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収監令嬢・その後SS
召喚聖女は必殺技を覚えたい
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魔獣トラスタのところへ訪問した後の話です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
聖女の匣迷宮、第1層。
目の前に広がる青い湖をじっと睨みつけ、マユがスッと息を吸う。
そして右手に持っていた死神メイス……もとい、白の三日月ロッドを両手で掴み、いきなり肩に担いだ。
三日月部分は体の後ろ、柄の先端が湖へと向くように。まるでバズーカー砲でも撃つような体勢だ。
「〝アクア・ショット〟!」
マユが唱えた途端、柄の先からピシューッと水が放たれる。透明な水は綺麗な放物線を描くと湖面へと吸い込まれていった。辺りに波紋がいくつも浮かぶ。
「……何をしているんです、マユ」
いつの間に現れたのか、魔王セルフィスがマユの背中に声をかける。金色の瞳を訝し気に細め、やや首を傾けて。
「あら、セルフィス。いつの間に?」
「あまりにも真剣に魔精力を練っているようだったので黙って見ていたのですが」
「そっか」
「で、今のは何ですか?」
「必殺技の練習よ」
むん、とやや胸を張り、左手を腰に当ててマユが得意そうに答える。右手は杖を握り肩に載せたまま。まるで荒くれた剣士のようだ。
「なぜ、杖を肩に担いでいるんでしょうか」
「圧力を上げるなら出口を小さくした方がいいと思ったの。ほら、杖の先って魔法陣を描くために尖ってるから」
柄の先を指差しながらマユが答えるが、セルフィスの眉間の皺は増えるばかりだった。ハテナマークがさらに増えたような、そんな顔をしている。
「……根本的なことを聞きますけど、その必殺技とやらを覚えてどうするんです?」
どう考えても『魔物の聖女』が表に出て戦う機会はないように思うのだが……というセルフィスの疑念は、当然だろう。
しかしマユは「あら」と声を上げ、意外そうに両目を見開いた。
「ムーンから聞いてない? トラスタから『分身見分け勝負のリベンジマッチをしたい』って言われたの」
「また来てくれと熱心に誘われていた、とは聞きましたが。その後イーオスでおとなしくしているようだったので放置していました」
「あ、それね、多分特訓よ」
「特訓?」
これまた耳慣れない言葉に、セルフィスがますます眉を顰める。
「私に分身の術が見破られたの、本当に悔しかったらしいの」
「は……」
「だからイーオスの森で特訓してるんですって。でも、私が分身、つまり『影』を見抜けるようになったのはセルフィスのおかげなんだけどね」
ふふふ、と肩をすくめ、マユが意味ありげに笑う。
それは、セルフィスがマユに吐いていた多くの嘘の一つ。ややきまり悪くなり、セルフィスはついっと視線を逸らせた。
魔王セルフィスは約二年の間、『影』の状態でマユに接していた。その間に本体で接する機会があったこともあり、マユは完全に『影』と『本体』の見分けがつくようになっていた。
魔王セルフィスが本気で偽装した場合は見抜くなど到底無理だろうが、それでも天界由来の魔精力は魔界由来の魔精力を凌駕する。
魔精力を感知するのに長けたマユが数多の分身から魔獣トラスタの本体を見抜くことは、りんごの中の梨を見抜くほど容易な事だった。
何度対決しようが、マユが負ける訳が無い。しかも一定の進化を終えたトラスタとは違い、マユは聖女として成長過渡期だ。
「だから、それまでにこの技を完成させようと思って」
「……はぁ」
「威力はともかく、発動までの時間をもう少し短くしたいところだわ。うーん」
前は杖から溢れる水流でトラスタの分身を打ち消したマユだが、本当はもっとシューティングゲームのようにビシッと標的を撃ち落としたかったらしい。
マユは右手に持った杖をまじまじと見つめると、どうすれば自分の思うような水撃を放てるかを真剣に考え始めた。
一方魔王セルフィスは、
(スタンが珍しく人間社会に茶々を入れずおとなしくしていると思ったら、マユのおかげか……)
と納得し、何度も頷いていた。
トラスタは喧嘩好きで、諍いを陽動するのが得意な魔獣だ。小競り合いを続けるイーオス三国にときどきちょっかいをかけてはその争う様を見物している。
