トイレのミネルヴァは何も知らない・おまけ

加瀬優妃

文字の大きさ
19 / 20

お化け屋敷に行こう(前編)

しおりを挟む
 相変わらずな二人の様子をちょっとお届け。\( ̄▽ ̄*)
―――――――――――――――――――――――――――

「莉ー子。お化け屋敷に行かない?」
「は?」

 大喧嘩したゴールデンウィークから月日は流れて、6月中旬。ぽかぽか陽気の昼下がり。
 大学の中間試験が終わってホッと一息ついたところで、ひさびさに新川透のマンションに遊びに来た。
 二人でソファに並んでボケーッとテレビを見ていたはずなんだけど、新川透がまた唐突に妙なことを言いだした。
 いまそんなCMやってたっけ? 違うよね。

「えーと、お化け屋敷? 限定?」
「そう。行ったことある?」
「うーん、子供の頃に行ったことがあったかなあ……」

 確か小3かそこらで、デパートの屋上にある期間限定のしょぼーいお化け屋敷だった気がする。
 別に怖くは無くて、ただ友達ときゃーきゃー騒いで終わったような。

「何で、急に?」
「急でもない。『莉子とやりたいことリスト』にあるから、調べてたんだ。試験が終わったら行こうと思ってた」

 だから人のスケジュールを勝手に決めるんじゃない!
 ……と言いたいところだけど、なぜ『お化け屋敷限定』なのかが気になるなあ。
 だいたいその『やりたいことリスト』の中身ってどうなってんの? 何基準でリストアップしてるんだろう……。

 思わず考え込んでると、新川透が「ん?」と呟き首を傾げた。

「お化け、苦手だった?」
「いや、えーと……どういう意図かと思って」

 新川透トリセツ第3条、『迂闊に「うん」と言ってはいけない』!
 この人はとにかく言質をとるのが非常に上手。契約はその内容をちゃんと確認してから。じゃないと、高確率で詐欺に遭います。

 ……って、仮にも『彼氏』と名のつく人とのやりとりでこんなに頭を使ってるの、私ぐらいじゃないだろうか。
 そしてどうやら、そんなグルグル考える私を新川透は面白がっているフシがある。ムカつく。

「意図? デートの一環だけど」
「それなら遊園地とかショッピングとかいろいろあるでしょ」
「遊園地は行きたいけど、それは夏休みになってからかな。某有名テーマパークもいいけど、乗り物重視なら他県の方がいいしね。もうちょっとリサーチしたい」
「リサーチ……」
「莉子はジェットコースターって大丈夫?」
「リサーチって、私の!?」
「そりゃそうだろ。得手不得手があるだろうし」
「別に……」

 私の意向ばかり気にしてデート場所を選ばなくてもいいんだよ、と言おうとしてゴックンと唾を呑み込んだ。

 じゃあ新川透の意向だったらどうなる? 何かとんでもないデートになりそう! いきなり海外に連れて行かれたり!
 何しろまわり中と結託した挙句、何も知らない私を拉致して山奥の温泉旅館に連れ込んだ人だからなあ……。
 あぶない、あぶない。この人の思考回路がマトモじゃないってこと、忘れるところだったよ。

「別に、何?」
「ううん、何でも。高所恐怖症とかじゃないから大丈夫じゃないかな。ジェットコースターは乗ったことないからわかんないけど」
「乗ったことないの!?」
「遊園地、行ったことないもん」

 確か高3の春の遠足が隣県の遊園地だったけど、退学しちゃったから行ってないんだよね。
 小さい頃はお母さんと二人暮らしで、そんな余裕は無かったし。

 淡々とそう答えると、新川透は
「ええっ!?」
と叫び、なぜか嬉しそうに笑った。
 可哀想、みたいな同情じゃないのはいいけど、何だその顔は。

「何で笑顔?」
「こんなところに莉子の『初めて』があったなんて、嬉しくてね。新発見!」
「は?」
「莉子の『初めて』はぜーんぶ俺が貰うつもりだから。それはもう、ありとあらゆるものを……」
「妙な言い方をしてからかわないで!」
「そのまま本気の台詞なんだけど」
「なおさら悪い!」

 何でこの人ってこうなの!? すぐアワアワする私が悪いの!? 慣れろって!?
 無理だよ! どう返すのが正解なのか、誰か教えて!

