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第17話 奴隷解放用のウイルスがあった
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魔神に使徒の紋章を教えてもらった次の日。
刺青屋「彫り右衛門」の開店準備が整ったので、客が入るまでは気楽に王立図書館で借りた本でも読むことにした。
「……なるほど。『鑑定魔法』というのがあるのか」
俺はふと思いついた。
「もしかしたら、コラーゲンのイカ墨は刺青のインクとして使えるのではないか」と。
イカ墨は可食部ではないので、破壊天使リンネル以外の者に使うのに抵抗はない。
しかし、コラーゲンはあの伝説の魔物、クラーケンの変異体だ。そのイカ墨など使おうもんなら一般人にはどんな影響が出るか計り知れない。
そう思い、俺はコラーゲンのイカ墨は使わないつもりでいたのだ。
だが、鑑定魔法があるとなれば話は違ってくる。
イカ墨を鑑定しながら、必要があれば浄化魔法とかで有害物質を取り除き使えるインクにしていけばいいのだ。
コラーゲンを収納から取り出し、注射器でイカ墨を吸い上げ……あ、忘れてた。
氷結魔法で倒して収納したのだ。イカ墨だって当然、凍ったままだ。
「解凍」
イカ墨の分子のうち、第1励起状態のものがだんだん増えていくイメージで魔法を使う。
すると、見事イカ墨だけが溶けてくれた。
注射器で吸い上げ、鑑定する。
……なるほどな。
伝説の魔物のイカ墨ともなればあらゆる毒物が仕込まれていたりするのかと思ったが、意外にも有害成分はウイルスが1種類あるだけのようだ。
そして、そのウイルスさえも危険度はあまり高くないときたので、逆に興味を持ってしまった。
ウイルスをより詳細に鑑定してみる。
【イカタコウイルス Mk-Ⅱ】
実態を持つ魔法精霊空間の一種であるクラーケン及びその変異体の体液にのみ生息する希少な実体型マルウェア。
奴隷契約を筆頭とする契約魔法に感染し、マナテクノロジー・トランスジェクターを用いてあらゆる契約を無効化する。
特に、奴隷契約に感染した際は奴隷紋をイカとタコの形の紋章に置き換えてしまうことからこの名がついた。
奴隷契約を解除した経験を持つウイルス個体のみ飛沫感染が可能となる。一度飛沫感染が始まると1週間でパンデミックになり、全ての奴隷が解放されると言われている。
……先に鑑定しておいて正解だった。
危うくこのウイルスを駆除してしまうところだった。
どうもコンピューターウイルス的なニュアンスの方であるっぽいとことか、ツッコみたい箇所はいくつかある。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
誰でもいいから、早く奴隷にこいつを感染させたい。今はその事で頭がいっぱいだ。
その時。
「すみませーん。『彫り右衛門』ってこちらで合ってますか?」
どうやら第1の客がやってきたようだ。
客が来たのでイカタコウイルスのことは一旦忘れ──ることはちょっと難しいので頭の隅に置いておきつつ、職人モードに切り替える。
「はい、こちら刺青専門店、『彫り右衛門』です。まずはどの紋章がお似合いになるかを見定めますので、左手をお見せください」
そう言って机の上に左手を置いてもらい、手の甲を見る。
……秀英紋か。確かこれは、丁型使徒の紋に改造できるやつだ。
しかし、最初に来る客が秀英紋持ちとはな。普通、ああ言った演説だと力の劣る紋章を持つ者が扇動されやすいんじゃないのか。
PASONAの法則どこ行った。
「秀英紋を持ちながら、真っ先にここへ来るとは。何か事情がおありでしょうか?」
「……実は私、奴隷なんです」
俺の問いかけに、客の少女が答え始めた。
「私、主人がどうしても殺したいくらいに憎くて。でも奴隷紋がある以上、それは不可能な願望と考え、その思いを封印して生きてきたのです。ですが、先日の勇者様の演説を聞いて思いました。『圧倒的な力があれば、奴隷紋の拘束が始まる前に主人を殺せるのではないか』と」
ここで一息つき、少女は続ける。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
