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第3話 何でこうなった?

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「俺なんかに関わるとロクなことにならないぞ。さっさと帰れ」

……とか何とか、カッコ良く言えればよかったんだけどよ。
 俺がマゴマゴしているうちに、女が

「もうすぐ死ぬ人なら、病院じゃないかな?」

と言い、

「そこまで案内してあげる!」

とバイクの後ろにあっという間に跨ってしまったので、仕方なくそのまま走り出してしまった。
 女の両腕が俺の腰辺りに絡みついている。
 俺に触れて幽界バイクにも乗れるなんて、昨今の霊感少女はスゲーな。

 もう少し話したいと言われドキリとしたが、どうやら『死神バイト』に興味があったようだ。

「死神バイトって何?」
「どうやって魂を獲るの?」
「魂を集めてどうするの?」

と、矢継ぎ早に質問された。

 特に隠す必要もねぇか、と「誰にも言うなよ」と前置きをしたうえで、仕事の内容とか道具の使い方とかを話して聞かせた。
 だってこの女が下界の誰かにこの話をしたところで、頭のおかしい奴扱いされるだけだ。
 ……それに、何となく話しても大丈夫そうな気がしたし。

 ポイント制度だとか大物を獲らないといけない理由なんかを話すと、
「変なの、面白ーい!」
と大笑いしていた。
 だいぶん慣れてきたようだ。切り替えが早い。あどけないというか、何というか。

 ……というより、もともとそうおとなしい女ではなかったらしい。俺の話に表情をくるくる変え、「なるほどー」と頷いたり「へー」と声を上げたり「大変だね」と労ってくれたりする。

「しかし全然ビビらねぇのな。お前、普段から色んなモンが見えるのか?」
「ん、まぁね……」
「大変だな。俺が生きてたときは…………あん?」

 我ながらおかしなことを言った。もう記憶はサッパリ抜け落ちているというのに。
 生きてたときどうしてたかなんて、話せるはずもねぇ。

「生きてたときは?」
「いや、間違いだ。なーんにも覚えてねぇからな」
「……そうなんだ。あ、そこだよ」

 その声でブレーキをかけ、ギュアンッと派手な音をさせてバイクを止める。
 ついっと宙を見上げ、思わずため息をついた。

「……あー、結構漂ってんなー」

 コンクリート八階建ての総合病院。駐車場もやけに広いし、建物も三棟ぐらいに分かれていて、かなりでかい。
 死んだ人間もたくさんいるのだろう、ふわふわと極小の魂があちこちでゆらゆらしている。

 ……いや待て、それにしても数が多いな? そんなに一度に死ぬか?

「列車事故があって、大半がこの病院に運び込まれたんだってー」
「はぁー」

 不慮の事故か。そりゃ死んだと気づいてない人間も多いだろうなー。
 俺は懐から幽界電話を取り出すと、ピッとボタンを押して事務所に繋いだ。
 何回かコールしたあと、留守電に変わる。

「ちっ、留守電かよ……。おーい、タナトさーん!」
“…………どうしたんだ?”

 ダメもとで怒鳴ってみると、留守電から切り替わってタナトさんの声が聞こえてきた。
 ったく、最初から出てくれよ。

「何か事故があったらしくて、極小魂がいっぱいいるんスけど。獲りにくる?」
“他の死神は?”
「今んとこいないっスね。これからかも」
“……わかった。今から向かうよ”

 プツン、と切られる。
 ウチの事務所、ちっせぇから電話番とか受付のねーちゃんとかいねぇんだよな。

「おい、女」
「チカだよ」
「そうか。おい、チカ。今から俺のセンパイが来っから、ここまでな。ほれ、降りろ」
「えー」
「いいから早く」
「……今度は、いつ会える?」
「……」

 昨今のJKは積極的だなー。

「一週間はこの辺りをウロウロしてるよ」
「……わかった」

 チカはホッとしたような顔をすると、素直にバイクのケツから下りた。

「じゃあまたね!」
「……おう」

 無邪気に手を振られたのでつられて振り返す。何となく後ろ姿を見送っていると、チカはタッタッタッと駆けていき、すぐの角を曲がって消えていった。

 変な女だな。死神って聞いてあんなにビビッてたのに、また会いたがるなんて。
 ……しかし、下界の女に見られた挙句バイクにも乗せちまったなんてバレたら、怒られるかもなあ。黙ってよっと。
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