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収監令嬢・その後SS
召喚聖女はどうしても必殺技を覚えたい
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風魔法の必殺技を練習していたマユだったが、その後……?
というお話。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私が間違っていたわ、セルフィス」
魔王城、謁見の間。魔王城内部へと続く黒い扉から突然現れたマユが、神妙な面持ちで切り出す。
魔王セルフィスはやや驚き、訝し気に首を傾げた。
「唐突にどうしましたか?」
聖女の匣迷宮ではなく、マユがこちらにまで足を運ぶのはかなり珍しい。
マユの左手の薬指には、セルフィスが渡した黒と金と銀の三連指輪がはめられている。これは魔界由来の魔精力からマユを守るための物で、この指輪をはめている限りマユは魔界内を自由に動けるようになっていた。
とは言っても空を飛んだり長距離を移動したりすることは不可能なので、魔王城内はソールワスプ、外出時は月光龍の世話になっていたのだが。
「必殺技のことよ」
「……ああ」
そう言えばついこの間まで、匣迷宮で熱心に練習していたな、とセルフィスは思い出した。ホッと息をつく。
「ようやく気付いて頂けましたか。聖女に必殺技は要らな……」
「そうじゃなくて! 必殺技とは鍛錬の果てに編み出すものだってことよ!」
「え、そっちですか?」
全然違う角度からの言葉に、魔王セルフィスが思わず声を上げる。
そんなセルフィスにはお構いなしに、マユは
「私の考えが足りなかったわ」
と悔いるような口調で切り出した。
「思えば、レベル上げもせずに必殺技を覚えられる訳がないのよ。いわゆる経験値稼ぎが必要なのよね、絶対」
「は……」
「聖者学院でも実技はあまりできなかったし……。理論は勉強できたけど、それだけじゃ駄目だわ。やっぱり実践しないと」
「え……」
「いくら頭で理解できても、それが実際にできるかどうかは別問題よ。練習しなければ淀みなく力を行使できるようにはならないわ」
「でも……」
「だけど、本はあるけど教えてくれる先生がいないのよね。ああ、トーマス先生にもっと色々なことを教わりたかったわ」
「全然聞いてませんね、人の話……」
一方的に喋りまくるマユにセルフィスが溜息をつく。
口が回るのはそれだけマユが絶好調であることを示しているのだが、それは魔王セルフィスにとって頭痛の種が増えることに他ならない。
マユはセルフィスを一瞥すると、
「聞いているわ、一応」
と肩をすくめた。
「でも、聖女が魔法の鍛錬を積むことは悪い事じゃないはずよ。それでね、セルフィス。私が経験値稼ぎできるようないい感じのダンジョンない?」
「ありません。あっても教えません」
これはまた厄介なことを言い出した、とセルフィスが端から切り捨てる。
「どうして?」
「魔物の聖女が魔物狩りをしてどうするんです。世界のバランスが崩れますよ。そんなに魔王降臨を早めたいんですか?」
「あ、そっか」
どうやらすっかりゲーム脳になっていたらしいマユが、自分の短慮に気づいて声を上げる。
「それはもっともね」
と素直に頷くマユに、今度こそわかってくれたか、とセルフィスが安堵したのも束の間。
「じゃあ、イミテーション的なものでもいいんだけど。マデラが闘技場でソイルスライムを出したみたいに」
と新しい提案がなされ、玉座からずり落ちそうになった。
だからどうしてそこまでする必要が……。
しかし「必殺技もそのための特訓も必要ありません」と繰り返したところで意味は無さそうだ。
そう考え、半ば諦めたセルフィスは、
「わたしが中庭で相手をしてあげます。それでいいでしょう」
と、渋々代替案を出した。
しかしマユは、そのせっかくの申し出にすら
「えええ~~」
と難色を示す。
「何ですか、その不満そうな顔は」
「セルフィスは真面目に教えてくれなさそうだもの。お茶を濁して終わりそう」
「マユに魔法の指導をしたのはわたしですが?」
