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第六話 friend's side『私の主人公』
7-4 なさけなくて
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「どけって」
また、チャンスをくれた。
私の無力さが見透かされているのだ。無謀なことなどできるわけがないと、侮られているのだ。
舌打ちが聞こえて、全身の温度が下がる気がした。上目遣いに視線を向けると、くっきりとした二重瞼の下で、色素の薄い瞳がこちらを見下ろしていた。部屋に迷い込んだハエでも見るような視線。
「おまえ、何ガンつけてんの。キモいわ」
「誤解なら、説明してくださいよ。どうして慧真は先輩のこと怖がってるんですか」
時間を稼ぐためだったのか、責めるためだったのか、慧真の言い分が勘違いであることを期待したのか。情けなく震えた声が、涙と一緒に零れ落ちる。泣いてしまうだなんて自分でも予想外だった。後ろにいる慧真には悟られたくなくて拭わずにいると、どういう感情なのかも分からない涙が続けてころころと溢れ出してきた。
副部長は火照った私の顔を見て、何やら愉しそうににやにやと笑った。腹立たしいことに、それは自分が優位にいると確信した顔だった。
「ああ、誤解なんだよ本当に。俺は何もしてないんだ。ただ、慧真にちょっと拒否られたのは事実で、そのことむかつくなーって仲間内で零したら、みんな真に受けちゃってさ。あいつらみんなしていじめようとするから、仕方なく俺が気にかけてやってんだよ。なあ、そうだよな慧真」
陰りのない白々しい言葉が、私の肩の上を臆面もなく通り過ぎる。慧真は怖がっているんだろうなと思った。結局怖がらせてしまったなと思った。思えば思うほどに目頭が熱くなって、それで、私は溢れて止まらない感情の正体に気がついた。
悔しいんだ、私は。慧真を守れるはずだった私が、慧真を守れていないことが。魔法にかかっているはずだった私が、このただの間抜けに気圧されてしまっているということが。
また、チャンスをくれた。
私の無力さが見透かされているのだ。無謀なことなどできるわけがないと、侮られているのだ。
舌打ちが聞こえて、全身の温度が下がる気がした。上目遣いに視線を向けると、くっきりとした二重瞼の下で、色素の薄い瞳がこちらを見下ろしていた。部屋に迷い込んだハエでも見るような視線。
「おまえ、何ガンつけてんの。キモいわ」
「誤解なら、説明してくださいよ。どうして慧真は先輩のこと怖がってるんですか」
時間を稼ぐためだったのか、責めるためだったのか、慧真の言い分が勘違いであることを期待したのか。情けなく震えた声が、涙と一緒に零れ落ちる。泣いてしまうだなんて自分でも予想外だった。後ろにいる慧真には悟られたくなくて拭わずにいると、どういう感情なのかも分からない涙が続けてころころと溢れ出してきた。
副部長は火照った私の顔を見て、何やら愉しそうににやにやと笑った。腹立たしいことに、それは自分が優位にいると確信した顔だった。
「ああ、誤解なんだよ本当に。俺は何もしてないんだ。ただ、慧真にちょっと拒否られたのは事実で、そのことむかつくなーって仲間内で零したら、みんな真に受けちゃってさ。あいつらみんなしていじめようとするから、仕方なく俺が気にかけてやってんだよ。なあ、そうだよな慧真」
陰りのない白々しい言葉が、私の肩の上を臆面もなく通り過ぎる。慧真は怖がっているんだろうなと思った。結局怖がらせてしまったなと思った。思えば思うほどに目頭が熱くなって、それで、私は溢れて止まらない感情の正体に気がついた。
悔しいんだ、私は。慧真を守れるはずだった私が、慧真を守れていないことが。魔法にかかっているはずだった私が、このただの間抜けに気圧されてしまっているということが。
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