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第03章 ヒロちゃん
02話 ユキ、里帰りする
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ゴールデンウイーク三日目も、良い天気に恵まれた。予報ではこれから先も良い天気が続きそうだ。さとしは今日の散歩会を欠席した。さとしの家族はおばあちゃんの家を車で訪れることにしていたのだ。車を出したのはユキも一緒に訪問するためだった。今日は子供の日だ。ユキもお母さんのマルに会いたいだろうと思ってのことだった。それに美都子母さんだっておばあちゃんの子どもだった。子どもはどんなに大きくなろうが歳をとろうが永遠に子供なのである。そう、この訪問は高史父さんの粋なはからいから実現したものだった。ただ日呂志おじさんも親子であるに違いないのだが、今回は残念ながら仕事で、留守番をすることになった。
ユキは初めての車での外出だった。そしてどうやら車酔いしてしまったらしい。車の中で戻してしまった。
「ユキ。ごめんねー。犬が車酔いするとは思わなかったわ。ちょっと休憩しましょうか」
と母さんが言うと次のサービスエリアに父さんは入っていった。
さとしはユキを抱いて車から下りた。
「ユキ、大丈夫か」
ユキは子犬の高い声で
「クーン」
と鳴いた。冷たい水をあたえたが、再び戻してしまった。高史父さんが
「しばらくゆっくり休んで行こう」
とみなに言った。美津子母さんは携帯電話で文子おばあちゃんに遅くなるかもしれないと事情を話し連絡した。おばあちゃんは
「それはユキに気の毒なことしたね」
と心配した。おばちゃんの犬マルが電話のそばで聞いていた。美都子母さんの携帯電話に聞こえる低い声で、
「クーン」
と鳴き声を響かせた。
犬は人の言葉を話せないけど、聞くことはできるのだ。
家族はサービスエリアで昼ご飯を食べて時間をつぶした
ユキは2時間程休んでようやく元気を取り戻した。さて今度はゆっくり行くぞと高志父さんが声を上げた。その日の夕方に家族はおばあちゃんの家についた。今度はユキも車酔いをしなかった。車を道路わきに寄せて、おばあちゃんの家の門をくぐると、まず、マルがさとしに飛びついてきた。尻尾をちぎれんばかりに振った。歓迎のあいさつだ。そしてマルは、ユキに恐る恐る近づいて身体の匂いを嗅いだ。それが自分の娘だと分かったらしくマルはえらく興奮していた。ユキも母親のマルに甘えた声を上げた。およそ半年くらい離れていたというのに親子の縁とは不思議なものだ。一瞬でその距離は埋まった。マルはユキの後を追いかけて遊んでいる。
「まあいらっしゃい疲れたでしょと」
とおばあちゃんは娘夫婦を歓迎した。またおばあちゃんはこっちに戻ってきたユキにもあいさつした。
「あなたも私の子ども同然だわ」
と言った。
「おばあちゃん、こんばんはお世話になります」
と高志お父さんが言うのに、
「固い挨拶は抜きよ」
と言っておばあちゃんはその場を収めた
マルとユキの挨拶が終ると、こちらもこちらで親子の対面だ。美都子母さんも文子おばあちゃんも積もる話に花を咲かせていた。母と娘、女同士は色々あると聞くけれど、美都子母さんと文子おばあちゃんの間には何のしこりもなかった。同じく、マルとユキの間にも相反するものは何もない。あるのは純粋に母と娘という関係だけだった。おばあちゃん子のさとしも話に加わった。高史父さんはまるで蚊帳の外だった。高史父さんは自分の両親がもうすでに空の彼方に行ってしまったことを思い、子どもとしてやってあげたかったことを数えていた。そして自分は息子のさとしに何を伝えていこうかと考えにふけっていた。
つづく
ユキは初めての車での外出だった。そしてどうやら車酔いしてしまったらしい。車の中で戻してしまった。
「ユキ。ごめんねー。犬が車酔いするとは思わなかったわ。ちょっと休憩しましょうか」
と母さんが言うと次のサービスエリアに父さんは入っていった。
さとしはユキを抱いて車から下りた。
「ユキ、大丈夫か」
ユキは子犬の高い声で
「クーン」
と鳴いた。冷たい水をあたえたが、再び戻してしまった。高史父さんが
「しばらくゆっくり休んで行こう」
とみなに言った。美津子母さんは携帯電話で文子おばあちゃんに遅くなるかもしれないと事情を話し連絡した。おばあちゃんは
「それはユキに気の毒なことしたね」
と心配した。おばちゃんの犬マルが電話のそばで聞いていた。美都子母さんの携帯電話に聞こえる低い声で、
「クーン」
と鳴き声を響かせた。
犬は人の言葉を話せないけど、聞くことはできるのだ。
家族はサービスエリアで昼ご飯を食べて時間をつぶした
ユキは2時間程休んでようやく元気を取り戻した。さて今度はゆっくり行くぞと高志父さんが声を上げた。その日の夕方に家族はおばあちゃんの家についた。今度はユキも車酔いをしなかった。車を道路わきに寄せて、おばあちゃんの家の門をくぐると、まず、マルがさとしに飛びついてきた。尻尾をちぎれんばかりに振った。歓迎のあいさつだ。そしてマルは、ユキに恐る恐る近づいて身体の匂いを嗅いだ。それが自分の娘だと分かったらしくマルはえらく興奮していた。ユキも母親のマルに甘えた声を上げた。およそ半年くらい離れていたというのに親子の縁とは不思議なものだ。一瞬でその距離は埋まった。マルはユキの後を追いかけて遊んでいる。
「まあいらっしゃい疲れたでしょと」
とおばあちゃんは娘夫婦を歓迎した。またおばあちゃんはこっちに戻ってきたユキにもあいさつした。
「あなたも私の子ども同然だわ」
と言った。
「おばあちゃん、こんばんはお世話になります」
と高志お父さんが言うのに、
「固い挨拶は抜きよ」
と言っておばあちゃんはその場を収めた
マルとユキの挨拶が終ると、こちらもこちらで親子の対面だ。美都子母さんも文子おばあちゃんも積もる話に花を咲かせていた。母と娘、女同士は色々あると聞くけれど、美都子母さんと文子おばあちゃんの間には何のしこりもなかった。同じく、マルとユキの間にも相反するものは何もない。あるのは純粋に母と娘という関係だけだった。おばあちゃん子のさとしも話に加わった。高史父さんはまるで蚊帳の外だった。高史父さんは自分の両親がもうすでに空の彼方に行ってしまったことを思い、子どもとしてやってあげたかったことを数えていた。そして自分は息子のさとしに何を伝えていこうかと考えにふけっていた。
つづく
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