直接人間たちを虐げている訳ではないため約定違反ではない。しかし度が過ぎる場合は、魔王が直接命令して控えさせていたのだが。
(まさかこんな抑え方があるとは思いませんでしたよ……。本当に、マユは面白いですね)
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聖女の匣迷宮、第1層。
目の前に広がる青い湖をじっと睨みつけ、マユがスッと息を吸う。
そして右手に持っていた死神メイス……もとい、白の三日月ロッドを両手で掴み、いきなり肩に担いだ。
三日月部分は体の後ろ、柄の先端が湖へと向くように。まるでバズーカー砲でも撃つような体勢だ。
「〝アクア・ショット〟!」
マユが唱えた途端、柄の先からピシューッと水が放たれる。透明な水は綺麗な放物線を描くと湖面へと吸い込まれていった。辺りに波紋がいくつも浮かぶ。
「……何をしているんです、マユ」
いつの間に現れたのか、魔王セルフィスがマユの背中に声をかける。金色の瞳を訝し気に細め、やや首を傾けて。
「あら、セルフィス。いつの間に?」
「あまりにも真剣に魔精力を練っているようだったので黙って見ていたのですが」
「そっか」
「で、今のは何ですか?」
「必殺技の練習よ」
むん、とやや胸を張り、左手を腰に当ててマユが得意そうに答える。右手は杖を握り肩に載せたまま。まるで荒くれた剣士のようだ。
「なぜ、杖を肩に担いでいるんでしょうか」
「圧力を上げるなら出口を小さくした方がいいと思ったの。ほら、杖の先って魔法陣を描くために尖ってるから」
柄の先を指差しながらマユが答えるが、セルフィスの眉間の皺は増えるばかりだった。ハテナマークがさらに増えたような、そんな顔をしている。
「……根本的なことを聞きますけど、その必殺技とやらを覚えてどうするんです?」
どう考えても『魔物の聖女』が表に出て戦う機会はないように思うのだが……というセルフィスの疑念は、当然だろう。
しかしマユは「あら」と声を上げ、意外そうに両目を見開いた。
「ムーンから聞いてない? トラスタから『分身見分け勝負のリベンジマッチをしたい』って言われたの」
「また来てくれと熱心に誘われていた、とは聞きましたが。その後イーオスでおとなしくしているようだったので放置していました」
「あ、それね、多分特訓よ」
「特訓?」
これまた耳慣れない言葉に、セルフィスがますます眉を顰める。
「私に分身の術が見破られたの、本当に悔しかったらしいの」
「は……」
「だからイーオスの森で特訓してるんですって。でも、私が分身、つまり『影』を見抜けるようになったのはセルフィスのおかげなんだけどね」
ふふふ、と肩をすくめ、マユが意味ありげに笑う。
それは、セルフィスがマユに吐いていた多くの嘘の一つ。ややきまり悪くなり、セルフィスはついっと視線を逸らせた。
魔王セルフィスは約二年の間、『影』の状態でマユに接していた。その間に本体で接する機会があったこともあり、マユは完全に『影』と『本体』の見分けがつくようになっていた。
魔王セルフィスが本気で偽装した場合は見抜くなど到底無理だろうが、それでも天界由来の魔精力は魔界由来の魔精力を凌駕する。
魔精力を感知するのに長けたマユが数多の分身から魔獣トラスタの本体を見抜くことは、りんごの中の梨を見抜くほど容易な事だった。
何度対決しようが、マユが負ける訳が無い。しかも一定の進化を終えたトラスタとは違い、マユは聖女として成長過渡期だ。
「だから、それまでにこの技を完成させようと思って」
「……はぁ」
「威力はともかく、発動までの時間をもう少し短くしたいところだわ。うーん」
前は杖から溢れる水流でトラスタの分身を打ち消したマユだが、本当はもっとシューティングゲームのようにビシッと標的を撃ち落としたかったらしい。
マユは右手に持った杖をまじまじと見つめると、どうすれば自分の思うような水撃を放てるかを真剣に考え始めた。
一方魔王セルフィスは、
(スタンが珍しく人間社会に茶々を入れずおとなしくしていると思ったら、マユのおかげか……)
と納得し、何度も頷いていた。
トラスタは喧嘩好きで、諍いを陽動するのが得意な魔獣だ。小競り合いを続けるイーオス三国にときどきちょっかいをかけてはその争う様を見物している。
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