死神バイトは今日も元気にゲンコツを食らっている☆彡

加瀬優妃

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第7話 思い出せってか

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 薄汚れたきったねぇ倉庫の一角。天井からつるされた白熱電球に、虫がぶんぶんまとわりついて、バチッと音がして。
 もうすぐ冬になろうとしている。油やら何やらで薄汚れた俺の手と、その視線の先には一台のバイク。
 少しずつ部品を集めて、やっと組みあがった俺のバイク。

 ――『杉山すぎやま亀治郎かめじろう』。それが俺の名前。


 がらっと景色が変わる。幹線道路の脇の自販機のそば。
 あったかいコーヒーを啜りながら、男と喋ってる。
 そうだ……バイクが完成して浮かれて、それで走りに行ったんだっけか。ダチのサトシと一緒に。
 思う存分走って、満足してひと休憩。そろそろ帰るか、とお開きに。

「カメ! あんま飛ばし過ぎんなよ!」

 ポーンとゴミ箱に空き缶を放ると、メットを手にしながらサトシが笑う。

「んな、無理だっての! テンション上がりまくりなんだからよ!」

 それに応え、抑えきれずにはしゃぐ俺。
 サトシは「気をつけて帰れよ」と言い残し、ブルンッとエンジン音でアイサツして走り去っていった。

 ……そうか、これが俺が最期に発した言葉か。


 また景色が変わる。俺はご機嫌に幹線道路を飛ばしていた。左手は海、右手は山。潮風で火照った体を静めながら、自由気ままに、気分良く。

 ふと、前方を走る白い車に気づいた。中央線を時折またぎながら、ちんたら走っている。
 車幅感覚ねぇのかな。あっぶねぇなー……。

 こんな車の後ろにいたら何が起こるか分かったもんじゃない、と少しスピードを上げて右から抜いた。ちらりと見ると、運転席には中年のおっさんが。
 何だよ、携帯で喋ってんじゃねぇかよ。それ立派な交通違反だからなー、と毒づきながら白い車の前に出る。

 どうやらそれが、気に入らなかったらしい。白い車は急にスピードを上げると、反対車線に飛び出して俺のバイクを抜きにかかった。
 幅寄せされて、ドキッと心臓が嫌な音を立てる。一瞬、助手席に乗った人間と目が合った。
 中学生ぐらいの女の子。でも、顔は覚えてねぇ。ガキだな、と思ったのを覚えているだけ。

 白い車のバンパーが、俺のバイクの前輪を掠めた。
 あっという間にハンドルを取られる。


   ◆ ◆ ◆


 すっかり忘れていた、生きていた頃の俺の記憶。しかも、俺の最期の瞬間。
 何で今さら。
 全部思い出せっていうのかよ。このタイミングで?

 頭が痛い。胸が苦しい。気持ちが悪い。
 この先を見るのが怖い。


 ――どうする?

 低い声が、遠くからわんわんと響いてくる。
 誰の声だ。……いや、俺自身の声か。
 どうするって、何だよ。

 ――逃げるか?

 逃げて、なかったことに?
 また、元のように全部忘れて? 忘れたフリをして?

 左腕が、熱い。痺れて動かない。

 逃げてぇよ。だけど逃げるな、と言われている気がする。
 だから、逃げねぇ! この続きを、しかと見届けてやる!


   ◇ ◇ ◇


 視界には、おかしな風にひしゃげた、見るも無残な俺自身の姿。その上に圧し掛かる、潰れたバイク。
 空を見上げる。夜空にぼうっと浮かび上がる、ひん曲がった白いガードレール。
 導かれるように、身体が宙に浮く。

 幹線道路には、反対車線に飛び出し、崖に突っ込んだ白い車。――俺にぶつかってきた、あの車。
 男が外で何か大声で叫んでいる。運転していた男だ。
 遠くから、救急車のサイレンの音が聞こえる。
 助手席には、頭が窓を突き破って血塗れになっている、女の子。ピクリとも動かない。


 ――俺が、少女を殺した。

 違う、俺はあんな車の後ろについていたくなかったから追い抜いただけだ。
 煽ったり、無茶な追い越しなんてしてねぇ。

 ――でも、そんなことをしなければあの事故は起こらなかった。

 そうかも、知れないけど……。
 でも、幅寄せしてきたのはあの車で、俺は悪くねぇ!

 ――本当に? あの少女は、それこそ何も悪くないぞ。ただ助手席に乗っていただけだ。

 ……そうだな。それは、本当にそうだな。
 自分がバカやって死んだだけじゃない。

 俺が、この子を殺したんだ。
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