死神バイトは今日も元気にゲンコツを食らっている☆彡

加瀬優妃

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最終話 終わって、また始まって

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「えーと……矢印、押して……改行?」
「そうそう」

 幽界の端っこにあるちっぽけな事務所。
 俺は眉間に皺を寄せながら、画面を睨みつけている。
 相変わらず右手人差し指1本をぷるぷる震わせながら。

「これで、始末書の書き方はわかったね」

 隣の機械からベローンベローンと出てくる数枚の紙を手に取ると、タナトさんがトントンと端を揃える。

「わかったけど……もう書きたくねぇっス」
「そりゃそうだ」

 はははと笑うと、タナトさんは書類をファイルにしまい、すっくと立ち上がった。

「休憩しようか。コーヒーでも淹れるよ」
「あざっす!」

 大声で礼を言って、首を回し肩をコキコキ鳴らす。
 うおー、肩が凝った……。
 こんなんで俺、ちゃんとやっていけんのかな、この事務所で。

「タナトさん、もうアガリっすよね。早く覚えねぇと……」

 一抹の不安を感じてそう言うと、タナトさんはコポコポと音を立てだしたサイフォンを眺めながら
「あ」
と小さく呟いた。

「そうだ、言ってなかったっけ。もうしばらくバイトを続けることにしたんだよ」
「えっ!? な、何で!?」
「ポイントは貯めれば貯めるほど転生時に優遇されるらしいんだ。望む世界に行けたりね」
「へぇ……」
「あとね、カメにまだ教えてないこともいっぱいあるし」
「……うっ。不甲斐なくてすんません……」

 やっぱり俺のせいかなあ。いっぱい迷惑かけたもんな……。
 タナトさんはクスクス笑ってはいたものの、特に否定はしなかった。
 ……そりゃそうっスよね。

「それにね……」

 タナトさんが何か言いかけたところで、事務所の扉がバーンと勢いよく開いた。
 シャチョーの登場だ。入口に立ったまま、大声を上げる。

「お前ら! 揃ってるか!?」
「見ての通りっス」

 二人しかいないんだからすぐ分かるじゃねぇか。

 ……と呆れながら言い返すと、タナトさんにそっと小突かれた。
 てっきりシャチョーに
「何だとぉ!?」
と怒鳴られるかと思ったが、
「ふん」
と鼻を鳴らされただけでそのままスルーされる。

「タナト、もう伝えたか?」
「まだです。今言おうと……」
「……そうか。おい、カメ」

 タナトさんから視線を外し、黄色いレンズの向こうでシャチョーが俺をジロッと睨む。

「初めてこの事務所に来た時の事、覚えてるか?」
「覚えてるけど、覚えてないっス」
「ああん?」
「えーと……来たことは覚えてるけど、何だかふわふわしていて昔のことは何にも覚えてなかったっス」
「そういう事だ。肝に銘じろよ」
「はぁ?」

 シャチョーは意味ありげに笑うと、一度扉の奥に引っ込んだ。「おい、ここだ」とか言ってるから、誰かに呼びかけてんのか。
 お、ひょっとして新入り? いよいよ俺も、センパイか?

 そんなことを考えてついついニヤニヤしていると、その扉の奥にいた奴が現れた。
 紺色のブレザーに赤いネクタイをし、グレーのチェック柄のヒダスカートに紺色のハイソックス、黒のローファーを履いた女の子。
 黒い肩までの髪をさらりと流した……。

「ちっ……!」

 叫び出しそうになって、タナトさんにガバッと口を塞がれた。
 耳元で
“だから、肝に銘じろって言われただろう!?”
と小さく怒鳴られる。

“う、ウッス……”
“分かったら、初対面のフリ! あくまで紳士的に!”
“そいつは無理っス”

「新人ほったらかして何をくっちゃべってんだ、お前らはぁ!」

 いつの間にか俺たちの傍まで来ていたシャチョーに、ゴチン、ゴチンとゲンコツを食らう。

「だっ……だから、痛ぇーんだよ!」
「先輩になるんだぞ! シャキッとしろ、シャキッと!」
「……ウッス」

 うぉ、『初対面』でコレは情けねぇ……。
 頭を擦りながら扉の方を見ると、チカはくすくす笑っていた。

 ……ん、元気だ。良かった。
 いや、死んじまったから良くはないんだけど。何てぇか……忘れてくれて、良かった。

 チカの『負う者』は俺で、恐らくチカには試練は来ない。
 だからもう、自分の辛い記憶を思い出すことはない。――転生するその時まで、ずっと。

「ほい、アイサツだ」

 シャチョーがドンッと俺を前に突き飛ばす。

「あ……えっと。よろしく、チカ。俺はカメだ。センパイとして敬うように」
「……」

 俺の背後で、シャチョーが「ふむぅ」と変な鼻息を漏らし、タナトさんが「はぁ」と溜息をついている。

 な、何だよ。
 俺、何か変なこと言ったか?

 チカは一瞬目を真ん丸にしたあと――顔が崩れるんじゃないかと思うぐらいニコォッと笑った。
 今まで見た中で、一番楽しそうな顔。

「カメちゃん! 末永く、よろしくお願いします!」




                         - Fin -

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