21 / 49
第18話 全世界が異常事態だ
しおりを挟む
「は~~淳~~。 やってくれたわね~~」
開店から10日後。
大きくため息をつきながら、サフシヨ様が閉店作業中の「彫り右衛門」に入ってきた。
「どうしたんだ?」
「……一応聞くけど、イカタコウイルスを拡散させたのって淳で間違いないわよね?」
「その質問には答えられないな」
「あのねえ、ここでシラを切ろうとしても無駄なのよ。そもそもここ数か月で、この国でクラーケンないしコラーゲンの討伐記録があるのは淳だけなのよ?それに、イカタコウイルスに関する情報は四百年前に起きた『契約事変』以来最高レベルの箝口令が敷かれてて、今では王族とフワジーラ家の一部の人間しかその存在を知らないの。イカタコウイルスの鑑定は今の宮廷魔術師のレベルだと不可能だし、存在に気づける人間は淳しかいないのよ」
「『契約事変』って何だ?その時もイカタコウイルスが蔓延したのか?」
「そうよ。イカタコウイルスは契約魔法を受けたことの無い人間には感染できないから、あれから約200年、一切の契約魔法の使用が禁止されて漸く飛沫感染型のイカタコウイルスが根絶されたの」
「ちなみに聞くが、イカタコウイルスを蔓延させた人間はどうなる?」
「世界反逆罪で家族ぐるみで奴隷落ち……は不可能だから、即刻処刑されるのが通例よ。通例って言うほど例はないけど。証拠なんてフワジーラ家の権限があればどうとでもできるから覚悟しなさい……と言いたいところだけど、淳を処刑する方法が存在しないから実質無罪放免よ」
「俺には家族もいないしな。……破壊天使リンネルと結婚できていれば話は変わったのかもしれないが」
「あの方を処刑しようとした時点で銀河ごと消されるわね。は~頭が痛い」
う~ん。
そういえばあの時は頭に無かったが、サフシヨ様は聖女だけじゃなく関白としての一面もあるんだったな。
王族の運命すら握る高位貴族が、奴隷の1人や2人所持していないはずがない。
サフシヨ様以外のフワジーラ家の人間やその他の貴族がどれだけ苦しもうと知ったこっちゃないが、サフシヨ様には少々悪いことをしてしまったなと思うのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「第2次契約事変」と呼ばれることになるであろう今回の出来事は、前回の契約事変では影響が出なかった地域にも影響を及ぼした。
そう、魔界である。
前回の無印「契約事変」で使われたのはクラーケンのイカ墨。感染したウイルスは「イカタコウイルスMk-Ⅰ」だった。
「イカタコウイルスMk-Ⅰ」はMk-Ⅱとほぼ同程度の性能を持つウイルスだが、唯一「400海里以上海を渡ることができない」という点においてMk-Ⅱに劣っている。
それ故に、魔王・プレート=テクト=ニクスの魔法により強制的に切り離された大陸である魔界にはその影響が及ばなかったのだ。
しかし、Mk-Ⅱは違う。惑星全体に行き届く感染力で、魔族同士の契約をも無効化しだしたのだ。
高位魔族が領民の低位魔族にかけた「強制徴税」の契約魔法を。
ユフイン領やアタミ領は特にその影響を受けなかった。それはそのはずだ。そもそもイカタコウイルスが蔓延する前に契約主が死に、契約魔法が無効となっているのだから。
魔王直轄領も特に何事もなかった。
そもそも「強制徴税」は、不当に高い税率をかける際反発をなくすために開発された魔法だ。
良き為政者であり、初めから領地運営に必要十分な税率しかかけていない魔王は「強制徴税」を使用していなかったのだ。
問題があったのはハコネ領。
全ての領民が、暴徒と化した。
「もうてめえの重税なんて払わねえよ!ぶっ殺してやる!パラリラパラリラ~」
「カーモンベイベーハコネちゃん!クーデターの勃発をインスパイアード!」
