【完結】魔法少女お助け係に任命される 〜力隠してクラスの事件を解決します〜

野々 さくら

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3話 魔法少女、お助け係に指名される

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 次の日。
 朝の登校時、真後ろにあいつがいる。
 こいつの前で失敗は許されない。
 そう思った私は、いつも以上に気を引きしめ、無心を決めこむ。

 しかし、こいつはどこまでも人の気を知らないのか。学校に着いて登校班が解散になったら、話しかけてきた。

「なあなあ、昨日はなんで何も言わなかったんだよ」
「逃げることないだろ?」
「ペンケース、やっぱり浮いていたんじゃないか?」

 そんなデレカシーもないこいつを、私は思わずにらみつける。
(王子様? 悪魔の間違いじゃないの? ……落ち着け私。練習はしてきたでしょう?)

 パターン1
「見まちがいじゃないの?」
「お、しゃべった! この目は確かだぞ。視力2.0あるし!」
 あんたの視力なんか、どうでもいいわ!

 パターン2
「へ、変なこと言わないでよ!」
「オレはこの目に見えたことを言っているだけだ。変なこと言ってるのはお前だろ?」
 変で悪かったな!

 パターン3
「〇〇くんって面白いね~」(茶化す)
「〇〇くん? ……お前、今日オレに会ったらこう話すように練習してただろう? 分かりやす~」
 こいつはいつもの澄ました顔を変え、口元を抑えて肩を震わせている。
(しまったー! こいつの名前が分からないから〇〇くんで練習していたら、本番でも言ってしまった! もー! ムダに力があるなら、顔見たら名前も分かる力も追加してよ!)

 残念ながら、私の力は思ったこと全てが叶う魔法ではない。
 全てを見透せる力があったら、テストの惨劇さんげきはないだろう。

「なあ、オレに話してみろよ? な?」
 そう言うこいつはやはり顔が近く私が一歩下がると、一歩前に近づいてくる。
(だから近いって! だれが話すかー!)

「一人で悩んでいるんじゃないのか?」
(……え?)
 その言葉に私はそいつの目を見ると、確かにその目はきれいで。先ほどまでのおどけた顔ではなく、真剣な表情をしていた。

「話してみろよ」
 その言葉に、心のフタが少しゆるむ。
 そこから出てきた気持ちが、言葉を通して私の中であふれてきていた。

「……私は……。実は魔法の力が……」

つばさくーん! おはよう! 早くクラスに行こうよー!」
 私の声と、女子たちの声が重なった。

 三人の女子、伊藤いとうさん、川崎かわさきさん、内藤ないとうさんはこいつのことを「イケメン王子様」と呼び、いつも側にいる。
 イマドキの服や小物を持っているオシャレ女子だ。
 私とはまったくちがう。

「あ、おはよう。先に行ってて」
 また表情を変えたこいつは、いつものさわやかな笑顔と声に戻る。
 いわゆるイケメン王子様と呼ばれる姿に。

 私はその姿に心の中で大きくため息をつき、黙ってそいつから離れて先を歩く。
 
「まだ話の途中……」
 かけられた声をムシして。

 危ない、危ない。
 イケメン王子様に関わったら、ろくなことにならない。
 私はもう目立ちたくない。平和な学校生活を送る。そう決めている。
 だから魔法のことは、誰にも知られる訳にはいかないのだ。
 それなのに、どうして自分から力のことを話そうとしていたの?
 自分で、自分が分からなかった。

(心にフタ。心にフタ)
 そう念じて、私は静かに教室に入り席に着く。

 しかし、やはり人の気持ちを知らないあいつは行動を起こしてきた。
 ずっと、あいつからの嫌な視線を感じるようになった。
 しかも、チラチラではなくガッツリ。
 やめてよ! 女子の目、怖いんだから!

 そう思う私は必死に目をそらすが、あいつは席を立ちこちらに向かってくる。
 あのイケメン王子様スマイルと共に。
 冷や汗ダラダラな私は、こいつの「なあ」という声をムシして教室から出て行く。
 行き着いた先は、中庭だった。

「はぁ~」
 蕾のついた桜を見上げて、大きなため息をついていた。

(なんで私が逃げないといけないの? あいつの方が教室を出たらいい……。違う! 違います! だから教室に居てください!)
 そんな考えが出たけど、本当に理由もなく教室を出て行くのは不自然過ぎる。
 だから私は、必死に魔法の取り消しをするしかない。
 その瞬間しゅんかんに感じる体からドッと出る疲れ。
 登校したばかりなのに、一日が終わったかのように錯覚さっかくしてしまう。