「それは感謝してるけど、もう要らないとか言ってる人が先生じゃあ……」
「それに魔法の実技指導ともなればある程度の結界も必要です。わたしの領域以外にそんな場所は無いでしょう?」
いい加減この辺で妥協してください、とばかりにやや強めに言ったものの、当然ながらマユには通じない。
うーん、としばらく考え込んだあと
「そうだ、マイヤ様!」
と叫び、ポンと手を打った。
「は?」
「火の王獣、フィッサマイヤ様よ! 結界は申し分ないし、文献も読めるし。きっときちんと教えて下さるわ!」
「マユ、ちょっと待」
「ムーン! そういう訳でよろしく!」
もういいわよね、とばかりにマユが開かれた扉を振り返る。すると月光龍がその長い首をのっそりと突き出し、
“また面倒なことを言い出したか……”
とぼやいた。
どうやらマユの中では外出は織り込み済みで、既に月光龍を近くに待機させておいたらしい。
“まぁ、魔物の巣窟に連れていけ、と言われるよりはいい”
「でしょ? じゃあよろしくね」
「ムーン、またマユの企みに加担する気ですか!」
マユの用意周到ぶりに眩暈がしつつも、それに乗った月光龍へと魔王の怒りの矛先が向く。
張本人のマユは「人聞き悪いわね!」とやや憤慨していたが。
“マイヤも聖女に会いたがっていたし、ちょうどいい。退屈しないだろう”
「わたしが退屈しますが?」
「大丈夫よ。必殺技を編み出すまで帰らない、みたいな路線じゃないから。ちゃんとここに帰って来るわ」
「当たり前です! 外泊なんて許しません!」
「もう、セルフィスってば門限厳しいパパみたい……」
“……フン”
相変わらず珍妙なやりとりをする魔王と聖女に、月光龍が呆れたように鼻息を漏らす。
こうして強引にセルフィスから承諾を取り付けたマユは意気揚々と月光龍の背に乗り、魔王城を飛び出した。
後に残された魔王セルフィスは魔界の宙を見上げ、
「はあああああ……」
と大きな溜息をつくのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……という訳で、マユはマイヤ様の下で修業を始めました。(ただし通いで)
※トーマス先生:『特別魔法科』の魔法指導を担当していた老人。超一流の魔導士。第8幕第1話に登場。
というお話。
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「私が間違っていたわ、セルフィス」
魔王城、謁見の間。魔王城内部へと続く黒い扉から突然現れたマユが、神妙な面持ちで切り出す。
魔王セルフィスはやや驚き、訝し気に首を傾げた。
「唐突にどうしましたか?」
聖女の匣迷宮ではなく、マユがこちらにまで足を運ぶのはかなり珍しい。
マユの左手の薬指には、セルフィスが渡した黒と金と銀の三連指輪がはめられている。これは魔界由来の魔精力からマユを守るための物で、この指輪をはめている限りマユは魔界内を自由に動けるようになっていた。
とは言っても空を飛んだり長距離を移動したりすることは不可能なので、魔王城内はソールワスプ、外出時は月光龍の世話になっていたのだが。
「必殺技のことよ」
「……ああ」
そう言えばついこの間まで、匣迷宮で熱心に練習していたな、とセルフィスは思い出した。ホッと息をつく。
「ようやく気付いて頂けましたか。聖女に必殺技は要らな……」
「そうじゃなくて! 必殺技とは鍛錬の果てに編み出すものだってことよ!」
「え、そっちですか?」
全然違う角度からの言葉に、魔王セルフィスが思わず声を上げる。
そんなセルフィスにはお構いなしに、マユは
「私の考えが足りなかったわ」
と悔いるような口調で切り出した。
「思えば、レベル上げもせずに必殺技を覚えられる訳がないのよ。いわゆる経験値稼ぎが必要なのよね、絶対」
「は……」
「聖者学院でも実技はあまりできなかったし……。理論は勉強できたけど、それだけじゃ駄目だわ。やっぱり実践しないと」
「え……」
「いくら頭で理解できても、それが実際にできるかどうかは別問題よ。練習しなければ淀みなく力を行使できるようにはならないわ」
「でも……」
