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放課後 ~後日談~
バレンタイン・こぼれ話
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※バレンタイン後の様子を、ちょっと。
――――――――――――――――――――――――
「ただいまぁ……」
13日の木曜日、夜10時過ぎ。玄関からぐったりと疲れた様子の莉子の声が聞こえてきた。
今日は俺が車で送るから、と透からは聞いていたが、それにしても随分と遅い。
(受験勉強も追い込みだし、大変なのね)
玲香はそう思い、温かく迎えてあげようとパタパタとスリッパの音をさせて玄関に向かった。
「お帰りなさ……あら?」
そこには、赤とピンクのチューリップの花束を抱え、頬が上気したままの莉子の姿が。
「どうしたの、それ?」
「え、あの……新川センセー、が……」
莉子はそう言いながら右手で自分の襟元をギュッと握りしめる。玲香と一切目を合わせようとしない。
何か様子がおかしいわね、と思いながら玲香は重ねて聞いてみる。
「バレンタインだから?」
「うん……」
――まさか。
玲香はごくり、と唾を飲み込んだ。
莉子ちゃんのこの後ろめたそうな様子。うっすらと桃色に染まった頬。心ここにあらずとばかりに泳ぐ瞳。自分の体を庇うように回した腕。疲労困憊と言わんばかりにフラつく足元。
――まさか透くん、莉子ちゃんを……っ!
「受験前の大事な時に、何てこと!」
「……は?」
急に叫びだした玲香に、莉子は何度も目をパチクリさせた。
玲香は両手の拳を握りしめ、両肩をプルプル震わせている。
「それだけは……それだけは堪えてくれると思ってたのにぃ!」
「れ、玲香さん? どうしたんですか?」
「莉子ちゃん、大丈夫? 身体は辛くない? ああもう、男って本当にどうしようもないわね!」
「んがっ……」
どうやら勘違いされたらしいと気づいた莉子が、ますます真っ赤になる。
それを見た玲香がますます慌ててポケットからスマホを取り出す。
「これは保護者として黙ってられないわ!」
「ちが、玲香さん、違います――!!」
……結局その後、莉子は余韻に浸る暇もなくすべて玲香に報告する羽目になる。
何でこんなダブルで辱めを……と、莉子は心の中で大泣きするのだった。
* * *
「新川先生! 私、第一志望に合格しました!」
14日の金曜日。梨花は光野予備校に訪れて自分の入試結果を報告していた。
「そうか。良かったな」
「はい、これで無事に春から女子大生です。指定校推薦を外れたときは投げ出したくなったけど、諦めずに頑張ってよかったー」
「そうだな」
「あ、で、これ。バレンタインなので、感謝チョコです」
「ありがとう。……あ、そうだ」
チョコを見て思い出したのか、透は「耳を貸せ」というようにちょいちょいと梨花を手招きした。
珍しいなあ、と思いながら梨花が至近距離に近づくと、透が誰にも聞こえないような小声で
「莉子と会ったんだって?」
と問いかける。
「あ、はい。ちょっとしたアドバイスを……」
「ありがとう」
そう言う透の顔は、なぜか満面の笑み。
梨花は「ん?」と首を傾げた。
どうして新川先生からお礼を言われるんだろう。それに、仁神谷さんが私のことをわざわざ新川先生に言うとは思わなかったな。
何かアクシデントでもあったのかな。気になるなあ……。
梨花がひそかに気を揉んでいると、予備校のチャイムが1階職員室に響き渡った。慌てて教室に入る生徒、プリントをトントンと揃えて立ち上がる教師……授業開始の合図に、辺りがざわつき始める。
「次、授業だからこれで。小林、合格おめでとう。それじゃまたな」
「あ、はい」
透は机の上に用意してあった教材を抱えて立ち上がり、颯爽と歩いて行ったが――目尻はデレッと下がり、右手を口元に当てながらニヤニヤと思い出し笑いをしている。
すべてを知っているという気安さだろうか。それでもあの一件以来、透が梨花の前で予備校講師の仮面を外すことはなかったのだが。
