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第2話 とりあえず下見だぞ、と
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「はー、この辺かあ」
独り言を言いながら、足の下に広がる家やビルを見下ろす。屋根のところどころに白いものが混じっていた。
どうやら雪のようだな。季節は冬か。まぁ、死神バイトの俺には暑さとか寒さとか全くわかんねぇんだけど。
いったんエンジンを切り、うーむと唸りながら腕を組む。
ミニカーみたいな車が走り回り、人間がアリンコみたいに行き来している様子がよくわかる。
結構いっぱい人がいる街だな……こんなところから大物を見つけることなんて俺にできんのかなあ?
大物と言うと、『徳』を積んだ人間ってことかなあ。エラい坊さんとか?
……とすると、よぼよぼのジジイかもなあ。この辺りの寺とか神社とかチェックしておいた方がいいかもな。
再びエンジンを回し、さらに下って地面まで降りる。
何の変哲もない、アスファルトの道。端の方には溶けかけた雪が灰色のグズグズになっている。
この辺は住宅地だな。遠くには信号機があってコンビニの駐車場が見える。さらに奥には田んぼも……。
俺が死んでから、どれぐらい経ってんだろうなあ。幽界に行っちまうと現世での記憶は抜かれちまうから、全然わかんねぇんだよなぁ。
とは言っても、失うのは過去の自分の経歴だけな。日常的な常識とかは覚えてる。例えば、信号の『青は進め、赤は止まれ』とか、そーゆーの。
「……ええっ!」
不意に、背後で叫び声が聞こえてきた。
振り返ると、一人の女が右手を自分の口元にあて呆然と立ち尽くしている。
紺色のブレザーに赤いネクタイ。グレーのチェック柄のヒダスカートに紺色のハイソックス、黒のローファー。
いわゆるJKってやつだな。大人っぽいし、中学生ではないだろ。
髪は肩くらいのボブカットで、まぁまぁ可愛い。だけどその表情は「信じられない!」とでもいった様子で、悲し気というか、何というか。
何だ何だ、彼氏の浮気現場でも目撃したかと前に向き直ったが、人っ子一人いない。
いったいこの女は何に驚いてるんだ、と思い、もう一度振り返る。すると、バシッと女子高生と目が合った。
「何だ?」
「嘘だぁ……」
もう一度前を見る。……誰もいない。
再び振り返る。……俺と目が合う。
信じがたいが……どうやらやっぱり、俺を見て驚いているようだ。
死神バイトである俺の姿が見える下界の人間なんて、いる訳がねぇんだが。
こいつはアレかな、霊感少女ってやつなのかな。
「おい、女。俺が見えんのか?」
「……」
女はゴクリと唾を飲み込み、コクコクと頷く。
「どう見えてる?」
「バイク、乗って、緑の、スカジャン着た、金髪で、ピアス、ジャラジャラ……」
こりゃ本当に見えてるな。
とすると、宙からバイクで降りてくる俺が見えてたってことかな。だとしたら、そりゃ驚くか。
そうだ、せっかくならこの場所について情報を貰おう。
「驚かせて悪かったな。俺は死神バイトのカメだ」
「えっ」
顔面蒼白になる。口元はわなわなと震え、今にも泣き出しそうだ。
「し、死神……」
「あっ、別にお前の魂を獲りに来たわけじゃねぇからな!」
これは誤解されたっぽい、と慌てて女に説明する。
「この辺に大物の魂が出るはずなんだよ。死にかけのエラい坊さんとか心当たりないか?」
「知らない……そんな、不吉な……」
「……」
死神は不吉、か。まぁそうかもな。
でも、別に俺たちは無理矢理魂を狩る訳じゃねぇ。人間が勝手に死ぬんだ。
死んだ人間の魂が迷う事の無いように上に連れていくだけだってのに。
むしろ刈るのは、現世への未練なんだけどな。
「そうか、悪かったな」
女を怖がらせたようで、申し訳なさが募る。
これ以上怯えさせてもな、と再びエンジンを回し走りだそうとすると、
「ま、待って!」
と女が叫んだ。
とりあえず、顔だけ振り返る。しかし女の表情からは怯えが消えない。
そんなに怖いなら、なぜ呼び止める?
