無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T

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第9話 魔力制御訓練が知られてなかった

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 まず一番最初に教えるのは、精霊とのコミュニケーションの取り方だ。

 聖女は精霊と会話をし、精霊との「親密度」を上げることで、魔法制御力や魔法の威力を高めることができる。
 一番最初に教える基礎鍛錬として、これ以上適任なものはないだろう。

「では今回はまず初歩の初歩、精霊との会話の仕方から教えていきます。皆さん、精霊について何か知っていますか?」

 私はそう言って、教室を見回した。
 誰か知っている人がいれば、挙手して発言してもらおうかと思ったが……誰もピンと来ていないようだ。

 理解度を把握すると、私はこう続けた。

「聖女は生まれつき、一体の精霊と契約を交わしています。聖女が回復魔法を使えるのは、その精霊の力を借りれるからなんです。そして、精霊と仲良くなればなるほど……魔法制御力や、魔法の威力が上がります」

 私はそう、精霊の役割や聖女との関係性、そして精霊と仲良くなるメリットについてざっくり話した。
 ……まあ口頭で説明を受けても、なかなかピンとは来ないだろうが。
 精霊を知覚するのはそこまで難しいことではないし、ここはなんとなく「そういうものなんだ」とだけ思ってもらっておいて、早速知覚する練習に入ろうか。


 そう思ったのだが……ここで担任のテレサさんが、思わぬ反応をした。

「そんな話、初めて聞きました。こんなにも初っ端から、新事実が明らかになるなんて……」

 なんと……教員の側であるテレサさんまでもが、このことを知らなかったのだ。

「あの、まさか……これ、誰も知らないんですか?」

 私はテレサさんに、そう聞き返した。

「ええ。少なくともこの国では、誰もその事実を知る者はいないかと」

 ……なんと、一番初歩的なことすら知られていなかったとは。
 そりゃあ精霊に(偶然にでも)属性魔法を覚えさせてしまった者が、無才印などと言われてしまうのも当然だ。

 精霊に属性魔法を覚えさせると、精霊から借りる魔力の使い道の自由度が上がる分、魔力の制御が若干難しくなるのだが……初期状態の聖女の魔法制御力には、その魔力で回復魔法の術式を構築することができない。
 結果、そんな聖女は魔法が全く使えない状態に陥るのだ。

 父から無才印の話を聞いた際、こうなっている可能性を考慮しなかったわけではないが……まさかこの、考え得る限り最悪のシナリオが的中するとは。

 頭が痛くなるような状況に、ため息をつきつつ……私は少し、授業のプランを変更することにした。

「でしたら……一旦精霊の実物を、見たほうが早いでしょう。——精霊具現化」

 私は魔法でゼタボルトを具現化し、教室にいる全員に見えるようにした。
 私の目からは、ゼタボルトは普段も見えているが……それはあくまで自分の契約精霊だからであり、普段ゼタボルトは周りの人には見えていない。
 それを無理やり他人からも見えるようにするのが、今回の魔法だ。
 ちなみに新しい精霊の方は、親密度不足でまだ魔法で具現化することはできない。

 この状態でなら……ゼタボルトが喋れば、普通に全員に聞こえる。

「よう。俺がイナビルと契約したゼタボルトだ。同級生のみなさん、よろしく」

 ゼタボルトは右手で放電を起こしつつ……そう自己紹介をした。

「こ……これが精霊!?」
「私たちって、こんなのと契約してるんだ……」
「私たちの精霊も、あんな感じでビリビリしてるのかな?」
「いやそこは、ゼタボルトさんが特殊なんじゃ……」

 同級生たちは思い思いの反応をしているが、精霊が現実に存在するんだという認識は持ったようだ。
 これが今回、私がこの魔法を使った狙いだ。
 いくら知覚するのが難しくないとは言っても……存在するかどうかすら半信半疑な気持ちでは、流石にうまく行きにくいものがあるからな。

「詳しい説明は後にするとして……とりあえず、皆さんも自分の精霊と喋ってみましょう。方法は、今から教えます」

 私は具現化魔法を解除しつつ、同級生たちにそう告げた。

「はい! 私たちも、精霊を具現化するんですか?」

 すると、自己紹介の時雷魔法の実演をお願いした子——確か、名前はシンメトレルと言ったか——が、挙手してそう質問してきた。

「あ、流石にそれはしなくて大丈夫ですよ。今のはあくまで見本なので。実際にこれからやるのは……心の中で精霊を感じ取れれば、それで大丈夫です」

 というか、十数年は鍛錬を積み続けないとできないしな、具現化魔法。

「とりあえず……みんな、校庭に集合で。あ、何でもいいので教科書を一冊持って出てくださいね」

 質問に答えた後、私はそんな指示を出した。
 校庭に出るのは、広い場所の方が都合がいいからだ。
 実際に訓練を始めれば、みんなもその理由が分かるだろう。
 生徒全員が教室を出たのを見届けると……私はテレサさんと精霊の詳細について話しつつ、追って工程に移動した。
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