アンリアルロジック〜偽りの法則〜

いちどめし

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第七話 friend's side『非日常への抜け穴』

1-2 捨て台詞

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 すれ違う人の波が途切れて、歩幅を狭めた。
 風が強く吹いたので、足を止めた。
 人の波が途切れるのは三度目で、風に吹かれるのはだいたい七度目だった。この寂しい帰り道で立ち止まるのは、これが一度目だった。
 思いついたみたいに顔を上げると、偶然みたいな顔をして公園が口を開けている。
 興奮の冷めてしまうのが、怖かったんだと思う。
 お姫様を守ったナイトの気分を、できるだけ長く引きずっていたかったのだろう。
 慧真のお母さんの顔を思い出す。あまりにも普通な、慧真と特別に似ているということもない、ちょっと老けた感じのおばさんだった。私が一緒だったせいか特に怒っている様子でもなくて、だから私はちょっとがっかりしたんだっけ。ストーリー性に欠けるだとか、そういうあんまりな理由で。
 ふらふらと、止まっていたはずの足が公園内に吸い込まれる。
 吸い込まれているんだっていうことにしないと、自分の弱くて卑しい内面に直面してしまいそうだった。
 遊歩道を照らす街灯を避けるように、小さく蛇行しながら丸太のベンチを目指した。公園に人気は無くて、時折どこからか聞こえる虫の声に包まれながら、未だ目立った汚れの無いローファーが忍びきれない足音を響かせる。途中、車のライトが生垣を照らしながら走り去るのを、わずかに姿勢を低くして意味もなくやり過ごした。
 まるで、悪いことをしている気分。街灯の曖昧な白さに、夜の静けさに、拒まれているよう。こんな時間にこんな場所に立ち寄る真っ当な理由を持ち合わせていない私は、こんな時間にこんな場所に立ち寄っていることを誰かに知られたら責められてしまうのに違いなくて、だからもしかすると私は悪いことをしているのだ。
 余韻を拾いに行きたいだなんて。興奮を温めなおしたいだなんて。できるわけもないのに、興奮の残り滓が落ちているはずもないのに、そんなことのために公園に戻ってくる私は、きっと悪いことをしているのだ。
 長い道のりに感じようとしていた私は、しかしあっという間にベンチの前まで行き着いた。当たり前だ、たいして広い公園じゃないんだから。
 静まり返っていた木々が短くざわつく。風が吹いたのだった。慧真のナイトとして副部長を追い払ったこの場所は寒くて、目の前にベンチがあるというのに私はその場で座り込んだ。
 ああ、どうしよう。
 粋がっていないと、熱くなっていないと、あの言葉が見えてしまうのに。
 何か、いろいろ、もっと、できることはなかったか。慧真に止められたとはいえ、慧真のお母さんに本当のことを言えば、もしかすると全部すっきり解決したんじゃないのか。ベンチの下に落ちているペットボトルを投げつければ、私が怒らせると面倒なやつだっていう印象を植え付けられたのかも――いや、それはだめだ。余計にだめだ。
 こうやって、副部長のことを考えてしまうから、嫌でも思い出してしまう。捨て台詞だと思い込もうとしていた、あの言葉。
 
 お前も、むかつくわ。
 
 あの捨て台詞は、私に向けられていたのだろう。
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