「確かに、そんなことをすれば殺した後からでも奴隷紋に苦しめられ、やがて死に至ることでしょう。でも、私はそれで構わないと思っているのです。勇者様の力は、秀英紋のそれを圧倒的に超えています。どうか私にその力を分けてください!」
……やばい。あまりにも都合が良すぎる。
まずは、この少女をイカタコウイルスで解放させてあげよう。
その後で、丁型使徒の紋章も可能な限り丁寧に彫らせてもらおう。
聞いているだけで俺も「主人」とやらに腹が立ってきたからな。
「実はですね、俺は先日、奴隷契約を無効化できる薬品を入手できたのです。可能でしたら、奴隷紋をお見せ頂けませんか?先にそちらを処理します」
「……え?」
予想だにしない展開に少女の目が丸くなる。
「……でも、私そんなお金持っていません。値段以上の施しを受ける訳には……」
「その点につきましては問題ありませんよ。というのも、私が手に入れた薬品には疫病を遥かに凌ぐ伝染力がありましてね。数日の後には奴隷制度自体が崩壊するのです。あなたはその始まりとなるに過ぎません。事の発端が私であることさえ黙っていていただければ、口止め料という事で善処しますよ」
そう伝えると、少女はもうどうにでもなれといった感じで服を脱ぎ、背中の奴隷紋を見せた。
そこに、コラーゲンのイカ墨を皮下注射する。
すると……数秒の後、奴隷紋はイカとタコの絵に切り替わった。
マナテクノロジー・トランスジェクター、仕事早いな。この分なら、本当に一週間足らずで世界中の奴隷が解放されるかもしれない。
一応、元奴隷紋を鑑定する。
【イカタコ紋章】
奴隷契約がイカタコウイルスMk-Ⅱにより無効化されたことを示す紋章。特に健康被害はない。
完璧だ。
俺は「奴隷紋の解除は終わりました。紋章の改造に移ります」と伝え、左手の甲に丁型使徒の紋章を彫り始めた。
☆ ☆ ☆
紋章を彫り終えて少女に帰ってもらい、数時間が経った頃。
突然、街中で大爆発が起きた。
……俺が最初に放った「ハイボルテージ・ペネトレイト」ほどとはいかないものの、とんでもない威力だな。
次の客からは、刺青を施した後に力に慣れてもらう為の(俺は防御に徹する)模擬戦をしてから帰すとするか。
刺青屋「彫り右衛門」の開店準備が整ったので、客が入るまでは気楽に王立図書館で借りた本でも読むことにした。
「……なるほど。『鑑定魔法』というのがあるのか」
俺はふと思いついた。
「もしかしたら、コラーゲンのイカ墨は刺青のインクとして使えるのではないか」と。
イカ墨は可食部ではないので、破壊天使リンネル以外の者に使うのに抵抗はない。
しかし、コラーゲンはあの伝説の魔物、クラーケンの変異体だ。そのイカ墨など使おうもんなら一般人にはどんな影響が出るか計り知れない。
そう思い、俺はコラーゲンのイカ墨は使わないつもりでいたのだ。
だが、鑑定魔法があるとなれば話は違ってくる。
イカ墨を鑑定しながら、必要があれば浄化魔法とかで有害物質を取り除き使えるインクにしていけばいいのだ。
コラーゲンを収納から取り出し、注射器でイカ墨を吸い上げ……あ、忘れてた。
氷結魔法で倒して収納したのだ。イカ墨だって当然、凍ったままだ。
「解凍」
イカ墨の分子のうち、第1励起状態のものがだんだん増えていくイメージで魔法を使う。
すると、見事イカ墨だけが溶けてくれた。
注射器で吸い上げ、鑑定する。
……なるほどな。
伝説の魔物のイカ墨ともなればあらゆる毒物が仕込まれていたりするのかと思ったが、意外にも有害成分はウイルスが1種類あるだけのようだ。
そして、そのウイルスさえも危険度はあまり高くないときたので、逆に興味を持ってしまった。
ウイルスをより詳細に鑑定してみる。
【イカタコウイルス Mk-Ⅱ】
実態を持つ魔法精霊空間の一種であるクラーケン及びその変異体の体液にのみ生息する希少な実体型マルウェア。
奴隷契約を筆頭とする契約魔法に感染し、マナテクノロジー・トランスジェクターを用いてあらゆる契約を無効化する。
特に、奴隷契約に感染した際は奴隷紋をイカとタコの形の紋章に置き換えてしまうことからこの名がついた。
