10 / 25
第10話 効率の良い訓練方法
しおりを挟む
「では早速、精霊を感じる方法を説明します。方法は至って単純、深い瞑想状態に入るだけです」
校庭にて。
私はそう話し始めつつ……教科書を一冊頭にのっけて、目を瞑った。
「瞑想と聞くと、座禅とかを思い浮かべるかもしれませんが……正直、あれで精霊の知覚に十分な瞑想状態に入るのは、初心者には難しいです。なので……私のおすすめはこれ、歩行瞑想です」
そう言うと私は、目を瞑った状態のまま、ゆっくりと数歩歩いた。
「このように教科書を頭に乗っけたまま、目を瞑って歩くと、バランスを取るのにかなりの集中力が必要です。ですが……その集中状態は、深い瞑想状態と極めて近い状態。何歩か歩いて立ち止まり、何も考えないようにすると……脳内にはっきりと、自分の精霊の姿が浮かぶでしょう」
これが、私が知る限り最も成功率が高い、精霊との初対面の方法だ。
普通の瞑想方法だと、精霊を知覚する以前に「深い瞑想状態に入る訓練」に一か月近くかかってしまうのだが……この方法だと、全くの瞑想初心者でも高確率で一発でその境地にたどり着ける。
頭に不安定なものを乗せたまま目を瞑って歩くとなると、嫌でも限界近い集中力を使うことになるからな。
それをそのまま「無我の境地」に転換すれば、深い瞑想状態までショートカットできるというわけなのだ。
精霊を知覚するのに、必要なのはたったこれだけだ。
一旦精霊を知覚すると、意識的に気を逸らさない限りはずっと知覚したままでいられるので、後は気を楽にして心の中で精霊と対話すればいい。
「では、立って始めてください」
そしてわざわざ校庭に出てこさせたのは、もちろん教室内で歩行瞑想などすれば互いにぶつかりまくるからだ。
などと思いつつ、私は始めの合図を出したが……そこで同級生の一人が、こんな質問をしてきた。
「あの、会話って何をすればいいですか?」
確かあの子は、兄が宮廷魔術師をやってる人……名前はリレンザだったか。
私はその質問を受け、一瞬どう答えるか迷った。
精霊との親密度、どんな話題を振っても関係なく上がっていくからな……。
どんな会話内容がいいかなんて、考えたこともなかったし、その必要もないのだ。
ただ確かに、初めてこれをやる人はそんな疑問を持つのも不自然ではないよな……。
私は一考の末、それも実演してしまうことにした。
「別に会話内容は、何でもいいです。例えば……」
言いつつ、ゼタボルトを再度具現化する。
「ゼタボルト、今日は雲が一つしかないいい天気ね」
「どこがだよ。空一面曇り空じゃんか」
「だから、『雲が一つしかない』って言ったのよ」
「少なくともいい天気では無いだろ!」
「雲が一つも無いいい天気って言葉あるでしょ? それに引っかけたジョークよ」
「……お前、それ曇天の度に言ってるよな」
そして私はゼタボルトと、極めてどうでもいい、かつあまりかみ合ってない会話をしてみせた。
「会話内容はこれくらい適当でいいです。極端な話、喧嘩になっても問題ありません。雨降って地固まるというか……魔法制御力はそれでもあがるので。では、始めてください」
すると……リレンザ含め同級生たちは完全に納得したようで、皆一様に歩行瞑想に取りかかりだした。
私くらいの聖女になると、他の聖女が精霊と会話してるかが雰囲気でだいたい分かるのだが……みんな順調そうだな。
困っている人もいなさそうなので、みんなが瞑想に耽っている間は、私も新しい精霊と会話しようか。
そう思い、私も瞑想を始めた。
ちなみに私の場合は瞑想そのものに慣れてるので、普通に座禅でやるのだが。
『おはよう。今日は雲が一つしかないいい天気ね』
『いーてんき! わーい!』
新しい精霊というだけあって、めちゃくちゃ純粋だな。
今のはジョークだってところから教えてあげるか。
授業の終わりのチャイムが鳴るまで……私はそんな感じで、新しい精霊との会話を続けたのだった。
◇
そして……一週間ちょい過ぎた日の、三限の時間。
入学してから二回目の、「回復魔法実践」の授業が始まった。
この「回復魔法実践」の授業は文字通り、回復魔法の術式を実際に練習する授業なのだが……毎回授業の始めに、生徒一人一人の回復魔法の習熟度を測る小テストが行われることになっている。
「ではこれより、回復魔法の小テストを行います」
担当の先生はそう言うと、教卓の上に傷だらけのホーンラビットを置いた。
一人一人順番にこのホーンラビットに「ヒール」をかけ、教師が回復度合いから生徒のヒールを採点する。
それが、小テストのやり方だ。
早速先生の合図で、まずはシンメトレルが教卓の前に行き、回復魔法をかけ始めた。
思えばここで初めて、精霊とのコミュニケーションを取った聖女の実力が試されるんだな。
果たして、どんな結果になるだろうか。
そんなことを考えている間に、シンメトレルは回復魔法を発動させ——。
その瞬間、先生の目の色が変わった。
校庭にて。
私はそう話し始めつつ……教科書を一冊頭にのっけて、目を瞑った。
「瞑想と聞くと、座禅とかを思い浮かべるかもしれませんが……正直、あれで精霊の知覚に十分な瞑想状態に入るのは、初心者には難しいです。なので……私のおすすめはこれ、歩行瞑想です」
