顎髭

いちどめし

文字の大きさ
1 / 4

髭のあるロボット

しおりを挟む
 つるりとした顎だった。
 僕も、そしてリツトさんも。
 
 抜いているのか剃っているのか、それとも生えない体質なのか、リツトさんの顎は、少年のようにつるりとしていた。
 僕の顎には、リツトさんのとは違い鬚が生えていた。黒く短い鬚が、いっぱいに。
 リツトさんはそんな僕の顔を見て、笑った。
 おまえ、色白童顔のくせに、その鬚か。誰がデザインしたんだよ、そんな鬚。
 悪意のない笑いだということは、すぐに分かった。それでも僕は、その言葉を無視せずにはいられなかった。
 鏡を見ると、リツトさんの言ったように、色白童顔。その中で、しっかりと整えられた鬚は、まるで異質だった。
 嫌で嫌で、たまらなくなった。リツトさんの言葉は、僕に僕自身のことを嫌いにさせた。
 だから僕は、喧嘩腰になって言った。
 
 だったらこんな鬚、剃ってやりますよ。
 
 それ以来、僕の顎には鬚がない。ただの色白童顔になったのだ。
 それ以来、僕の顎には鬚が生えない。僕はロボットだから。
 
 僕はコミュニケーション用ロボットの試験機として、リツトさんの家に配布された。リツトさんは長身で色黒なだけの、気のいい男だった。心配事があれば、彼の方から相談に乗ってくれるような、面倒見のいい男だった。
 小屋のような自宅にリツトさんは一人暮らしで、定職にも就かず、ゴミ山へ出向いては、拾い物をリサイクルとして売っていた。
 それでも家の中は、狭いながらもきれいに整理されていて、普段は豪快なリツトさんの性格を、僕は肌から感じることとなった。
 数ある試験機の中でも、僕ほど幸福なロボットはいないだろう。そう思わせてくれるほど、リツトさんとの生活は充実し、その日々はあまりに楽しかった。ゴミ捨て場の部品を拾い集めて、ボロボロのワゴン車を組み立てたこともある。あの時僕は、この上ない達成感を彼に得させてもらったのだ。
 それを二人で乗り回したときのことなど、何年経っても、まるでほんの直前までそうしていたかのように、鮮明に思い出すことができる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七
SF
過去に戻って恋愛をやり直そうとした男が恋愛する相手の女性になってしまった物語

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...