アンリアルロジック〜偽りの法則〜

いちどめし

文字の大きさ
61 / 63
第七話 friend's side『非日常への抜け穴』

3-1 あなあけ

しおりを挟む
 手早く昼食を済ませると、足早にトイレへ向かった。鈴森さんに「トイレー?」と気の抜けた感じで聞かれたので、「トイレ」と手短に答えた。
 答えてから、もうちょっとゆっくり動くべきだったんじゃないかと後悔した。なんか、漏れそうみたいじゃん。
 個室の鍵を閉めて、ようやく人心地。穴のことが気になり過ぎて、午前の授業中は気が気じゃなかった。
 代名詞がどうこうという板書を上の空でノートに写しながら、私はいくつかの仮説を立てていた。
 第一に、私の勘違いだという説。
 あまりにもつまらない説だけど、大前提として私がその頭を持っている人間なのだと自覚するためには必要なものだ。私の思考は正常だ。だからどう考えたってあんなことが現実に起こるはずなんてないのだし、もしも起こったように見えたのだとしたら、それは勘違いに他ならない。
 で、本題はここからだ。正常な人間の正常な思考をもってなお、拭いきれない実感をともなって発生したあの現象。空間の穴。瞬間移動。
 ワームホールってやつ?
 それが第二の仮説。ワームホールなんて言葉の印象でしか知らないけど、起こった現象、つまり離れた空間を繋ぐ穴に既存の名称を当てはめるのならば、その言葉より適したものを私は知らない。科学なのかオカルトなのか、どうあれそういう専門的な世界において具体的にどういったものをそう呼ぶのかは分からないけれど、何かの拍子にワームホール的なものが私の目の前と真後ろとに発生して、私のスマホを地面との衝突という運命から救ったというわけだ。
 もう、仮説というか、そうとしか考えられない。
 だから、一旦そういう前提で考えを進めることにするとして。
 あれがもう実際に有ったそういう現象なのだとして、だったらその発生源――というか操縦者は存在するのか。いるのだとしたら、それは誰か。
 それは私だったりするのだろうか。これが、第三の仮説。いや、願望。
――ひらけ。
 虚空に手をかざした。今朝、自室でそうしたみたいに。
 もう、照れくささは無かった。期待だけがあった。
 昔から、変身ヒーローものが好きだった。能力バトルものが好きだった。休日の朝にやっているアニメとか特撮とかが好きだった。テレビやネットで語られる、大昔の魔法少女の世界とか、大好きだった。
 あんな、不思議な能力が、もしかしたら自分に――だなんて、そんな、心躍ること。
 ひらけ、ひらけ、ひらけ、ひらけ。
 たとえば、そう、この扉を超えて、その反対側の空間に繋がる穴を。ほら――
 頭の後ろの方から、すうっ、と熱が逃げる。鼻から息を長く長く吐き出して、ひどく冷静になる感覚。瞳孔が、開く、みたいに。
 視線の先の、何もなかった空間に、穴が、開いた。その、穴の向こうから、
 誰かがこちらを見ていた。
「うわあああああああああああああああ!」
 悲鳴。いや、絶叫。閉じた便座の蓋に尻もちをついて、両手で顔を覆った。
「ちょ、ちょっと、声大きい……」
 指の隙間から見ると、ワームホールはまだぽっかりと口を開いていて、その向こうの眼鏡をかけた何者かは何やら焦ったような顔をしている。
「ねえ開けて、そこ、ドア」
 焦った誰かは普通の人間のように見えた。
 私はなんだか自分の絶叫が恥ずかしくなって――ワームホールとかなんだかどうでも良くなってしまって、個室のドアを開けた。そこには穴の中に見たのと同じ人物が立っていて、彼女は何のことはない、同じ制服を着た女子生徒だった。
「ねえ、逃げよう。人来るから。こっち来て」
 言われるがままに廊下に出ると、既に大声を聞きつけた何人かが集まってきていたので、「出た。虫。ゴキブリ、みたいなの」と言い訳をしながら小走りで眼鏡の女子生徒に続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...