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第1章 100の仲間たち
01話 和寿、スズメのヒナを保護する
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家を出ると、風は春の香りがした。行きかう人々の群れも春色の衣装が目立つ。和寿はそんなウキウキするような季節をよそ目にある難題を抱えていた。彼は今一羽のスズメのヒナを保護していたのだ。
あれは一週間前のことだった。縁側の軒先の地べたから苦しそうな鳥の鳴き声がする。どうやらスズメの巣が軒にあるのだろう。そこから落ちたらしい。上を見てみると親鳥と思われるスズメが泣き叫んでいる。ヒナ鳥の体はあまりに幼い。どう見ても巣立ちヒナとは考えられなかった。もっと幼い子が誤って落ちてしまったのだろう。
こんなふうに冷静に考えられるのは和寿が鳥のことをよく知っているからだった。和寿と言えば近所で鳥好き動物好きで通ってる。普通の人だったら自治体でさんざん言われている巣立ちヒナは保護しないでくださいとのお達しの通り放っておくかもしれない。
全ての状況を知っていた和寿は、弱ったヒナを手のひらに包み込んで動物病院につれて行った。動物病院の先生も、すべてを察してすぐにスズメを介抱してくれた。そして和寿にいたわりの言葉をかけてくれた。「よく助けた」と。
スズメの子は診察室でみるみる元気を取り戻した。もう大丈夫だろう綱渡りしていた命は危うさを脱した。その日の晩に和寿は、スズメのヒナを家に持ち帰り、飛べる様になるまで育てることを決心した。
まずヒナには名前が付けられた名前はヒナが和寿に初めてささやいた鳴き声をもじった。つまり「チュビッ」と鳴いたのでチュヴィンにした。チュヴィンには、和寿が親の代わりになって餌を与えた。初めは口を開けることにもままならなかったのでスポイトで水をあたえた。そしてヒマワリの種を剥いて、それを小さくちぎって少しずつ食べさせてやった。やがて元気になると口元に雑穀を運んでやり様子を見た。チュヴィンはみるみるうちに育って大きくなった。羽も生えそろってきた。保護して2週間経ったころには羽を広げて飛ぶ練習もしだした。そんな様子を見ているとおじいさんがやって来て
「そろそろ巣立ちだな。野生の鳥は飼っちゃいけないんだ」
と言った。
「そんなこと知っているよ。もうすぐ自然に返してやるんだ」
でも和寿の目には涙がにじんでいた。そしてもう一度
「そんなこと知ってるよ」
と涙声で小さくつぶやいた。
さてチュヴィンが旅立つ時が来た。もうチュヴィンにしてあげられることはありません。翼を持つ者には家の中は狭すぎます。どこまでもつながる広い大空が似合うのでしょう。和寿はチュヴィンを手のひらで優しく包んでやり外に向かった。そして手のひらをゆっくり開いて外の様子を見せた。
「怖いこともあるだろうけどおまえの生きて行く場所はここだよ」
と言って手のひらを高く上げて飛び立つのを待った。すると何やら手のひらから聞こえてくる。
「今まで育ててくれてありがとう。そしてチュヴィンという名をつけてくれてありがとう。ぼくのお気に入りの名前にするね。これからも仲間を集めて訪ねて来るよ。『チュヴィン』と呼べばその手のひらにやって来るからその時はよろしくね」
何とチュヴィンが話している。ぼくはどうにかしてしまったのだろうか、と思ったが空耳だと思って気にすることは無かった。チュビンは飛び立った。
小学五年生の和寿は、飼育係なので学校へは早めに出かけた。まだだれも来ていない教室で飼育係の作業にあたった。教室ではウサギ6匹とハムスターを10匹飼っている。ウンチを取り除いてやって新しいわらを敷き詰めてやった。それから肝心の水と食事をやった。すると驚くべきことがおきる。ウサギが話し始めたのだ。
「今日のにんじんは青臭さが足りないね、生徒さんの将来が心配だな。本物の青臭いニンジンを食べなきゃ」
ハムスターも話し出した
「このチーズいつのだよ。少し臭うぜ。こっちは臭いがしたらまずいだろう」
今朝から変だ。耳の様子がおかしい。空耳が聞こえてくる。鳥や動物の話声がするのだ。朝起きて飼っている文鳥のブンちゃんの世話をしている時には何も起こらなかった。するとチュヴィンが何か仕掛け事をしていったのだろうか。別れ際に空耳を聞いたような気がする。まさかチュビンにそんな能力があるなんて、どんなおまじないをかけたのだろう………。そろそろ教室に生徒がぽつぽつとやって来ていたが、誰もこの異常事態に気づかない。っていうか鳥や動物の話声が聞こえるのは僕だけなのか。誰かにこの話題を振ってみようか。いやとても信じてもらえないだろう。
朝礼が始まった。今日は日直も兼ねていた和寿は号令をかけた「起立…、礼…、着々席…」どもってしまった。周りから笑い声が聞こえる。でもそんなことよりどうしよう。鳥や動物好きだった和寿は彼らと話したいという欲求を持っていたものの、まさか実現するなんて。人に言わないでおこう。妙な目で見られるのはまずい。いやいやそんなことよりも、こんなことがおきてもいいのか。という驚きの方が大きかった。それは和寿を悩みの種でもあったけれど、にわかに喜んだ。他人にはこの能力が使えることは隠し、どうしたら最高にエンジョイできるかを考えた。
