺、おかまみたいじゃないかー」
「ははは、ソニア姫さまの唯一の悩みですね」
「ライ、いったなー。剣を交えてやるー」
いつの間にか、きていたライと夏菜(かな)の追いかけっこがしばらく続いた。
 夏菜(かな)は、剣をむやみやたらにふりまわしていた。
 ダンが苦笑いをしていた。
 アミルラナもそれをみて笑顔だった。
 戦いばかりしていると、疲れも出るものだ。
 血なまぐさいものをみないといけない。理性もある。
 だが、それでも守らなければならないものもある。
 アミルラナは女英雄でありながらも、その意識は人一倍、強かったのだ。
「よし、急ぐぞ。首謀者は判明だ。赤い竜を討伐するぞ。パチンカラの民を助けるのだ」
「おー」
 隊から、歓声が上がった。
 剣をみな上にふりあげた。
 そして、アミルラナはダンのほうに向かっていった。
「ダン、お前は姫さまについていてくれ。私が離れると心配だ」
「はい、わかりました。隊長」
「アミルラナ、私も姫さまに付きっ切りだからな。今回はアミルラナの面倒はみれないかもしれないぞ」
 アエリアが面白みを含めてアミルラナにいった。
 アミルラナはニコリ笑い、負けじと言い返した。
「笑止。アエリア、別に構わないぞ。私はそんなに弱くない」
 そのときだった。
 大きな建物から、すごい火があがった。
 炎上するのが早かった。火の勢いが強い。
「火の手だ、また建物から上がったぞ」
「この先は確か、リエザラウ大広場だったはず。いけない、人が多い場所だ。皆、急ぐぞ」
 アミルラナは馬を走らせ、リエザラウ大広場に向かった。
 パチンカラの入り口からは、少しの距離があった。
 そして、アミルラナがいくと、隊員たちもそれに続いた。
 遅れて、夏菜(かな)やダン、ライも馬を走らせた。
 いったい、この先で、どんな光景が待ち受けているのだろうか。
 みな、顔にはださないものの、恐怖心もあったのだ。
 そうして、入り口を後にした。


☆☆ 
「なんて、デカイ竜だ」
 ダンの開いた口がふさがらなかった。
たしかに、家一個分くらいの大きな赤い竜だったからだ。
 騎士団員たちは、恐怖心でいっぱいだった。
これとどう戦えというのかという面持ちだった。
 アエリアが口火をきった。
「どうやら、レッドドラゴンのようだな。うそかと思っていたが、あの子のいったことはほんとだったようだな。手ごわいぞ」
 そのとき、アミルラナが横槍をいれた。
「いや、ちがう、あの頭の角、あれは古の赤竜、グルギアーラだ」
「グルギアーラ?」
 一同が面食らった。夏菜(かな)も開いた口がふさがらない。
「普通のレッドドラゴンは、あんなに大きな角が頭にはない。昔、私が隣国へモンスターを討伐に行っている時に、同じ隊にいたものから聞いたことがある。だが、それなら、おかしい。ラクイン王に葬られたはずだが」
 アミルラナがそういったときだった。
「おーほッーほっほ。また、あっちゃったじゃないのさ、ユメリアの姫さんたちに」
「あなたは魔王軍のキャンキャ・キレイザー!」
「光栄だね、姫さんが名前を覚えてくれていたようだね」
 騎士団の視線がキャンキャに移った。
アミルラナの表情が険しくなった。
アエリアも敵意をみなぎらせていた。
 キャンキャがそれをチラッとよそみて、語りだした。
「その通りさ、知ってるやつがいたようだね。古の赤竜だよ。あたいの魔力で封印されていたのを復活させたのさ」
 そういい、キャンキャは黒い扇子をパッと開いた。
 そして、扇子で顔を優雅にあおぎながら、アエリアをみていた。
「綺麗だねぇ。まぁ、隣にいるのはあたくしの天使様だね」
 キャンキャの顔がにやけて、少しだけほおを赤らめた。
 そこに、割って入ってきた魔王軍のおっさん二人がいた。
「キャンキャ様のスーパースタイルが黙ってないぞな」
「そうでごわす。もっふもふ」
バシィ!
「ひぃ」「あうぅ」
 キャンキャのおしおきはしばらく続いた。
 だが、このふたりはうたれ強く、図太いのか、逆にテンションがあがっていた。
「ダダビラー、ボンボコ、あんたらは黙ってな、いらないことはいわなくていいんだよ」
「へい、キャンキャ様」
 キャンキャが、扇子をビシッとさして、まゆ毛をつりあげながらいった。
 おっさんふたりはすまなさそうな顔をして、軽くうなずいた。
 それがすむと、キャンキャはアミルラナをにらみつけた。
「フフフ、この赤竜は、あたいが、巨大化魔法ジャイアントフィーニで、身体を巨大化させてあるんだよ。普通のレッドドラゴンよりもブレスの破壊力は数段上だよ。倒せるものなら倒してみな」
 キャンキャは、アミルラナを挑発していた。
 アミルラナもにらみ返したが、騎士団員にも緊迫感がはしっていた。
 どうきりぬけるか。どう、やつを倒すのか。
 目先のことに気を集中していたのだ。
「いけ、我が魔王軍の赤き竜よ」
 キャンキャが、そう言い放ったときだった。
「な、なに? ユメリアの宝玉が光っている?」
 アエリアが夏菜(かな)を見て、とんきょうな声をあげた。
「うぅ」
「ひ、ひめさまー。いかがされたのですか、大丈夫ですか」
 なんと、夏菜(かな)がまたその場に倒れこんだ。
 急いでダンが駆け寄って、上手く地面に横にならさせた。
 しかも、目の前にこんな危ない敵がいるときに。
 危険だ。もし、炎をこの状態で浴びせられたら、いくらなんでもかわせない。
 最悪の場合、死に至る。
 ダンが必死に夏菜(かな)をかばうように身をていしていた。
「ソニア姫さま、いけない。こんなときに、またオーバークロニクルだ。ダン、姫さまを安全なところへ。私とアミルラナたちで戦おう」
「はい、アエリアさん」
 アエリアの言葉をきくと、ダンは夏菜(かな)を抱きかかえ、建物の影につれていった。
 それをアエリアはみると、安心したのか、アミルラナにいった。
「久しぶりですね、いっしょに戦うのは」
「そうだな。アエリア、死ぬなよ」
「あなたこそ」
 ふたりは昔からの戦友みたいなものだった。
 たがいに、けん制し、士気を高めあった。
 アエリアも、アミルラナもこの大きな敵と戦うのは命がけだった。
 強がるが、危険は感じていたのだ。 
近くには、レイ、ライ、カスミンもいた。
 みな、細身剣やロングソードを引き抜いた。
 決死の覚悟で魔王軍を退けようと、望んでいたのだ。
 死しても、守らなければ、多くの民が死ぬ。
破壊しつくされ、街に火の手がもっとあがる。
みな、背水の陣だった。


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