サイキックソルジャー

蒼井肇

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第一章 サイキックディヴァージュ

第一話 サイキック高校生

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あの病院の出来事から三年が経っていた。少年は無事に助かり高校に通っていた。当時中学生だった少年も高校生になり、双葉(ふたば)高等学校という、その地域では有名な進学校に通っていた。
授業中に後ろの席で足を机に乗せて膝組みをし『サイキック・ディヴァージュ薬』を投与された少年、空輝涼(そらきりょう)はふてくされた顔をしながら口を開いた。

「ふぅ、また授業すんだら、仕事か」
涼は、ふてくされた顔で腕を上に振り上げあくびをしながらいった。

「涼、仕事ってなに? 相変わらず独り言おおいね。仕事だとか訓練だとか?」
涼の幼馴染みの桃花(ももはな)若菜(わかな)は隣の席から軽く声を掛けた。

「アハハ、若菜、気にスンナって。大したことじゃねーからさ」
涼が笑顔で返した時、ちょうどチャイムが鳴った。

「じゃぁ、今日の授業はここまでだ。復習わすれるなよ」
先生が締めの言葉をいって教室を出て行った。クラスメイトが各自、声を上げ解散していく。

「さて終わったし、若菜、コンピューター部いこうぜ」
さわやかな笑顔で隣にいた若菜にカバンを持ちながら涼はいう。
若菜はカバンの中に教科書をしまっているところだった。

「よし、できた。いこっかぁ」
童顔でセミロングの綺麗な髪がなびくスタイル抜群で胸が大きい女の子、若菜は明るい声で軽快に返答し、席から立ち上がった。

 そして、二人は廊下に出て行った。

「今日は多分、白羽先生から『第三十三回高校生エンタメ動画大賞』の結果発表があるぞ」
カバンを後ろ手に持ち、若菜を一瞥し廊下を歩きながら明るく言った。

「入賞してるといいね」

「あれだけ、みんな居残りしてやったんだ。キット入ってるよ」
涼は自信がある感じで若菜にいい、二人は廊下を歩き3Fのパソコン室へ向かった!
 パソコン室が、涼たちの所属しているコンピューター部のようだ。





☆☆    ☆☆


パソコン室に部員が数人あつまっていた。涼と若菜もちょうどついたところだった。二人がきたのを見計らうと部員の中心にいたジャージ姿の顧問の先生が口火を切った。

「みんな、喜べ、堂々の入選だ! 動画部門銀賞だ。」
その瞬間、部室から歓声が上がった。皆一様に喜び顔を合わせた。
パソコン部顧問で涼のクラス担任、白羽(しらはね)ひかる先生はにこやかな笑顔で言った。
まだ若い。年のころは二十五歳くらいで生徒指導に熱く、女性の声を潰した男のような野太い凛々しい声で入賞通知の封筒を右手に握り締め、高々と挙手した。

その面持ちは自信に満ちあふれていた。

「カナちゃん、銀賞だって。やったね♪」

「せんぱーい、やったですぅー!」

涼の隣にいたひとつ年下の部員、三枝(さえぐさ)カナが嬉しさの余り涼に思わず抱きつく。
若菜が後方でムッっとした面持ちをしふくれつらをする。

「な、後ろからなにすんだぁ。首が締まる、ぐ、苦しいってば、が、ガナッちゃん」
カナは黒い髪のショートボブヘアで目がキュートな可愛い女の子だ。涼の後ろから首を手で囲い体重をグッと下のほうにかけ引っ張る。

涼は首から腰の方に、思いっきり体重をかけられ息苦しそうに悶えた。
顔がだんだん赤くなっていく。

「若菜せんぱーい。今日も可愛いーじゃん! ヒュー、笑顔ゲッチューじゃん」

カナと同じ学年の部員、堂月夜(どうつきや) 翔(しょう)は若菜の隣でデジタルビデオを構えながらニヤニヤし、夢中で若菜をジロジロうろちょろしながら撮っていく。容姿は普通にしてればカッコいいはずなのだが。マスクも可也イケメンだった。が、行動不審で問題ありだ。

