チュヴィン

もり ひろし

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第1章 100の仲間たち

02話 和寿、チュヴィンと再開する

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 翌朝早くに、和寿はチュヴィンの世話をしなくちゃと目覚めて、あ、もうチュヴィンは遠い所へ旅立ったのだという思いにがっかりして起きた。そして軒先から庭に出てチュヴィンがいるであろう薄明の遠い空を眺めた。すると背後で「チュビッ」というスズメの鳴き声が聞こえてくる。振り返るとスズメが一羽いて、それは羽毛の柄から忘れもしないチュヴィンだと分かった。見慣れた身のこなしからもそれが分かる。

「チュヴィン。君は遠くに行ってしまったのではないのかい」
「俺の行動範囲はそう広くないんです」
チュヴィンが話した。そうだ昨日から僕は鳥や動物と話せるようになっていたのだ。
「チュヴィン。君は僕に魔法をかけたのかい」
気になっていることを話した。
「魔法っていうほどのこともないです。ご自身の能力をもっとわかりやすいようにしただけですよ。ご自身、鳥や動物がどうしてほしいかが分かるでしょ、それはそれはまれな能力ですよ。人間にとっては」
「我々にとっては人間のしたいことなんて当たり前のようにわかるのです。だからそれをお互いに分かりやすくしただけです。人間たちが、テレパシーと呼んでいるものの親せきですよ」 

「人間も元はこういう能力を皆持っていたのです。しかし人間ははっきりわかる五感で感じ、わかりやすく頭の脳みそで考えられるように適応したのです。我々はあいまいだけど、より微細に、体で感じ取ることができる方を選んだのです」

「それとこれからはあなた様のことを『ご主人』と呼びましょう。より親密になれるでしょ。ご主人はこれまで通り『チュヴィン』とお呼びください」

「それと、これは本当に魔法と呼べるものですが、ご主人がわたしの背中をさすれば私と同じくらいの背丈になれます。小人になって私の背に乗り、どこまでも飛んで行けるようになれます。便利でしょ。ぜひわたしの背中をさすってください。何も怖いことはありません。元に戻りたければ、同じように背中をさすれば、元の大きさに戻れますよ」

 そして最後に行っておきますが、魔法という力を諷してはなりません。これはこの世を生きて行くルールなのです。

こうしてチュヴィンはまくしたてた。びっくりだが和寿は受け入れるしかなかった。って言うよりこの必然を楽しんだ。そう、なんという必然なんだろう。確かに和寿は鳥や動物の気持ちが分かったように過ごしてきた。それが真実だったことが知れて、とくいになったのだ。



 早速、和寿は、小さなチュヴィンの背を撫でた。ギュルギュルギュルと音がして和寿の背は縮んでいった。そして一瞬気絶をした。目覚めて辺りを見てみると何もかもが大きくて映画の撮影で小人用の美術セットの中に放り込まれたようだ。さあチュヴィンに乗ろう。チュヴィンの背中は広かった和寿の背の倍はある。
「チュヴィン。乗ってもいいかい」
「どうぞ」
和寿はチュヴィンの首に手を回して背中におぶさった。顔が羽毛にうずもれた。なんて気持ちのいい匂いなんだろう。お日さまの匂いがした。くせになりそうだ。
「では飛びまスヨ」
「ああ頼むよ」
バタバタバタ、チュッチュッチュッチュッ、気持ちいい音がする。気持ちいい匂いもする。そしてお日さまはまだ上ったばかり、広大なセピア色の風景が広がった。和寿は興奮して失神してしまいそうだった。
「さあどこに下ります」
「あの苺が自生している丘に降りよう。今頃熟れた苺の実が成っている丘があるだろぉ。お腹が空いちゃったよ。一緒に食べよう」
「承知しました。苺わたしたちも大好物です。
ひとりと一羽は、今頃は、とても美味しい苺の実がなる丘に降りた。
「さあ朝ご飯だ。苺を思う存分食べよう」
「美味しいね」
「そうです。こんなに美味しい苺の実はめったにありません」
一羽と一人はしばらく黙々と食べた。
小人の和寿にとって苺はお化けのように大きかった。たねはこぶし大の大きさ固くて食べられない。
「さあそろそろ帰らなきゃ」
「それじゃあまた背に乗ってください」
「ああ」
「それじゃあ、行きますよ」
バタバタバタ、チュッチュッチュッチュッ
屋敷にはすぐについた。そしてチュヴィンの大きい背を優しくなでるとシュ~~~という音とともに和寿は等身大に戻った。一瞬気を失ったが、すぐに目覚めた。
チュヴィンは
「いつでも呼んでくださいね」
と言って飛び立ったって行った。

 さて文鳥のブンちゃんの世話をしなきゃ
ブンちゃんおはよぅ
「おはようご主人様」
ブンちゃんもやはり話し始めた。ブンちゃんはいった
「よくわたしのこと分かっているんだから、何も話せるようにならなくてもいいんだけど、話せるなら言っておきたいことがあってさ」
「なんだい」
「わたしの水浴びの水、まだ寒いからお湯にしてくれないかしら」
「ああ分かっていたよ。この前寒そうにしていたからね。朝忙しくて一手間なんだけど、つい楽しちゃうのさ。ごめんよ」
「やっぱり分かっていたのね」時間が許すときだけでいいからお願い」
「ああ、わかったよ。それから雑穀のからを時々吹き飛ばすのを忘れてごめん。食べづらいだろ」
「やっぱり分かっていたのね。分かっているならいいの。忙しいのよね」

 和寿の忙しい朝の仕事は終わった。チュヴィンと食べた苺の実は小びとサイズの自分には腹いっぱいでも、等身大サイズの自分には微々たるものだった。朝の支度をしよう、ご飯を食べよう。そして学校に出かけよう。
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