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第六話 friend's side『私の主人公』
4-3 お澄ましの仮面
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「神崎さん、今日はありがとう」
「何が?」
取り残されて、最初に口を開いたのは北沢さんだった。
慧真と同じ、だけど理由の分からない感謝に対する私の反応は、もしかすると不機嫌そうに聞こえるのかも知れなかった。それでも北沢さんの少し緊張したような笑顔は崩れなくて、ほっとする。
「ほら、ええと、今まで話したことなかったのに遊びに行くメンバーに誘ってくれたし」
「慧真に言いなよ、そんなこと」
「ああ――だけど、えっと、ね」
一瞬怯んだように見えた顔が、またすぐに笑顔に戻る。緊張の色が増したようだった。
「私、ちょっと今日、多分、人見知りしてて。もし勘違いだったら忘れてほしいんだけど、神崎さんがそれを気遣って、いろいろ話振ってくれたように感じたから。だから――」
ありがとう。そう言って、北沢さんは何度か視線を迷わせた後、俯いた。私のカバンにたった一つ付けられた、小さなキーホルダーを見ているんだと思った。
笑ってしまう。思わず、短く声が漏れてしまう。この子、こんな子だったんだ。
「なんだ、ばれてたんだ。だけど私も北沢さんが人見知りしてるの気づいてたから。引き分けだね」
「べつに隠してたわけじゃ――」
「本当? 人見知りしてるっていうよりも、ただ澄ましてるだけ、っていうふうに見えてたけど」
「ああ、それ、他の子にも似たようなこと言われた」
北沢さんの小さな笑い声と私の控えめな笑い声は、割り込んできたアナウンスが喋り終わる頃には静まり返り、電車待ちの列が曖昧になったホームには普段通りの冷たい私と、澄ました北沢さんとが向き合っていた。
それもなんだか可笑しくて、私は冷徹な私のまま、わざとらしく、お行儀よくお澄ましさんに向かい合う。伏せられ慣れた目に、小さく緊張の色が光ったのが分かる。
「私、電車反対側だから。また明日だね」
「あぁ、うん」
肩透かしを食らったような返事。
「明日からは人見知りしないでね。もう友達だから。ね、柑菜」
私が笑顔を作ってみせるのと、北沢さんが――柑菜が目を白黒させるのと、どっちが先だったのかは、なんだかよく分からない。
きっと、同時だったんだろう。
柑菜を乗せた電車が動き出すと、今度は私の待っていた電車の到着が近いことをアナウンスが告げる。
早足でホームを出て、駆け足で改札に向かった。
こうすれば良いという打算が初めからあったのかも知れない。初めから、こうするつもりだったのかも知れない。
いや、「かも知れない」なんていうのは嘘だ。そういう考えは初めからあったんだ。解散して皆がいなくなった後に慧真を追えば、ちゃんと私のしたい話ができるんじゃないか、という考えは。
だけどそれは他の皆に対してなんだかずるいような気がするし、そんなずるい私は、慧真の思う私とは違うような気がして――だから、無いものとしていたんだ。
「何が?」
取り残されて、最初に口を開いたのは北沢さんだった。
慧真と同じ、だけど理由の分からない感謝に対する私の反応は、もしかすると不機嫌そうに聞こえるのかも知れなかった。それでも北沢さんの少し緊張したような笑顔は崩れなくて、ほっとする。
「ほら、ええと、今まで話したことなかったのに遊びに行くメンバーに誘ってくれたし」
「慧真に言いなよ、そんなこと」
「ああ――だけど、えっと、ね」
一瞬怯んだように見えた顔が、またすぐに笑顔に戻る。緊張の色が増したようだった。
「私、ちょっと今日、多分、人見知りしてて。もし勘違いだったら忘れてほしいんだけど、神崎さんがそれを気遣って、いろいろ話振ってくれたように感じたから。だから――」
ありがとう。そう言って、北沢さんは何度か視線を迷わせた後、俯いた。私のカバンにたった一つ付けられた、小さなキーホルダーを見ているんだと思った。
笑ってしまう。思わず、短く声が漏れてしまう。この子、こんな子だったんだ。
「なんだ、ばれてたんだ。だけど私も北沢さんが人見知りしてるの気づいてたから。引き分けだね」
「べつに隠してたわけじゃ――」
「本当? 人見知りしてるっていうよりも、ただ澄ましてるだけ、っていうふうに見えてたけど」
「ああ、それ、他の子にも似たようなこと言われた」
北沢さんの小さな笑い声と私の控えめな笑い声は、割り込んできたアナウンスが喋り終わる頃には静まり返り、電車待ちの列が曖昧になったホームには普段通りの冷たい私と、澄ました北沢さんとが向き合っていた。
それもなんだか可笑しくて、私は冷徹な私のまま、わざとらしく、お行儀よくお澄ましさんに向かい合う。伏せられ慣れた目に、小さく緊張の色が光ったのが分かる。
「私、電車反対側だから。また明日だね」
「あぁ、うん」
肩透かしを食らったような返事。
「明日からは人見知りしないでね。もう友達だから。ね、柑菜」
私が笑顔を作ってみせるのと、北沢さんが――柑菜が目を白黒させるのと、どっちが先だったのかは、なんだかよく分からない。
きっと、同時だったんだろう。
柑菜を乗せた電車が動き出すと、今度は私の待っていた電車の到着が近いことをアナウンスが告げる。
早足でホームを出て、駆け足で改札に向かった。
こうすれば良いという打算が初めからあったのかも知れない。初めから、こうするつもりだったのかも知れない。
いや、「かも知れない」なんていうのは嘘だ。そういう考えは初めからあったんだ。解散して皆がいなくなった後に慧真を追えば、ちゃんと私のしたい話ができるんじゃないか、という考えは。
だけどそれは他の皆に対してなんだかずるいような気がするし、そんなずるい私は、慧真の思う私とは違うような気がして――だから、無いものとしていたんだ。
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