そう言うと私は、目を瞑った状態のまま、ゆっくりと数歩歩いた。
「このように教科書を頭に乗っけたまま、目を瞑って歩くと、バランスを取るのにかなりの集中力が必要です。ですが……その集中状態は、深い瞑想状態と極めて近い状態。何歩か歩いて立ち止まり、何も考えないようにすると……脳内にはっきりと、自分の精霊の姿が浮かぶでしょう」
これが、私が知る限り最も成功率が高い、精霊との初対面の方法だ。
普通の瞑想方法だと、精霊を知覚する以前に「深い瞑想状態に入る訓練」に一か月近くかかってしまうのだが……この方法だと、全くの瞑想初心者でも高確率で一発でその境地にたどり着ける。
頭に不安定なものを乗せたまま目を瞑って歩くとなると、嫌でも限界近い集中力を使うことになるからな。
それをそのまま「無我の境地」に転換すれば、深い瞑想状態までショートカットできるというわけなのだ。
精霊を知覚するのに、必要なのはたったこれだけだ。
一旦精霊を知覚すると、意識的に気を逸らさない限りはずっと知覚したままでいられるので、後は気を楽にして心の中で精霊と対話すればいい。
「では、立って始めてください」
そしてわざわざ校庭に出てこさせたのは、もちろん教室内で歩行瞑想などすれば互いにぶつかりまくるからだ。
などと思いつつ、私は始めの合図を出したが……そこで同級生の一人が、こんな質問をしてきた。
「あの、会話って何をすればいいですか?」
確かあの子は、兄が宮廷魔術師をやってる人……名前はリレンザだったか。
私はその質問を受け、一瞬どう答えるか迷った。
精霊との親密度、どんな話題を振っても関係なく上がっていくからな……。
どんな会話内容がいいかなんて、考えたこともなかったし、その必要もないのだ。
ただ確かに、初めてこれをやる人はそんな疑問を持つのも不自然ではないよな……。
私は一考の末、それも実演してしまうことにした。
「別に会話内容は、何でもいいです。例えば……」
言いつつ、ゼタボルトを再度具現化する。
「ゼタボルト、今日は雲が一つしかないいい天気ね」
「どこがだよ。空一面曇り空じゃんか」
「だから、『雲が一つしかない』って言ったのよ」
「少なくともいい天気では無いだろ!」
「雲が一つも無いいい天気って言葉あるでしょ? それに引っかけたジョークよ」
「……お前、それ曇天の度に言ってるよな」
そして私はゼタボルトと、極めてどうでもいい、かつあまりかみ合ってない会話をしてみせた。
「会話内容はこれくらい適当でいいです。極端な話、喧嘩になっても問題ありません。雨降って地固まるというか……魔法制御力はそれでもあがるので。では、始めてください」
すると……リレンザ含め同級生たちは完全に納得したようで、皆一様に歩行瞑想に取りかかりだした。
私くらいの聖女になると、他の聖女が精霊と会話してるかが雰囲気でだいたい分かるのだが……みんな順調そうだな。
困っている人もいなさそうなので、みんなが瞑想に耽っている間は、私も新しい精霊と会話しようか。
そう思い、私も瞑想を始めた。
ちなみに私の場合は瞑想そのものに慣れてるので、普通に座禅でやるのだが。
『おはよう。今日は雲が一つしかないいい天気ね』
『いーてんき! わーい!』
新しい精霊というだけあって、めちゃくちゃ純粋だな。
今のはジョークだってところから教えてあげるか。
授業の終わりのチャイムが鳴るまで……私はそんな感じで、新しい精霊との会話を続けたのだった。
◇
そして……一週間ちょい過ぎた日の、三限の時間。
入学してから二回目の、「回復魔法実践」の授業が始まった。
この「回復魔法実践」の授業は文字通り、回復魔法の術式を実際に練習する授業なのだが……毎回授業の始めに、生徒一人一人の回復魔法の習熟度を測る小テストが行われることになっている。
「ではこれより、回復魔法の小テストを行います」
担当の先生はそう言うと、教卓の上に傷だらけのホーンラビットを置いた。
一人一人順番にこのホーンラビットに「ヒール」をかけ、教師が回復度合いから生徒のヒールを採点する。
それが、小テストのやり方だ。
早速先生の合図で、まずはシンメトレルが教卓の前に行き、回復魔法をかけ始めた。
思えばここで初めて、精霊とのコミュニケーションを取った聖女の実力が試されるんだな。
果たして、どんな結果になるだろうか。
そんなことを考えている間に、シンメトレルは回復魔法を発動させ——。
その瞬間、先生の目の色が変わった。
43
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました
藤原遊
ファンタジー
魔力不足でお城が崩れる!?
貴族が足りなくて領地が回らない!?
――そんなギリギリすぎる領地を任された転生令嬢。
現代知識と少しの魔法で次々と改革を進めるけれど、
なぜか周囲を巻き込みながら大騒動に発展していく。
「領地再建」も「恋」も、予想外の展開ばかり!?
没落領地から始まる、波乱と笑いのファンタジー開幕!
※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる