12 / 49
閑話 魔族と人間、その敵対する理由やいかに
しおりを挟む
遠い遠い昔、歴史上に初めて「魔王」という存在ができた頃。
人類と魔族は共に支えあい、仲良く暮らしていた。
その状況は魔王が代替わりしても変わることなく、ずっと続いていた。
中にはクーデターを起こして魔王に成り代わるような乱暴者だって存在したが、そんなのは人類の王家だって同じこと。内政が荒れはすれど、種族間の対立を引き起こすようなものでは決してなかった。
庶民に対してフレンドリーな魔王も多く、一度は可憐な少女の外見をした魔王が握手会を開いたことさえあった。
その頃には、人類と魔族が対立するなど到底考えられるものではなかった。
状況が一変したのは、先代魔王カルイザワの時代だ。
カルイザワはこれまでの魔王とは比べ物にならないくらいの強大な魔力の持ち主で、その強さは過去の魔王全員が一斉にかかってきても人差し指1本で掃討できるほどの物だった。
誰にも止めることのできない、圧倒的すぎる独裁者の誕生。それは世界を震え上がらせた。
カルイザワは暴君だったのか?
いや、決してそんなことはなかった。
究極の武力で無理やり民を従わせ、生死ギリギリを彷徨わせるほどの重税を課す……なんてことは無く、むしろ政治の面においては穏便で、為政者としては聖人君子そのものだった。
ただ、彼が使ったとある魔法が問題だったのだ。
それは、大陸全域避暑地化の魔法だ。
この魔法のおかげで、この世界は夏になっても22℃くらいの気温に保たれることになる。
初めは多くの人々がカルイザワに感謝した。
「なんて過ごしやすい夏なんだ」と。
・・・しかし、夏がずっと涼しいことには、必ずしもメリットばかりがあるわけではない。
そう、冷夏の影響で農作物が不作になるのだ。
もともと完全に肉食の魔族にとってはほぼ問題にならなかったものの、この事態は人類にとっては死活問題だった。
涼しい夏をもたらす魔王カルイザワを手放しに讃える魔族と、飢饉で不満が募る人類。
その溝は年を重ねるごとに深まっていき、魔王の代替わりの頃にはもはや修復不可能なものと化してしまったのだ。
☆ ☆ ☆
寿命が尽きるまで続くと思われた、カルイザワの台頭。
それはしかし、互角の戦闘力を持つ高位魔族の出現により崩壊の瀬戸際に立たされる事となる。
その日、カルイザワは執務室でいつものように政務をこなしていた。
「お茶を持って参りました」
コンコン、というノックの後、侍女が姿を現した。
侍女はいつものように持ってきたお茶を机の上に置こうとしたのだが――
「――極夜の入道雲」
カルイザワは侍女を特殊氷結魔法で凍らせた後、これまた特殊魔法のペンション投擲で粉々に砕いた。
「……やはり、マントルグか」
侍女と思われた人物は、実は刺客だったのだ。
「……プレート=テクト=ニクスの差し金か。マントルグを上手いこと人間に擬態させていたようだが、その程度で余を騙せると思うなよ。温度変化に関しては随一の才を持つこのカルイザワが、生物の体温を逸脱した奴に気づけぬ訳があるまい」
先ほどからカルイザワが口にしているマントルグというのは、惑星の内部にあるマントルから作られた流体仮生命体のことだ。マントル(mantle)と生命体(organism)をくっつけた造語ということで、マントルグと呼ばれている。
全身が完全に液体のため何にでも擬態することができる上に、斬撃を受けても一瞬で再変形して元の姿に戻ることができ、加えて高速変形による刺突は生物の反射神経を遥かに上回るというそのスペックは、正に反則的と形容する他ない。