「何だ?」
「えっと……」
「心当たりでも見つかったか?」
「ううん……」
ぷるぷると首を横に振ったあと、女は少し俯いた。
目があちこち泳いでいる。心なしか、頬が赤いような。
そして何かを決意したようにパッと顔を上げると、射貫くような視線を俺に向けた。
「あの、もう少しお話ししたい!」
「……」
あまりのことで、俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
――何てこった。下界の女に、ナンパされちまった。
独り言を言いながら、足の下に広がる家やビルを見下ろす。屋根のところどころに白いものが混じっていた。
どうやら雪のようだな。季節は冬か。まぁ、死神バイトの俺には暑さとか寒さとか全くわかんねぇんだけど。
いったんエンジンを切り、うーむと唸りながら腕を組む。
ミニカーみたいな車が走り回り、人間がアリンコみたいに行き来している様子がよくわかる。
結構いっぱい人がいる街だな……こんなところから大物を見つけることなんて俺にできんのかなあ?
大物と言うと、『徳』を積んだ人間ってことかなあ。エラい坊さんとか?
……とすると、よぼよぼのジジイかもなあ。この辺りの寺とか神社とかチェックしておいた方がいいかもな。
再びエンジンを回し、さらに下って地面まで降りる。
何の変哲もない、アスファルトの道。端の方には溶けかけた雪が灰色のグズグズになっている。
この辺は住宅地だな。遠くには信号機があってコンビニの駐車場が見える。さらに奥には田んぼも……。
俺が死んでから、どれぐらい経ってんだろうなあ。幽界に行っちまうと現世での記憶は抜かれちまうから、全然わかんねぇんだよなぁ。
とは言っても、失うのは過去の自分の経歴だけな。日常的な常識とかは覚えてる。例えば、信号の『青は進め、赤は止まれ』とか、そーゆーの。
「……ええっ!」
不意に、背後で叫び声が聞こえてきた。
振り返ると、一人の女が右手を自分の口元にあて呆然と立ち尽くしている。
紺色のブレザーに赤いネクタイ。グレーのチェック柄のヒダスカートに紺色のハイソックス、黒のローファー。
いわゆるJKってやつだな。大人っぽいし、中学生ではないだろ。
髪は肩くらいのボブカットで、まぁまぁ可愛い。だけどその表情は「信じられない!」とでもいった様子で、悲し気というか、何というか。
何だ何だ、彼氏の浮気現場でも目撃したかと前に向き直ったが、人っ子一人いない。
いったいこの女は何に驚いてるんだ、と思い、もう一度振り返る。すると、バシッと女子高生と目が合った。
「何だ?」
「嘘だぁ……」
もう一度前を見る。……誰もいない。
再び振り返る。……俺と目が合う。
信じがたいが……どうやらやっぱり、俺を見て驚いているようだ。
死神バイトである俺の姿が見える下界の人間なんて、いる訳がねぇんだが。
こいつはアレかな、霊感少女ってやつなのかな。
「おい、女。俺が見えんのか?」
「……」
女はゴクリと唾を飲み込み、コクコクと頷く。
「どう見えてる?」
「バイク、乗って、緑の、スカジャン着た、金髪で、ピアス、ジャラジャラ……」
こりゃ本当に見えてるな。
とすると、宙からバイクで降りてくる俺が見えてたってことかな。だとしたら、そりゃ驚くか。
そうだ、せっかくならこの場所について情報を貰おう。
「驚かせて悪かったな。俺は死神バイトのカメだ」
「えっ」
顔面蒼白になる。口元はわなわなと震え、今にも泣き出しそうだ。
「し、死神……」
「あっ、別にお前の魂を獲りに来たわけじゃねぇからな!」
これは誤解されたっぽい、と慌てて女に説明する。
「この辺に大物の魂が出るはずなんだよ。死にかけのエラい坊さんとか心当たりないか?」
「知らない……そんな、不吉な……」
「……」
死神は不吉、か。まぁそうかもな。
でも、別に俺たちは無理矢理魂を狩る訳じゃねぇ。人間が勝手に死ぬんだ。
死んだ人間の魂が迷う事の無いように上に連れていくだけだってのに。
むしろ刈るのは、現世への未練なんだけどな。
「そうか、悪かったな」
女を怖がらせたようで、申し訳なさが募る。
これ以上怯えさせてもな、と再びエンジンを回し走りだそうとすると、
「ま、待って!」
と女が叫んだ。
とりあえず、顔だけ振り返る。しかし女の表情からは怯えが消えない。
そんなに怖いなら、なぜ呼び止める?
「何だ?」
「えっと……」
「心当たりでも見つかったか?」
「ううん……」
ぷるぷると首を横に振ったあと、女は少し俯いた。
目があちこち泳いでいる。心なしか、頬が赤いような。
そして何かを決意したようにパッと顔を上げると、射貫くような視線を俺に向けた。
「あの、もう少しお話ししたい!」
「……」
あまりのことで、俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
――何てこった。下界の女に、ナンパされちまった。
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