無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T

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第22話 特殊卒業生は想像以上に凄い制度だった

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「に、人数分!? あの、それってつまり……」

「はい、こんな感じです」

 私はそう言って、とりあえず「回復魔法学」の教科書を全て精霊収納から取り出した。

「これを、全教科分ですね」

「あ、あはは……」

 教科書の山を見ると……テレサさんは、壊れたような笑い声をあげだした。
 しばらくそんな時間が続いたが、ふとテレサさんは我に返り、そして申し訳なさそうにこう続けた。

「……ごめんなさいね。イナビルさんの魔法が規格外なのには、そろそろ慣れたつもりだったんですが……まだまだ全然だったみたいです。いや、もちろん感謝してもしきれないくらいありがたいんですけど、これはもう凄すぎて笑うしかなくて」

 ……そんなもんなのだろうか。
 私としては、最初の一冊さえ作ってしまえば後は複製するだけなので、むしろこっちはただの作業ゲーみたいな感覚だったのだが……。

 ともあれ、これで教科書の保管が必要なのは分かってもらえただろう。
 私は「回復魔法学」の教科書の山を精霊収納に戻しつつ、再度こう質問した。

「まあ、こんな感じなので、保管する場所を教えていただけたらと思うのですが……」

「そうですね……じゃあこちらに」

 するとテレサさんは、床のカーペットを捲ったかと思うと、一件何もないように見えるところに手をかざして魔力を流した。
 魔力を流された床板は、音もなくスーッと動き……床板があった場所から、下へと続く階段が姿を見せた。

「……この階段は?」

「理事長権限が無ければ立ち入ることのできない、魔導式床下収納です。この学園の施設だとここが一番安全なので、良ければここへどうぞ」

 聞いてみると、テレサさんはそう収納場所について説明してくれた。
 なんというか、たかだか教科書にコレは厳重過ぎる気がしなくもないが……まあ私も安心なので、せっかくのご厚意に預かって、入れさせてもらうとするか。

 私はテレサさんの案内のもと、地下収納の一角に教科書を全て置いた。
 それから地上に戻ると……テレサさんは動かした床板を元に戻し、こう言った。

「イナビルさん、特Aクラスの全員分もの教科書をこんなに早急に用意してくださり、改めて本当にありがとうございました。これで、卒業できるのはほぼ間違いないですので……安心してお待ちくださいね」

「分かりました」

 私はそう返事をすると、理事長室を後にした。
 そして、卒業式の日が来るまで……私は、講義時間以外は新しい精霊に闇属性の知識を教える、みたいな生活を送った。


 ◇


 そして、卒業式の日。
 私は再び、理事長室に呼ばれていた。

 卒業式というくらいだから、クラスのみんなの前で何かやるのかと思ったが……どうやら、そういう形式ではないようだ。
 まあその代わり、昨日はクラスのみんなとお別れ会的なことはしたのだが。
 具体的には、何だかんだで例のキメラを売り損ねていたので、みんなで冒険者ギルドにお邪魔して売りに行き、「みんなでヒールしたキメラで乾杯!」とちょっとした高級料理を食べに行った。

 お別れ会とは言っても……これからだって外部講師として相談に乗ったりはするんだし、もう会えなくなるということはないだろう。
 だからまあ、卒業式はこんな感じでもいいのかもしれないな。
 などと思いつつ、私は理事長室に入った。

 理事長室に入ると、テレサさんは一本の筒——おそらく卒業証書が中に入っているのであろう——を用意して、座って待っていた。
 テレサさんは立ち上がると、その筒を渡しつつ、こう言い始めた。

「イナビルさん、特殊卒業生としてのご卒業、おめでとうございます。こちらはイナビルさん専用の『特殊卒業証書』になります。……今から軽く、その内容について説明しますね」

 テレサさんはそう言うと、私に筒を開けて中を見るよう促した。

「この卒業証書は、いくつかの特別措置に関する権利書を兼ねています。そして、特別措置の内容は……大きく分けて三つ。まず一つ目は、王都の邸宅の所有権の譲渡、及び固定資産税の免除です」

 そしてテレサさんは、私に一枚の絵を見せた。
 絵には、入学する前、王都を散策した時に見た一軒の巨大な屋敷が描かれていた。

「この邸宅は、とある侯爵が別荘として持っていたものを、教会が買い取ったものになります。そしてこの邸宅は、今回の卒業を以てイナビルさんのものになります。……もちろん、定期的に支払いが発生するようなものを押し付ける訳にはいきませんから、固定資産税は非課税でです」

「え……おお……」

 それを聞いて……私は驚きのあまり、そんな返事しか返せなかった。
 何というか……特殊卒業生の優遇制度と聞いて、想像していたものを遥かに超えているのだが、これは。

「まあ、住む住まないはイナビルさんの自由ですけどね。普段は住まないと決めたとしても……王都に拠点は持っておいて、損は無いでしょう? 固定資産税の免除は、これを持つことのデメリットを皆無にするための措置ですよ」

 そう言うとテレサさんは、にこりと微笑んだ。

「そして……二点目は、王国内全ての立入禁止区域への立入許可。三点目は、今年度以降の入学者から収められる所得税の一部還元となります」

 そしてそれに続き、テレサさんは残りの二点をそう説明した。

 王国内全ての立入禁止区域への立入許可は、純粋にありがたいな。
 新しい精霊を育てる関係上、今後は強力な魔物の討伐に出かけることとかもあるだろうが……そういった魔物の生息域が立入禁止とかになってたら、確かに面倒だっただろうし。

 だが……三点目は、いったい何だ?

「所得税の一部還元って、どういうことでしょうか?」

 気になったので、私はそう質問してみた。
 すると……。

「それはですね。聖女も他の職業と同じく、給与の額に応じて税金を納めることになっているのですが……イナビルさんの教育を受けた者は、従来の聖女とは桁違いの給与を得るであろうことが容易に想像がつくじゃないですか。そしたらその分、納税額も上がるわけでして……。税収が潤うのはイナビルさんのお陰なので、その分を一部還元しようということです」

 所得税の一部還元とは、そういう意味らしかった。

 要は……再来年以降、クラスメイトや後輩たちの活躍によって、私の元に不労所得が入ってくる、みたいな話か。
 となると……もう私は、一生お金の心配をしなくて済むようになりそうだ。
 これ、地味にかなりデカいんじゃないか?

「ありがとうございます」

 私はそう言いつつ、卒業証書を筒の中に戻した。
 うん。特殊卒業生……本当に、想定の数十倍は好待遇だったな。

「その他にも、まだまだ細々とした優遇措置はありますが……まあそれらは取り急ぎ説明する必要があるものでもないので、後でじっくり読んでおいてください。改めて、ご卒業おめでとうございます」

 テレサさんはそう言って、卒業証書授与を締めくくった。


 これでとうとう、晴れて国家公認の聖女になったってわけだな。
 一応、ラピアクタ家のルール的にも後は自由なわけだし……魔物討伐での経験値稼ぎとかも含め、より一層効率的な新精霊育成に専念するとしよう。
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