これはよっぽどのことがあったに違いない、と梨花は考えた。透のゴキゲンが莉子のゴキゲンに繋がるとは限らないということを、彼女は漠然と悟っている。
(仁神谷さん、大丈夫だったのかしら……)
一抹の不安を覚えた梨花は、受験勉強の邪魔をしても、と葛藤しつつも……その日の夜、莉子に電話をした。
電話の向こうの莉子は、三度の辱めに
「あ、あの、大バカ者が――!」
と、絶叫するのだった。
* * *
玲香には洗いざらい話す羽目になり、梨花にもつつかれ――莉子はすっかり疲れ果ててしまった。
恵に愚痴ってスッキリしてしまおうと考え、莉子は土曜日、久しぶりに恵の家に行った。
事の顛末を一通り話すと、恵は手を叩いて大笑いした。
「あは、あははは――!」
「笑い事じゃないから!」
「いや、だってさあ……莉子って的確にスイッチを押すよねー!」
笑いが止まらない恵は、涙まで浮かべている。
莉子はむうう、と唇を尖らせた。
「スイッチ?」
「モジモジしながらそんないじらしいこと言われたら、そりゃ押し倒したくもなるでしょ!」
「いじらしい? 私はただ懺悔を……」
「いやー、可愛らしい懺悔だ。私だってギュッとしたくなるもん」
恵が手をワキワキさせながら莉子ににじり寄る。やめてよ!と莉子が真っ赤な顔をしてその手を振り払うが結局はあらがえず、恵に熱烈なハグをされてしまった。
そうしてしばらくじゃれ合っていたが、どうにか落ち着きを取り戻した恵は
「……で? 花言葉は調べたの?」
と莉子に聞いてみた。
莉子はやや頬を染めながらこくんと頷いた。
「調べた。赤が『真実の愛』でピンクが『誠実な愛』だった」
「ふうん」
「全然、誠実じゃないよね!」
「いやー?」
恵はスマホを取り出すと、国語辞書で『誠実』を検索する。その画面を莉子にも見せると、ぷぷっと小さく笑った。
「ほら、真心を持って接してるんだから『誠実』ではあるよね」
「私利私欲をまじえず、でしょ、『誠実』は!?」
「欲のスイッチを押したのは莉子だからねぇ……自業自得?」
「何でそうなるのよ!」
莉子のクレームはそのまま聞き流し、恵は無料占いサイトを検索した。
「まぁまぁ、せっかく誕生日と血液型もわかったんだし、相性占いでもしてみる?」
「え……」
「普通は小学生ぐらいで通る道なんだけどねぇ。えーと、莉子は魚座のB型で、新川センセーが牡牛座のAB型……と」
スマホを操作する恵にピタリと寄り添い、莉子がその手元をじっと覗き込む。何だかんだ言っても、結果は気になるらしい。
『相性:46% 分かりあえない相手
牡牛座AB型の彼の考えに「何でそうなるわけ?」と疑問続出の魚座B型の彼女。分かり合えないことに腹立ちを覚えやすい相性』
「ぶふ――っ! さ、最高!」
「もう、最悪だよ!」
大ウケする恵の隣で、莉子は傍に置いてあったクッションにバフッと突っ伏してしまった。
――――――――――――――――――――――――
テキトーに決めた莉子ちんと新川透の誕生日と血液型。
まさかこんな占い結果になるとは……(実話)。( ̄▽ ̄;)
――――――――――――――――――――――――
「ただいまぁ……」
13日の木曜日、夜10時過ぎ。玄関からぐったりと疲れた様子の莉子の声が聞こえてきた。
今日は俺が車で送るから、と透からは聞いていたが、それにしても随分と遅い。
(受験勉強も追い込みだし、大変なのね)
玲香はそう思い、温かく迎えてあげようとパタパタとスリッパの音をさせて玄関に向かった。
「お帰りなさ……あら?」
そこには、赤とピンクのチューリップの花束を抱え、頬が上気したままの莉子の姿が。
「どうしたの、それ?」
「え、あの……新川センセー、が……」
莉子はそう言いながら右手で自分の襟元をギュッと握りしめる。玲香と一切目を合わせようとしない。
何か様子がおかしいわね、と思いながら玲香は重ねて聞いてみる。
「バレンタインだから?」
「うん……」
――まさか。
玲香はごくり、と唾を飲み込んだ。
莉子ちゃんのこの後ろめたそうな様子。うっすらと桃色に染まった頬。心ここにあらずとばかりに泳ぐ瞳。自分の体を庇うように回した腕。疲労困憊と言わんばかりにフラつく足元。
――まさか透くん、莉子ちゃんを……っ!