奴隷契約を解除した経験を持つウイルス個体のみ飛沫感染が可能となる。一度飛沫感染が始まると1週間でパンデミックになり、全ての奴隷が解放されると言われている。
……先に鑑定しておいて正解だった。
危うくこのウイルスを駆除してしまうところだった。
どうもコンピューターウイルス的なニュアンスの方であるっぽいとことか、ツッコみたい箇所はいくつかある。
でも、今はそんなことはどうでもいい。
誰でもいいから、早く奴隷にこいつを感染させたい。今はその事で頭がいっぱいだ。
その時。
「すみませーん。『彫り右衛門』ってこちらで合ってますか?」
どうやら第1の客がやってきたようだ。
客が来たのでイカタコウイルスのことは一旦忘れ──ることはちょっと難しいので頭の隅に置いておきつつ、職人モードに切り替える。
「はい、こちら刺青専門店、『彫り右衛門』です。まずはどの紋章がお似合いになるかを見定めますので、左手をお見せください」
そう言って机の上に左手を置いてもらい、手の甲を見る。
……秀英紋か。確かこれは、丁型使徒の紋に改造できるやつだ。
しかし、最初に来る客が秀英紋持ちとはな。普通、ああ言った演説だと力の劣る紋章を持つ者が扇動されやすいんじゃないのか。
PASONAの法則どこ行った。
「秀英紋を持ちながら、真っ先にここへ来るとは。何か事情がおありでしょうか?」
「……実は私、奴隷なんです」
俺の問いかけに、客の少女が答え始めた。
「私、主人がどうしても殺したいくらいに憎くて。でも奴隷紋がある以上、それは不可能な願望と考え、その思いを封印して生きてきたのです。ですが、先日の勇者様の演説を聞いて思いました。『圧倒的な力があれば、奴隷紋の拘束が始まる前に主人を殺せるのではないか』と」
ここで一息つき、少女は続ける。その目にはうっすらと涙が溜まっていた。
「確かに、そんなことをすれば殺した後からでも奴隷紋に苦しめられ、やがて死に至ることでしょう。でも、私はそれで構わないと思っているのです。勇者様の力は、秀英紋のそれを圧倒的に超えています。どうか私にその力を分けてください!」
……やばい。あまりにも都合が良すぎる。
まずは、この少女をイカタコウイルスで解放させてあげよう。
その後で、丁型使徒の紋章も可能な限り丁寧に彫らせてもらおう。
聞いているだけで俺も「主人」とやらに腹が立ってきたからな。
「実はですね、俺は先日、奴隷契約を無効化できる薬品を入手できたのです。可能でしたら、奴隷紋をお見せ頂けませんか?先にそちらを処理します」
「……え?」
予想だにしない展開に少女の目が丸くなる。
「……でも、私そんなお金持っていません。値段以上の施しを受ける訳には……」
「その点につきましては問題ありませんよ。というのも、私が手に入れた薬品には疫病を遥かに凌ぐ伝染力がありましてね。数日の後には奴隷制度自体が崩壊するのです。あなたはその始まりとなるに過ぎません。事の発端が私であることさえ黙っていていただければ、口止め料という事で善処しますよ」
そう伝えると、少女はもうどうにでもなれといった感じで服を脱ぎ、背中の奴隷紋を見せた。
そこに、コラーゲンのイカ墨を皮下注射する。
すると……数秒の後、奴隷紋はイカとタコの絵に切り替わった。
マナテクノロジー・トランスジェクター、仕事早いな。この分なら、本当に一週間足らずで世界中の奴隷が解放されるかもしれない。
一応、元奴隷紋を鑑定する。
【イカタコ紋章】
奴隷契約がイカタコウイルスMk-Ⅱにより無効化されたことを示す紋章。特に健康被害はない。
完璧だ。
俺は「奴隷紋の解除は終わりました。紋章の改造に移ります」と伝え、左手の甲に丁型使徒の紋章を彫り始めた。
☆ ☆ ☆
紋章を彫り終えて少女に帰ってもらい、数時間が経った頃。
突然、街中で大爆発が起きた。
……俺が最初に放った「ハイボルテージ・ペネトレイト」ほどとはいかないものの、とんでもない威力だな。
次の客からは、刺青を施した後に力に慣れてもらう為の(俺は防御に徹する)模擬戦をしてから帰すとするか。
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