チュヴィン

もり ひろし

文字の大きさ
3 / 30
第1章 100の仲間たち

03話 和寿、飼育係の一日

しおりを挟む
 和寿に続いて、おじいさんと、母親が起きてきた。
「あら。いつも悪いわね。人数分の目玉焼き」
和寿も小学校高学年だ。家の手伝いらしきことを始めたのだ。
「大げさだなあ。目玉焼き作るくらいの事はするさ」
和寿は自分の分以外にも4つ余計に目玉焼きをつくっていた。紳吉おじいさん、寿夫父さん、和美母さんの分、それと姉の明美の分だ。姉はからっきし家事がダメなので、二人で留守番をするときは、和寿が面倒をみた。今日も姉は和寿が登校した後に起きてきてご飯を飲み込み遅刻すれすれダッシュで、和寿と同じ小中一貫校の中等部に通う。そんなに慌てるならもっと早く起きて来ればいいのにと思ったが、これはもう遺伝子にかきこまれていることらしい、姉は根っからの夜型だが、和寿は朝型なのだ。
「遺伝子には逆らわない方がいいわよ」
と姉は言っていた。

 和寿は、登校した。まだ人込みは少ない静かな朝だった。鳥の鳴き声がする。
「おはよう~」
と聞こえるがこれは鳥の声だ。鳥たちの声は平和だなあと和寿は思った。
学校への距離は500mくらい。他の生徒が遠距離で通う中、和寿姉弟にとっては幸せなことだった。学校に着くと和寿はまず飼育係の仕事にとりかかった。調理室に向かうと給食のおばちゃんたちがもう仕事にとりかかっている。そこから野菜くずをもらってきた。動物たちの食糧だ。それからバケツに水をくんできた。あとはみんなが来る前に動物の世話をしておかなければならない。

そろそろクラスメートが集まり始める。皆、姉と同じ夜型なのかと思うように時間ギリギリの生徒が多い。きっと両親が夜遅くまで起きているせいだろう。



 飼育係には休み時間はあってもないようなもの。休み時間にはペットたちを、かまいに来る子もいる。どうしたらいいのかわからない子もいるので和寿が助け舟を出してやった。ウサギのピョンちゃんにさわりたいという子がいると。ピョンちゃんの胸の下に手を入れ、お尻をすくい上げるようにして持ち上げる。同じようにして抱かせてあげる。動物に触れる子はみな瞳がきらきらした。和寿も飼育係の苦労が報われる瞬間だ。ハムスターのミッキーも人気者だ。ハムスターとスキンシップをとる場合は、すくうように手のひらにのせることが基本だ。それを口頭で説明して実践させる。皆から、歓声の声が上げる。和寿も一緒になって喜んだ。休み時間を挟んで授業はどんどん消化されていった。和寿は授業を上の空で聞いていた。理科の生き物は得意だったが、その他はついて行けず、いつも補修を受けていた。

 そして放課後も、和寿は動物たちの世話をしていた。休み時間には何も言わなかった動物たちが話し始めた。まずはピョンちゃん。
「俺たちって自由はないのかい。俺たちは校庭を思いっきり走りたいのさ、抱き上げてくれるのはうれしいけど落とされやしないかと思って、ひやひやすることもあるよ」
和寿は聞いていた。
「大丈夫さ丁寧だったろ」
「まあねうちの本宮先生よりは安心できたけど」
本宮先生というのは動物ぎらいで知られる和寿のクラスの担任だ。
「今度、校庭を散歩させてあげるよ」
「運動不足で体がむずむずするのサ。頼むよ」

 ハムスターのミッキーも話始めた。
「俺は運動不足はないね。運動不足でストレスがたまると回し車を思いっきり回すのさ。時に空しくなることはあるけどね。俺も本当は教室を走り回りたいよ」
「それは我慢してもらうしかないかな。君は外に出したらそのすばしっこい足でそのまま逃走をはかるのだろ」
「分かるかい」
「ご飯はどうするのさ」
「その時には戻って来るさ」
「戻ってきたって君はどこを走ったか分からないから、衛生上もう仲間には入れないよ。君は自分で食べていかなきゃならなくなる」
「それは困るな。ご飯なんて人間が用意してくれたものしか食べたことがない。外では食べられるものの区別さえつかないよ。ペットは辛いな」
「まあそのうち何とかしてあげるよ」

 ウサギのピーターが話し始めた「今日はご飯が少なかったね」
「きょうは野菜くずが少なかったからね、最近、動物を飼うクラスが増えたのさ、今日のところはごめんよ。明日は家からも持ってくるよ」

「さて今日の仕事は終わり。帰るからまた明日ね」
皆腹の底から声を出して「お疲れさんです」と言った。

 腹の底から「お疲れさんです」なんておかしいな。動物たちの声を聞いていると、なんだか調子が狂っちゃう。しかし真面目に聞いていると問題点も浮き彫りになる。運動不足と食事の量か。確かに飼われている動物はずっとケージの中だから運動不足なのは明らかだし、それと食事の量。おなかをすかせたとき自由に動いて食事を取ることができないのはケージの中の動物の悩みだろうな、と思った。



 家に帰ると早速チュヴィンを呼んだ。夕方のフライトを楽しむために。チュヴィンはすぐにやって来た。
「ご主人どうぞ」
和寿はチュビンの背中を撫でるとギュルギュルギュルと轟をあげて体を縮めていった。そして小人になるとチュヴィンの首に手を回してしがみ付き、「オーレ‼」と号令をかけてチュヴィンを飛ばした。
バタバタバタ、チュッチュッチュッチュッ‼
フラメンコでもなし、なぜ「オーレ‼」なのかというと、そんな気分だったというしかない。一日のストレスが吹き飛んで行った
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

処理中です...