こいゆび、ひみつ

地熱スープ

文字の大きさ
8 / 21
月村陽太の章

陽太の変化

しおりを挟む
陽太は慌ててその場から立ち去り、足早に自分の部屋へ逃げ込んだ。ドアを閉めると同時にベッドへ倒れ込み、布団を顔まで引き上げた。柔らかな布地が頬に触れる感覚だけが、現実に引き戻してくれる唯一の手がかりだった。

「なんだよ…あんなの見せやがって…」


陽太は小さくつぶやきながら、自分の耳まで真っ赤になっていることに気づいた。それでも、その熱さをどうすることもできず、ただ布団の中で身を縮めるしかなかった。

目を閉じても琴音の姿が鮮明に浮かび上がる。湯上がりで赤みを帯びた肌、湿った髪、慌てて体を隠そうとする仕草。その全てがまるで写真のように脳裏に焼き付いて離れない。

「なんで俺、こんなに落ち着かないんだよ…」


胸の鼓動は激しくなるばかりで、気持ちを落ち着けようとしても逆効果だった。寝返りを打ちながら布団にもぐり込むたび、その記憶はさらに鮮明になり、胸の奥でざわつきを引き起こし続けていた。

***

その夜、陽太はなかなか眠れなかった。布団の中で何度も寝返りを打つたび、琴音の姿が頭に浮かんでくる。湯気に包まれた彼女の笑顔や仕草。

それらは記憶から離れるどころか、ますます鮮明になり、振り払おうとすればするほど胸のざわつきが増していった。

「どうして俺…」


陽太は自分でも理解できない感情に困惑しながらも、疲れ切った体に引きずられるようにして、ようやく眠りについた。

数日後の夜――陽太は夢を見た。

夢の中で琴音は柔らかな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと陽太に近づいてきた。周囲にはぼんやりとした光が広がり、その笑顔は眩しいほどだった。陽太は思わず手を伸ばし、その指先が琴音に触れる寸前――ふいに現実へ引き戻された。

目を開けると、暗闇だけが広がっていた。胸には妙なざわつきだけが残り、その感覚は夢と現実との境界線を曖昧にしているようだった。

「はぁ…はぁ…」


陽太は荒い息をつきながら起き上がった。寝汗でパジャマが湿り、背中に張り付く感覚が気持ち悪い。嫌な予感を抱えながら、恐る恐るシーツをめくった。

「え?これ…なんだよ…」


シーツと下着には見慣れない白い染みが広がっていた。それは乾きかけており、微かな匂いが漂っている。陽太は頭が真っ白になり、どうしていいかわからなくなった。

「これ…おしっこ?いや、違う。何だこれ…」


胸の奥でざわつく感覚と、自分でも理解できない不安が押し寄せてくる。

陽太は慌ててシーツを掴み取り、そのまま洗濯機に押し込んだ。手元が震えていることに気づきながらも、とにかく早くこの状況を隠したい一心だった。しかし、この出来事について誰かに相談する勇気はどうしても湧いてこなかった。

***

恥ずかしさと不安に押しつぶされそうになりながらも、この謎めいた体験について一人で悩む日々が続いていた。

「これって…みんなもなるものなのか?」


陽太は小さくつぶやきながら歯を軽く噛みしめた。胸の奥でじわじわと苛立ちが広がり、それは言葉にできないほど不快で、自分自身への怒りにも似ていた。

自分の体で起きていることが理解できない。その無力感は胸を締め付け、焦りと混乱が頭の中でぐるぐると回り続ける。それでも、この出来事について誰にも聞けないという現実だけが彼を孤独へ追いやっていた。

陽太は壁に拳を押し当てた。冷たい感触が皮膚越しに伝わるものの、その硬さに力を込めることもできず、ただ手を滑らせるだけだった。

「なんで俺だけ…くそっ…」


小さな呟きが漏れる。その声には苛立ちと戸惑いが入り混じっていた。

自分だけが知らない何か大きな真実に触れてしまったような感覚。それなのに、それを一人で抱え込まなければならないという孤独感と重圧。それらすべてが複雑に絡み合い、陽太の心の中で嵐のように渦巻いていた。

胸の奥で広がるそのざわつきをどうすることもできず、陽太はただ静かに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...