「受験前の大事な時に、何てこと!」
「……は?」
急に叫びだした玲香に、莉子は何度も目をパチクリさせた。
玲香は両手の拳を握りしめ、両肩をプルプル震わせている。
「それだけは……それだけは堪えてくれると思ってたのにぃ!」
「れ、玲香さん? どうしたんですか?」
「莉子ちゃん、大丈夫? 身体は辛くない? ああもう、男って本当にどうしようもないわね!」
「んがっ……」
どうやら勘違いされたらしいと気づいた莉子が、ますます真っ赤になる。
それを見た玲香がますます慌ててポケットからスマホを取り出す。
「これは保護者として黙ってられないわ!」
「ちが、玲香さん、違います――!!」
……結局その後、莉子は余韻に浸る暇もなくすべて玲香に報告する羽目になる。
何でこんなダブルで辱めを……と、莉子は心の中で大泣きするのだった。
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「新川先生! 私、第一志望に合格しました!」
14日の金曜日。梨花は光野予備校に訪れて自分の入試結果を報告していた。
「そうか。良かったな」
「はい、これで無事に春から女子大生です。指定校推薦を外れたときは投げ出したくなったけど、諦めずに頑張ってよかったー」
「そうだな」
「あ、で、これ。バレンタインなので、感謝チョコです」
「ありがとう。……あ、そうだ」
チョコを見て思い出したのか、透は「耳を貸せ」というようにちょいちょいと梨花を手招きした。
珍しいなあ、と思いながら梨花が至近距離に近づくと、透が誰にも聞こえないような小声で
「莉子と会ったんだって?」
と問いかける。
「あ、はい。ちょっとしたアドバイスを……」
「ありがとう」
そう言う透の顔は、なぜか満面の笑み。
梨花は「ん?」と首を傾げた。
どうして新川先生からお礼を言われるんだろう。それに、仁神谷さんが私のことをわざわざ新川先生に言うとは思わなかったな。
何かアクシデントでもあったのかな。気になるなあ……。
梨花がひそかに気を揉んでいると、予備校のチャイムが1階職員室に響き渡った。慌てて教室に入る生徒、プリントをトントンと揃えて立ち上がる教師……授業開始の合図に、辺りがざわつき始める。
「次、授業だからこれで。小林、合格おめでとう。それじゃまたな」
「あ、はい」
透は机の上に用意してあった教材を抱えて立ち上がり、颯爽と歩いて行ったが――目尻はデレッと下がり、右手を口元に当てながらニヤニヤと思い出し笑いをしている。
すべてを知っているという気安さだろうか。それでもあの一件以来、透が梨花の前で予備校講師の仮面を外すことはなかったのだが。
これはよっぽどのことがあったに違いない、と梨花は考えた。透のゴキゲンが莉子のゴキゲンに繋がるとは限らないということを、彼女は漠然と悟っている。
(仁神谷さん、大丈夫だったのかしら……)
一抹の不安を覚えた梨花は、受験勉強の邪魔をしても、と葛藤しつつも……その日の夜、莉子に電話をした。
電話の向こうの莉子は、三度の辱めに
「あ、あの、大バカ者が――!」
と、絶叫するのだった。
* * *
玲香には洗いざらい話す羽目になり、梨花にもつつかれ――莉子はすっかり疲れ果ててしまった。
恵に愚痴ってスッキリしてしまおうと考え、莉子は土曜日、久しぶりに恵の家に行った。
事の顛末を一通り話すと、恵は手を叩いて大笑いした。
「あは、あははは――!」
「笑い事じゃないから!」
「いや、だってさあ……莉子って的確にスイッチを押すよねー!」
笑いが止まらない恵は、涙まで浮かべている。
莉子はむうう、と唇を尖らせた。
「スイッチ?」
「モジモジしながらそんないじらしいこと言われたら、そりゃ押し倒したくもなるでしょ!」
「いじらしい? 私はただ懺悔を……」
「いやー、可愛らしい懺悔だ。私だってギュッとしたくなるもん」
恵が手をワキワキさせながら莉子ににじり寄る。やめてよ!と莉子が真っ赤な顔をしてその手を振り払うが結局はあらがえず、恵に熱烈なハグをされてしまった。
そうしてしばらくじゃれ合っていたが、どうにか落ち着きを取り戻した恵は
「……で? 花言葉は調べたの?」
と莉子に聞いてみた。
莉子はやや頬を染めながらこくんと頷いた。
「調べた。赤が『真実の愛』でピンクが『誠実な愛』だった」
「ふうん」
「全然、誠実じゃないよね!」
「いやー?」
恵はスマホを取り出すと、国語辞書で『誠実』を検索する。その画面を莉子にも見せると、ぷぷっと小さく笑った。
「ほら、真心を持って接してるんだから『誠実』ではあるよね」
「私利私欲をまじえず、でしょ、『誠実』は!?」
「欲のスイッチを押したのは莉子だからねぇ……自業自得?」
「何でそうなるのよ!」
莉子のクレームはそのまま聞き流し、恵は無料占いサイトを検索した。
「まぁまぁ、せっかく誕生日と血液型もわかったんだし、相性占いでもしてみる?」
「え……」
「普通は小学生ぐらいで通る道なんだけどねぇ。えーと、莉子は魚座のB型で、新川センセーが牡牛座のAB型……と」
スマホを操作する恵にピタリと寄り添い、莉子がその手元をじっと覗き込む。何だかんだ言っても、結果は気になるらしい。
『相性:46% 分かりあえない相手
牡牛座AB型の彼の考えに「何でそうなるわけ?」と疑問続出の魚座B型の彼女。分かり合えないことに腹立ちを覚えやすい相性』
「ぶふ――っ! さ、最高!」
「もう、最悪だよ!」
大ウケする恵の隣で、莉子は傍に置いてあったクッションにバフッと突っ伏してしまった。
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