「だけど、本はあるけど教えてくれる先生がいないのよね。ああ、トーマス先生にもっと色々なことを教わりたかったわ」
「全然聞いてませんね、人の話……」
一方的に喋りまくるマユにセルフィスが溜息をつく。
口が回るのはそれだけマユが絶好調であることを示しているのだが、それは魔王セルフィスにとって頭痛の種が増えることに他ならない。
マユはセルフィスを一瞥すると、
「聞いているわ、一応」
と肩をすくめた。
「でも、聖女が魔法の鍛錬を積むことは悪い事じゃないはずよ。それでね、セルフィス。私が経験値稼ぎできるようないい感じのダンジョンない?」
「ありません。あっても教えません」
これはまた厄介なことを言い出した、とセルフィスが端から切り捨てる。
「どうして?」
「魔物の聖女が魔物狩りをしてどうするんです。世界のバランスが崩れますよ。そんなに魔王降臨を早めたいんですか?」
「あ、そっか」
どうやらすっかりゲーム脳になっていたらしいマユが、自分の短慮に気づいて声を上げる。
「それはもっともね」
と素直に頷くマユに、今度こそわかってくれたか、とセルフィスが安堵したのも束の間。
「じゃあ、イミテーション的なものでもいいんだけど。マデラが闘技場でソイルスライムを出したみたいに」
と新しい提案がなされ、玉座からずり落ちそうになった。
だからどうしてそこまでする必要が……。
しかし「必殺技もそのための特訓も必要ありません」と繰り返したところで意味は無さそうだ。
そう考え、半ば諦めたセルフィスは、
「わたしが中庭で相手をしてあげます。それでいいでしょう」
と、渋々代替案を出した。
しかしマユは、そのせっかくの申し出にすら
「えええ~~」
と難色を示す。
「何ですか、その不満そうな顔は」
「セルフィスは真面目に教えてくれなさそうだもの。お茶を濁して終わりそう」
「マユに魔法の指導をしたのはわたしですが?」
「それは感謝してるけど、もう要らないとか言ってる人が先生じゃあ……」
「それに魔法の実技指導ともなればある程度の結界も必要です。わたしの領域以外にそんな場所は無いでしょう?」
いい加減この辺で妥協してください、とばかりにやや強めに言ったものの、当然ながらマユには通じない。
うーん、としばらく考え込んだあと
「そうだ、マイヤ様!」
と叫び、ポンと手を打った。
「は?」
「火の王獣、フィッサマイヤ様よ! 結界は申し分ないし、文献も読めるし。きっときちんと教えて下さるわ!」
「マユ、ちょっと待」
「ムーン! そういう訳でよろしく!」
もういいわよね、とばかりにマユが開かれた扉を振り返る。すると月光龍がその長い首をのっそりと突き出し、
“また面倒なことを言い出したか……”
とぼやいた。
どうやらマユの中では外出は織り込み済みで、既に月光龍を近くに待機させておいたらしい。
“まぁ、魔物の巣窟に連れていけ、と言われるよりはいい”
「でしょ? じゃあよろしくね」
「ムーン、またマユの企みに加担する気ですか!」
マユの用意周到ぶりに眩暈がしつつも、それに乗った月光龍へと魔王の怒りの矛先が向く。
張本人のマユは「人聞き悪いわね!」とやや憤慨していたが。
“マイヤも聖女に会いたがっていたし、ちょうどいい。退屈しないだろう”
「わたしが退屈しますが?」
「大丈夫よ。必殺技を編み出すまで帰らない、みたいな路線じゃないから。ちゃんとここに帰って来るわ」
「当たり前です! 外泊なんて許しません!」
「もう、セルフィスってば門限厳しいパパみたい……」
“……フン”
相変わらず珍妙なやりとりをする魔王と聖女に、月光龍が呆れたように鼻息を漏らす。
こうして強引にセルフィスから承諾を取り付けたマユは意気揚々と月光龍の背に乗り、魔王城を飛び出した。
後に残された魔王セルフィスは魔界の宙を見上げ、
「はあああああ……」
と大きな溜息をつくのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……という訳で、マユはマイヤ様の下で修業を始めました。(ただし通いで)
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