 しかし、授業は待ってくれない。
 今日の一時間目は学級活動の、自己紹介にクラスの係決め。
 私の一番嫌いな科目だ。
(早く普通の授業始まらないかな。……いやいや、予定通りの時間割で良いです……。)
 急に授業内容が変わったら大変なため、私は仕方がなく念じる。

 そうしているとチャイムが鳴り、私は慌てて教室に戻る。


「魔夜優花です」
 私は自己紹介を終わらせた。

「いやいや、魔夜さん。他には? たとえば、好きな教科とか、好きなキャラクターとか……」
 先生は、そう話してくれる。しかし……。

「ないです」
 私はそう返事し、イスに座る。

 自己紹介、つまり自己の名前を紹介したら良いんだよね?
 それなのに、なんで好きな科目や、好きなキャラクターを言わないといけないんだろう?

 ……本当のこと言ったら、笑うクセに。

 あ、いけない。
 私は、心のフタをキュッキュッとしめ直す。

 その後、数人の自己紹介が終わり、一つ目の予定が終わる。

「はい。良い自己紹介でしたね。次はクラスの係決めです」
 先生の言葉に、クラス中がざわつく。
 係はおもしろいものもあれば、大変ものもある。
 それによって学校生活が変わってしまう、それぐらい重要なものなのだ。
 そして、学級委員の次に大変なのは「お助け係」。
 名前の通り、困っている人を助ける役割だ。
 何かあると、すぐ動かないといけない。ある意味、学級委員より大変な係でもある。

「誰かやる人いないかな? やりがいはあると思うんだけど?」
 そんな声に、クラス全員が先生から目をそらし、うつ向く。
 毎学期、学級委員とお助け係は必ず決まらない。それぐらい大変な仕事なのだ。

 私はそんな目立つ係より、今回も一人で活動する「落とし物係」が良い。
 だって私には、誰の物か視えるんだから。
 誰もいない教室で、こっそり持ち主に返す。一分で終わる、楽な仕事だ。

 力は使わないようにしているが、勝手に視えてしまう。
 しかも、この力は暴走することがないから安心して使用できる。
 だから、お助け係みたいな大変な仕事は……。

「はい!」
 静まり返った教室で、あいつが元気よく手を上げた。

「えー。大変だよ!」
「やめた方が良いよー!」
 さわぎ出す女子の声に対して。
「オレ、やりたいです!」
 その声を跳ねのけて、あいつはグイグイと前のめりになっている。

(うわあ、物好きだなー)
 私はあくびしながら、そんな姿を遠目で見ていた。
 すると、クラスの女子たちが手を上げ始める。

「はい! やります!」
「いえ、私が!」
「やらせてください!」
 いつもあいつの側に居る女子以外も、手を上げていた。

 マジで! よくやるな……。
 そう思いながら、これは時間がかかるかと机につっぷす。
 朝から気を張ったり、力を抑えたりして、眠さが限界だった。

「じゃんけんにしようか?」
 先生の声が、どんどん小さくなっていく。

「先生、オレが指名していいですか?」
「ん? 誰かな?」
「優花を指名します!」
 眠りに落ちる前に聞こえてくる、あいつの声。
 ゆうか? 誰だっけ?
 まあ、どうでもいいけどお気の毒。
 そんなことより、一分一秒でも私は眠りたかった。

「ああ、摩夜優花さんだね」
 先生の声に私の目はパチリと開き、顔を上げる。
 すると先生は、私を見てにっこり笑ってくる。

「へ? いや、別の子ですよ」
 私は周りを見渡し、名前が同じ「ゆうか」を探す。

「このクラスの『優花さん』は摩夜さんだけですよ。良いですね。では摩夜さんに任命します!」
 そう言い、先生はパチパチと手を叩く。

「……え? えー!」
 思わず大叫びしてしまう私に。
「よろしくなー! 優花ー!」
 そいつは、私に大きく手を振りながら笑う。
 その表情は、いつものさわやかイケメン王子様の笑顔ではなく、いたずらっ子のような無邪気な笑顔と両ほほにできたえくぼだった。

「えー!」
 それを目の当たりにしたクラス中がざわつき、特に女子は悲鳴のような声だった。

 は? なんで私を指名してくるの?
 って言うか何、呼び捨てにしちゃってんの!

 次の瞬間に気づく。私に刺さる、視線の数々が……。

 ひ~! かんべんしてよ~!

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