だが先ほどのカルイザワの一撃からも分かるように「極低温にはめっぽう弱い」という弱点が一応存在する。
そして今回のようなケースで一番致命的となるのは、マントルグは仮生命付与でしか誕生する事が無く、その魔法を使えるのが高位魔族・プレート=テクト=ニクスただ一人であるという点だ。
これはつまり、犯人の特定が非常に容易いという事を意味する。
「……チッ。やはり気づかれたか」
執務室のドアを蹴破り、カルイザワの目の前に姿を現した男。この男こそが、たった今刺客を放ったプレート=テクト=ニクスだ。
「余に挑むつもりか。」
「御託はいいからさっさと始めっぞ」
こうして、魔王カルイザワと高位魔族プレート=テクト=ニクスの、命を賭した壮絶な戦いの火蓋は切られた。
カルイザワは縦横無尽に魔法で召喚したペンションを投げつけ、それに対抗してプレート=テクト=ニクスも無数の断層を作ってカルイザワ挟み潰そうとする。
プレート=テクト=ニクスの愛人であるハコネとユフインも共闘しに来てはいるものの、あまりの攻防の速さに戦況を見通すことが出来ず加勢し損ねていた。
永遠に拮抗するかと思われた勝負は、しかし数時間の攻防の後、カルイザワに軍配が上がり始めた。
両者が満身創痍になると、ようやくハコネ・ユフインも加勢できるようになった。
しかし桁違いの実力者同士の喧嘩への介入は想像以上に消耗が激しいもの。彼女たちは戦況を覆す事もままならず、すぐに疲弊してしまった。
カルイザワがプレート=テクト=ニクスの四肢を全て骨折させ、漸くとどめを刺そうとしたまさにその時。
「――青酸撃」
突如やってきた謎の毒撃で、魔王カルイザワは息絶えた。
何が起きたのか分からず、頭が真っ白になったプレート=テクト=ニクスの視線の先。そこにいたのは、プレート=テクト=ニクスに一目惚れし、会える機会を虎視眈々と狙っていたアタミだった。
☆ ☆ ☆
カルイザワを倒し、新魔王となったプレート=テクト=ニクスがまず最初にやったこと。
それは、修復不可能な対立が生じてしまった人類と魔族の住む場所を物理的に完全に引き離すことだった。
地殻変動魔法はプレート=テクト=ニクスの十八番。100年と経たず、元は一つだった大陸は完全に分離されて離れ離れとなった。
それぞれの大陸で、人類は憎き魔族への復讐心から、魔族は人類という復讐を試みる危険因子の排除のためにお互いを絶滅させるための準備を続けた。
魔族の大陸を指す「魔界」という単語が使われ始めたのもこの頃になってからだ。
人類と魔族は共に支えあい、仲良く暮らしていた。
その状況は魔王が代替わりしても変わることなく、ずっと続いていた。
中にはクーデターを起こして魔王に成り代わるような乱暴者だって存在したが、そんなのは人類の王家だって同じこと。内政が荒れはすれど、種族間の対立を引き起こすようなものでは決してなかった。
庶民に対してフレンドリーな魔王も多く、一度は可憐な少女の外見をした魔王が握手会を開いたことさえあった。
その頃には、人類と魔族が対立するなど到底考えられるものではなかった。
状況が一変したのは、先代魔王カルイザワの時代だ。
カルイザワはこれまでの魔王とは比べ物にならないくらいの強大な魔力の持ち主で、その強さは過去の魔王全員が一斉にかかってきても人差し指1本で掃討できるほどの物だった。
誰にも止めることのできない、圧倒的すぎる独裁者の誕生。それは世界を震え上がらせた。
カルイザワは暴君だったのか?