「やっぱり他県の方がいいかな。うんと遠くの……」
「何でわざわざ僻地に行きたがるの……」

 かつてはアメリカに行きたがってたしなあ。
 逃避癖があるのかしらこの人、と思いながら聞くと、新川透は少しだけ眉を下げ、息をついた。

「莉子がのびのびできるだろうから。俺と一緒に街を歩くのが好きじゃなさそうだしね、莉子は」
「え」

 新川透が少し寂し気にそう言うのを見て、ハッと胸を突かれる思いがする。
 私、そんな態度とってた?

「そんなこと……」
「でも嫌がってるでしょ。ちょっとその辺歩くときも、手を繋いでくれないし。俺の斜め後ろで隠れるようにしているか、まるで他人のように早足でどんどん歩くかのどっちかだし」
「えーと、それは……ほら、視線がね」

 メイクも洋服も好きだし、日々可愛くあろうとはしてます。
 してるけど、とにかく超絶イケメンの隣を歩くのは勇気が要るんです。
 何か目立つのよ、この人。華があるって言うのかなあ。
 あああ、東京駅の悪夢が蘇る。

「莉子は気にしすぎだよ。人はそんなに他人のことを見てないもんだって」
「そんな顔でそんな一般論を言われても……」

 はぁ、脱力する。
 この人いつになったら自分がフツーじゃないって気づいてくれるんだろう。
 ……無理かな。

 思わず溜息をつくと、そんな端正な顔をわずかに歪ませた新川透も、同じように溜息をついていた。

「――莉子はいつになったら、ちゃんと俺を莉子の物にしてくれるんだろうね」
「はぁっ!?」

 また訳のわかんないこと言い始めたぞ。
 しかも『俺の物』じゃない、『莉子の物』って言った! 意味わかんない!

「何それ!?」
「まぁ、気長にいくよ。莉子の傍で待つなら苦じゃないから」
「は……」
「それでね、莉子がいろいろ気にするというのはよーくわかってるんで、お化け屋敷なら人目もないし、気にせず手を繋いでくれるんじゃないかな、と。そういう淡い期待がある」

 あ、話がお化け屋敷に戻った。しかも理由が結構しょうもない。
 ……とは言っても、どうやら私の態度で何だか淋しい思いをさせていたらしい。それは申し訳ないな、と思った。

「こういうのいちいち言わせないでほしいけどね」
とブツブツ言う新川透は、少しだけ拗ねたような顔をしている。

「えーと、何かごめん」
「まぁ、莉子は言わないとわからないからね」

 その割に言われてもわからないことが多すぎるんですが!

 ……とは思ったけれど、何となく私の態度がよくなかったところもいろいろあったっぽい。
 そう言えば、恵も言ってたっけ。『莉子は新川センセーを彼氏扱いしなさすぎる』と。
 あんまり意味がわからないけど、多分二人が言っているのは同じことだ。

「いいよ、お化け屋敷。一緒に行こう」

 お詫びの意味も込めて精一杯の笑顔でそう言うと、新川透が
「莉子ー!」
と言いながら抱きついて押し倒そうとしてきたので
「真昼間から冗談じゃない!」
と鳩尾に思いっきりグーパンを入れた。

「ぐふっ、ちょっとはしゃいだだけなのに」
「子供か!」
「いやいや、これからするのは子供には絶対無理なオトナな……」
「しません、昼間っから!」
「わかった、じゃあ夜ね、夜。楽しみー」
「やめて、そういうのをあからさまにするの!」
「ところで、莉子の『夜』はどこから? 日が暮れたら? 夕ご飯を食べたら?」
「はぁっ!?」
「だから、リサーチ……」
「おかしなリサーチをするな! 決まってない!」
「困ったなあ……」

 困ってるのは私の方ですがー!
 と大声で叫びたい私、仁神谷莉子に、絶対にみんなは一票を投じてくれると思う。
 ね、そうだよね!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...