あれは一週間前のことだった。縁側の軒先の地べたから苦しそうな鳥の鳴き声がする。どうやらスズメの巣が軒にあるのだろう。そこから落ちたらしい。上を見てみると親鳥と思われるスズメが泣き叫んでいる。ヒナ鳥の体はあまりに幼い。どう見ても巣立ちヒナとは考えられなかった。もっと幼い子が誤って落ちてしまったのだろう。
こんなふうに冷静に考えられるのは和寿が鳥のことをよく知っているからだった。和寿と言えば近所で鳥好き動物好きで通ってる。普通の人だったら自治体でさんざん言われている巣立ちヒナは保護しないでくださいとのお達しの通り放っておくかもしれない。
全ての状況を知っていた和寿は、弱ったヒナを手のひらに包み込んで動物病院につれて行った。動物病院の先生も、すべてを察してすぐにスズメを介抱してくれた。そして和寿にいたわりの言葉をかけてくれた。「よく助けた」と。
スズメの子は診察室でみるみる元気を取り戻した。もう大丈夫だろう綱渡りしていた命は危うさを脱した。その日の晩に和寿は、スズメのヒナを家に持ち帰り、飛べる様になるまで育てることを決心した。
まずヒナには名前が付けられた名前はヒナが和寿に初めてささやいた鳴き声をもじった。つまり「チュビッ」と鳴いたのでチュヴィンにした。チュヴィンには、和寿が親の代わりになって餌を与えた。初めは口を開けることにもままならなかったのでスポイトで水をあたえた。そしてヒマワリの種を剥いて、それを小さくちぎって少しずつ食べさせてやった。やがて元気になると口元に雑穀を運んでやり様子を見た。チュヴィンはみるみるうちに育って大きくなった。羽も生えそろってきた。保護して2週間経ったころには羽を広げて飛ぶ練習もしだした。そんな様子を見ているとおじいさんがやって来て
「そろそろ巣立ちだな。野生の鳥は飼っちゃいけないんだ」
と言った。
「そんなこと知っているよ。もうすぐ自然に返してやるんだ」
でも和寿の目には涙がにじんでいた。そしてもう一度
「そんなこと知ってるよ」
と涙声で小さくつぶやいた。
さてチュヴィンが旅立つ時が来た。もうチュヴィンにしてあげられることはありません。翼を持つ者には家の中は狭すぎます。どこまでもつながる広い大空が似合うのでしょう。和寿はチュヴィンを手のひらで優しく包んでやり外に向かった。そして手のひらをゆっくり開いて外の様子を見せた。
「怖いこともあるだろうけどおまえの生きて行く場所はここだよ」
と言って手のひらを高く上げて飛び立つのを待った。すると何やら手のひらから聞こえてくる。
「今まで育ててくれてありがとう。そしてチュヴィンという名をつけてくれてありがとう。ぼくのお気に入りの名前にするね。これからも仲間を集めて訪ねて来るよ。『チュヴィン』と呼べばその手のひらにやって来るからその時はよろしくね」
何とチュヴィンが話している。ぼくはどうにかしてしまったのだろうか、と思ったが空耳だと思って気にすることは無かった。チュビンは飛び立った。
小学五年生の和寿は、飼育係なので学校へは早めに出かけた。まだだれも来ていない教室で飼育係の作業にあたった。教室ではウサギ6匹とハムスターを10匹飼っている。ウンチを取り除いてやって新しいわらを敷き詰めてやった。それから肝心の水と食事をやった。すると驚くべきことがおきる。ウサギが話し始めたのだ。
「今日のにんじんは青臭さが足りないね、生徒さんの将来が心配だな。本物の青臭いニンジンを食べなきゃ」
ハムスターも話し出した
「このチーズいつのだよ。少し臭うぜ。こっちは臭いがしたらまずいだろう」
今朝から変だ。耳の様子がおかしい。空耳が聞こえてくる。鳥や動物の話声がするのだ。朝起きて飼っている文鳥のブンちゃんの世話をしている時には何も起こらなかった。するとチュヴィンが何か仕掛け事をしていったのだろうか。別れ際に空耳を聞いたような気がする。まさかチュビンにそんな能力があるなんて、どんなおまじないをかけたのだろう………。そろそろ教室に生徒がぽつぽつとやって来ていたが、誰もこの異常事態に気づかない。っていうか鳥や動物の話声が聞こえるのは僕だけなのか。誰かにこの話題を振ってみようか。いやとても信じてもらえないだろう。
朝礼が始まった。今日は日直も兼ねていた和寿は号令をかけた「起立…、礼…、着々席…」どもってしまった。周りから笑い声が聞こえる。でもそんなことよりどうしよう。鳥や動物好きだった和寿は彼らと話したいという欲求を持っていたものの、まさか実現するなんて。人に言わないでおこう。妙な目で見られるのはまずい。いやいやそんなことよりも、こんなことがおきてもいいのか。という驚きの方が大きかった。それは和寿を悩みの種でもあったけれど、にわかに喜んだ。他人にはこの能力が使えることは隠し、どうしたら最高にエンジョイできるかを考えた。
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