いや、決してそんなことはなかった。
究極の武力で無理やり民を従わせ、生死ギリギリを彷徨わせるほどの重税を課す……なんてことは無く、むしろ政治の面においては穏便で、為政者としては聖人君子そのものだった。
ただ、彼が使ったとある魔法が問題だったのだ。
それは、大陸全域避暑地化の魔法だ。
この魔法のおかげで、この世界は夏になっても22℃くらいの気温に保たれることになる。
初めは多くの人々がカルイザワに感謝した。
「なんて過ごしやすい夏なんだ」と。
・・・しかし、夏がずっと涼しいことには、必ずしもメリットばかりがあるわけではない。
そう、冷夏の影響で農作物が不作になるのだ。
もともと完全に肉食の魔族にとってはほぼ問題にならなかったものの、この事態は人類にとっては死活問題だった。
涼しい夏をもたらす魔王カルイザワを手放しに讃える魔族と、飢饉で不満が募る人類。
その溝は年を重ねるごとに深まっていき、魔王の代替わりの頃にはもはや修復不可能なものと化してしまったのだ。
☆ ☆ ☆
寿命が尽きるまで続くと思われた、カルイザワの台頭。
それはしかし、互角の戦闘力を持つ高位魔族の出現により崩壊の瀬戸際に立たされる事となる。
その日、カルイザワは執務室でいつものように政務をこなしていた。
「お茶を持って参りました」
コンコン、というノックの後、侍女が姿を現した。
侍女はいつものように持ってきたお茶を机の上に置こうとしたのだが――
「――極夜の入道雲」
カルイザワは侍女を特殊氷結魔法で凍らせた後、これまた特殊魔法のペンション投擲で粉々に砕いた。
「……やはり、マントルグか」
侍女と思われた人物は、実は刺客だったのだ。
「……プレート=テクト=ニクスの差し金か。マントルグを上手いこと人間に擬態させていたようだが、その程度で余を騙せると思うなよ。温度変化に関しては随一の才を持つこのカルイザワが、生物の体温を逸脱した奴に気づけぬ訳があるまい」
先ほどからカルイザワが口にしているマントルグというのは、惑星の内部にあるマントルから作られた流体仮生命体のことだ。マントル(mantle)と生命体(organism)をくっつけた造語ということで、マントルグと呼ばれている。
全身が完全に液体のため何にでも擬態することができる上に、斬撃を受けても一瞬で再変形して元の姿に戻ることができ、加えて高速変形による刺突は生物の反射神経を遥かに上回るというそのスペックは、正に反則的と形容する他ない。
だが先ほどのカルイザワの一撃からも分かるように「極低温にはめっぽう弱い」という弱点が一応存在する。
そして今回のようなケースで一番致命的となるのは、マントルグは仮生命付与でしか誕生する事が無く、その魔法を使えるのが高位魔族・プレート=テクト=ニクスただ一人であるという点だ。
これはつまり、犯人の特定が非常に容易いという事を意味する。
「……チッ。やはり気づかれたか」
執務室のドアを蹴破り、カルイザワの目の前に姿を現した男。この男こそが、たった今刺客を放ったプレート=テクト=ニクスだ。
「余に挑むつもりか。」
「御託はいいからさっさと始めっぞ」
こうして、魔王カルイザワと高位魔族プレート=テクト=ニクスの、命を賭した壮絶な戦いの火蓋は切られた。
カルイザワは縦横無尽に魔法で召喚したペンションを投げつけ、それに対抗してプレート=テクト=ニクスも無数の断層を作ってカルイザワ挟み潰そうとする。
プレート=テクト=ニクスの愛人であるハコネとユフインも共闘しに来てはいるものの、あまりの攻防の速さに戦況を見通すことが出来ず加勢し損ねていた。
永遠に拮抗するかと思われた勝負は、しかし数時間の攻防の後、カルイザワに軍配が上がり始めた。
両者が満身創痍になると、ようやくハコネ・ユフインも加勢できるようになった。
しかし桁違いの実力者同士の喧嘩への介入は想像以上に消耗が激しいもの。彼女たちは戦況を覆す事もままならず、すぐに疲弊してしまった。
カルイザワがプレート=テクト=ニクスの四肢を全て骨折させ、漸くとどめを刺そうとしたまさにその時。
「――青酸撃」
突如やってきた謎の毒撃で、魔王カルイザワは息絶えた。
何が起きたのか分からず、頭が真っ白になったプレート=テクト=ニクスの視線の先。そこにいたのは、プレート=テクト=ニクスに一目惚れし、会える機会を虎視眈々と狙っていたアタミだった。
☆ ☆ ☆
カルイザワを倒し、新魔王となったプレート=テクト=ニクスがまず最初にやったこと。
それは、修復不可能な対立が生じてしまった人類と魔族の住む場所を物理的に完全に引き離すことだった。
地殻変動魔法はプレート=テクト=ニクスの十八番。100年と経たず、元は一つだった大陸は完全に分離されて離れ離れとなった。
それぞれの大陸で、人類は憎き魔族への復讐心から、魔族は人類という復讐を試みる危険因子の排除のためにお互いを絶滅させるための準備を続けた。
魔族の大陸を指す「魔界」という単語が使われ始めたのもこの頃になってからだ。
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる