転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など書き換えればいいじゃない〜

Josse.T

文字の大きさ
8 / 49

第7話 轢き逃げ事件を起こした

しおりを挟む
「護衛を1人も集められなくてごめんなさい。ハコネやユフインに殺される事なく無事王都に着けるのを願ってます」

サルファ=ラ=ドン討伐(?)から1週間が経ち、とうとう「特殊初心者優遇規則」に則って王都に旅立つ日が来た。
今別れの挨拶をしてくれたのは、転生した当日からお世話になっている受付嬢だ。

「・・・護衛、付く予定だったんですか?」

「はい。通常、特殊初心者に護衛が付くことは無いのですが......魔王妃に命を狙われているという事情がある以上、ギルドの方針として特別に護衛を用意する事に決めたんです。報酬もかなり弾んだのですが......結局、魔王妃からの護衛となるとSランク冒険者でさえも渋ったみたいで」

僕なら大丈夫ですよ、と受付嬢を労った後、ふと違和感を感じたことを尋ねてみた。
「今貴方は『ハコネやユフインに』とおっしゃいましたが、アタミが来る可能性はないんですか?」

「その心配は無いと思います。アタミは魔王の正妻でして、その従魔であるサルファ=ラ=ドンは他のサルファ=ラ=ドンとは毛の色が違います。アタミが来ようもんなら勝機は更にうんと小さくなりますが、それは杞憂でしょう」


その時、横からホッホッホと笑い声が聞こえてきた。
「本当に馬は用意しなくていいんかのう」

会話に割り込んできたのはギルドマスターだ。
それにヤオジムも付いてきている。

「淳なら大丈夫ですよ」ギルドマスターの問いにはヤオジムが答えた。「淳の乗り物は馬なんか目じゃないくらい速いですからね。僕も同乗した時は死ぬかと思いましたよ」

せっかくヤオジムが話題に出したので、良いタイミングだと思いカワサキを収納から取り出す。それを見て、ギルドマスターは「これが......乗り物なのかのう?」と不思議そうな顔をした。

「王都への直線的な方向は向こうだ」
ヤオジムが北北西あたりを指した。
ヤオジムの言わんとする事を理解したのは俺だけらしく、受付嬢とギルドマスターはぽかんとしている。

「確かにそうじゃが......ここから王都に一直線で通っている道などなかろうに」
「ギルドマスター、淳はあの乗り物で空を飛べるんですよ」
「......はぇ?」

・・・実際には空中に浮かぶ結界を地面がわりにしているので、飛行ではないのだが......ヤオジムもそれはわかっているはずだし、あくまで分かりやすく便宜的な説明をしたということなのだろう。

「今までありがとうございました。では行って参ります。"バイクだけに、ブンブン"」
カワサキのエンジンをかけ、跨る。

挨拶も済んだのでいざ発進、と思った矢先、ヤオジムが最後のアドバイスをくれた。
「もし魔王妃に遭遇したら、全力で逃げるんだぞ。その乗り物なら......あるいは、魔王妃の追跡を撒けるかもしれん」

「肝に命じます」


☆  ☆  ☆


地上から十数メートルの高さに張った結界の上を進み続けて1時間が経った。

途中、「この高さで走ってて、山とかにぶつかったりしないだろうか」と考えもしたが、弓矢を創造して第一宇宙速度と第二宇宙速度の間の速度で射てみたところ、無事に帰ってきたのでその心配は無さそうだ。

意外と景色が綺麗なので、スピードも時速300km程しか出していない。

そんなこんなで、前世、つまり地球では見なかったようなのどかな景色に目を奪われていた最中。突如かけられた大声に、俺のまったり気分は壊された。

「そこの人間、止まりなさい!」

聴こえてきたのは上空からだった。
見上げると、頭に角を生やした1人の女性が浮かんでこちらを指差していた。

・・・うーん、何というか「ザ・魔族」ってな見た目だな。確証は無いけれど。
タイミングからして、あれが魔王妃である可能性はかなり高い。
人違いだったら無視するのも申し訳ないが......ここは俺の身の安全優先ということで、更に加速させてもらおう。

アクセルをより一層吹かし、時速500kmくらいに加速する。
魔王妃と思われる女性は上空に浮かんでいるだけだったので、あっさりと抜かすことができた。

と思ったのも束の間。なんと、魔王妃と推測される女性は飛んで追いかけてきたのだ。時速500kmに後れをとることなく、だ。
「逃げるってことは、自分から『私がサルファ=ラ=ドンを殺しました』って白状しているようなもんね。貴様には死んでもらうわ!!」

・・・しまった。これってもしかして、素直に止まってれば話し合いで誤魔化せたやつじゃないのか?
発言内容からも追跡者は魔王妃で確定だし、この判断ミスはかなり気が滅入るな。

こうなれば、いよいよ残されたのはスピード勝負だ。
気持ちを切り替えて、とにかくアクセルを吹かしきろう。

こちらの速度が亜音速程度になると、流石に追いつけないのか、魔王妃との距離が徐々に開き始める。
良かった、これなら無事魔王妃を撒いて王都に入れそうだ。

そして、いよいよ魔王妃が点にしか見えなくなってきた頃。俺は、一つの異変に気づいた。
遥か遠方、ちょうど自分が進んでいる方向に、黒い扉が現れたのだ。

「・・・瞬間移動でもする気か?」
9割方有り得ない、と思いながら呟いた独り言。数秒ののち、それは現実と化した。

「このユフイン様から逃げられるとは思わないことね!」
かなり遠くにいるはずなのに、拡声魔法でも持っているのだろうか、明瞭に声が聞こえてくる。

・・・ユフインか。確かに、アタミではなかったな。
流石にこのままでは埒があかないので、攻撃に出てみるとしよう。
と言っても、正面からやり合うつもりは特に無いので「バイクで走行したままできる攻撃のみ」でだが。

既存の結界道路の上に、ちょっとした上り坂の結界を作る。
勾配は、ちょうどユフインの顔面を車輪が通過する程度だ。

「は......?なにこの結界、動けない!」
ちょうどユフインの首の位置だけ穴を開ける形で結界を用意したので、結界を壊されたり再び瞬間移動をされたりしない限りユフインが動くことはできない。
その間にも、俺は上り坂を走りながらギアを1速に入れ、体重を前に移動させる。

「せーの、ほっ!」

掛け声と共に、エンジンを再び全開にしつつ重心は後ろに移動させる。
すると、バイクの前輪が浮かび上がった。そう──ウィリーだ。
ウィリーが始まったカワサキの後輪からは、隠し武器である刃が後輪を覆うように出現する。そう、ちょうど草刈機の刃のような形状になるのだ。

「こちらも命は惜しいんで一瞬で決着をつけさせてもらおう。秘技・<後輪鋸ウィリー・ソー>」

刃付きのカワサキの後輪は、いとも簡単にユフインの顔を両断する。
決着は、おそらく着いた。


☆  ☆  ☆

ユフインとの対峙から1時間弱が経ち、俺は王都に着いた。あの後は亜音速で走り通したので、予定より速い到着だ。

常識的に考えて顔を両断されて尚生き延びるなどあり得ないが、それでも相手は魔王妃。「殺した」と断言できないところが異世界の辛いところだ。
それでもまあ、ユフインが再出現することはなかった以上容体は「死」ないしは「瀕死」のどちらかだろうけれど。

逃げ切れただけで満足だと思いつつ俺はカワサキを着陸させ、エンジンを切った。





☆  ☆  ☆  ☆  ☆

その頃、魔界にて。
アタミは、一つの魔道具を右手に呟いた。

「ユフインが......殺された......」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...