「もう、堂月夜(どうつきや)くん、デジビデで撮るのやめてよね。恥ずかしいから」
若菜は照れて顔を赤らめ恥ずかしそうに困った様子を見せ、もうっといった感じでプイッと顔を背けた。

「今日もその笑顔が見えて嬉しいっす」
翔はニヤニヤしデジタルビデオを若菜の顔に思いっきり近づけながらいった。

「翔、なにやってんだ? そんなの撮って嬉しいのか?」
涼が呆れた顔でいうと、次第に若菜の表情が変わっていく。ムッとしているみたいだ。

「なんですって!」
若菜はふくれつらをし、喧々とした声で涼の方を向き言い返した。

「そんなことないっす。うーん、ビューティフォー! 毎回、美少女スタディになるっす」
翔は面白おかしいことを言う。相変わらずニヤニヤだ。その時だった。
やり取りを近くでみてたカナが割って入ってきた。

「堂月夜くん、あたしも撮ってよ。あたしなんか最高に可愛いわよ」
細身のカナが、モデルのようなキメポーズを取った。写真を撮ってよと言わんばかりのことをする。かなりのはしゃぎようと自信だ。たしかに絵になって可愛いが、おてんばだ。

「嫌じゃん」
なぜか、女好きの翔が撮るのを拒否した。若菜がいるからか? 面白がってか? 
デジタルビデオカメラを違う方向に向けた。

「もー、ケチ!」
カナは怒って、翔にかるフザケで叩きに行った。しばらく部室で二人のおいかけあいが続いた! 呆れた様子で涼は見つめている。

「ほんとお前、犬コロだな」
涼は冷めた様子でボソッという。翔が目利きをした。

「おい、犬コロ、先生はいくらとってもいいぞ。レンタル料つきだがな、ワハハ!」
白羽先生が野太い男のような声で面白いことをいった。
その時もう一つ、続けて白羽先生は話を切り出した。

「もう一つ、ビッグニュースがあるぞ。『エンタメ動画大賞』入賞ということで軍資金が出来たから黄泉(よみ)島にある旅館にパソコン部、動画勉強会を含めて二泊三日の研修旅行だ! よろこべ、みんな!」

先生が言った瞬間、部室が歓喜に満ちあふれた。
「キャー嘘ぉ! 二泊三日も」
「カナッち、研修旅行だって!」
カナと若菜は、はしゃぎ両手をつかみ合い明るい声で飛び跳ねた。

「あそこって南国よね。水着もっていかなきゃ」
カナがふふんと言った面持ちでいい、指で若菜の胸を突っついた。
若菜はどうしていいか判らず、ためらい恥ずかしそうに苦笑いをした。

「み、水着っすかぁ! 天国じゃん! 南国パラダイスじゃん」
翔が鼻息を荒くさせ声をたかぶらせる。
「あほか。ま、確かに昔よりかは発育はしたが……」
涼はムニュッと、近くにいた若菜の胸を人差し指で軽く突いた。
 若菜の顔色が急変した。

「どさくさに紛れてあんたって人は!」
パチン!
「ふびゅ」
若菜のビンタが華麗に飛んだ。痛そうな顔をし、涼は反対方向に吹っ飛んだ。
余りの凄さに一同が唖然となって黙り込んだ。
 そして、いたたと頬を押さえながら、涼は立ち上がる。

「堂月夜君、涼の顔に手形が入ってるビデオ、ちゃんと撮っといてね」
若菜は手をパンパン叩き、怒った顔でちょっと意地悪なことを呟いた。

「ハイッす」
翔が勢いよく絶対服従的な敬礼のポーズをとりいった。

「涼師匠、なにやら赤い物がホッペについていますが?」
翔はビデオカメラを思いっきり涼の顔に近付けた。赤い手形がアップで映った。

「ケッ、ほっとけ」
涼はしかめ面で口を尖らし、ふてくされた顔でそっぽを向いた。

 一同に笑いが起こった。明るい雰囲気の部活だ。



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第二話につづく。UP予定。
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