「パラリラだぜぇ?パラリラだろぉ?」
ハコネの屋敷は瞬く間に暴徒に囲まれた。
「何事ですか!サイレントヒル!」
ハコネの特殊魔法で、暴徒の8割が吹っ飛んだ。
契約魔法が無効になり、確かにハコネは窮地に立たされている。しかし、それでもハコネは魔王妃。並みの暴徒など敵ではない。
……あくまでも「並みの暴徒」は。
残った2割は、ハコネ領でも特に強いとされた魔族たちだ。
ハコネと暴徒は激戦を繰り広げた。
そして、漸く暴徒が最後の1人となった時。
ハコネは力尽き、暴徒と刺し違える形となり命を落とした。
次の日の朝。
暴動の知らせを聞いた魔王は、無残な姿と成り果てたハコネを見るなりこう呟いた。
「これというのも、全てはあの『最凶の氷雷使い』が元凶に違いない。なんとしてでもあの男を屠らねば俺の気が済まぬ!」
愛に溺れた魔王には、千堂 淳のしたことは単なるきっかけに過ぎず、全てはハコネの自業自得であることを認める事など到底不可能だった。
開店から10日後。
大きくため息をつきながら、サフシヨ様が閉店作業中の「彫り右衛門」に入ってきた。
「どうしたんだ?」
「……一応聞くけど、イカタコウイルスを拡散させたのって淳で間違いないわよね?」
「その質問には答えられないな」
「あのねえ、ここでシラを切ろうとしても無駄なのよ。そもそもここ数か月で、この国でクラーケンないしコラーゲンの討伐記録があるのは淳だけなのよ?それに、イカタコウイルスに関する情報は四百年前に起きた『契約事変』以来最高レベルの箝口令が敷かれてて、今では王族とフワジーラ家の一部の人間しかその存在を知らないの。イカタコウイルスの鑑定は今の宮廷魔術師のレベルだと不可能だし、存在に気づける人間は淳しかいないのよ」
「『契約事変』って何だ?その時もイカタコウイルスが蔓延したのか?」
「そうよ。イカタコウイルスは契約魔法を受けたことの無い人間には感染できないから、あれから約200年、一切の契約魔法の使用が禁止されて漸く飛沫感染型のイカタコウイルスが根絶されたの」
「ちなみに聞くが、イカタコウイルスを蔓延させた人間はどうなる?」
「世界反逆罪で家族ぐるみで奴隷落ち……は不可能だから、即刻処刑されるのが通例よ。通例って言うほど例はないけど。証拠なんてフワジーラ家の権限があればどうとでもできるから覚悟しなさい……と言いたいところだけど、淳を処刑する方法が存在しないから実質無罪放免よ」
「俺には家族もいないしな。……破壊天使リンネルと結婚できていれば話は変わったのかもしれないが」
「あの方を処刑しようとした時点で銀河ごと消されるわね。は~頭が痛い」
う~ん。
そういえばあの時は頭に無かったが、サフシヨ様は聖女だけじゃなく関白としての一面もあるんだったな。
王族の運命すら握る高位貴族が、奴隷の1人や2人所持していないはずがない。
サフシヨ様以外のフワジーラ家の人間やその他の貴族がどれだけ苦しもうと知ったこっちゃないが、サフシヨ様には少々悪いことをしてしまったなと思うのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「第2次契約事変」と呼ばれることになるであろう今回の出来事は、前回の契約事変では影響が出なかった地域にも影響を及ぼした。
そう、魔界である。
前回の無印「契約事変」で使われたのはクラーケンのイカ墨。感染したウイルスは「イカタコウイルスMk-Ⅰ」だった。
「イカタコウイルスMk-Ⅰ」はMk-Ⅱとほぼ同程度の性能を持つウイルスだが、唯一「400海里以上海を渡ることができない」という点においてMk-Ⅱに劣っている。
それ故に、魔王・プレート=テクト=ニクスの魔法により強制的に切り離された大陸である魔界にはその影響が及ばなかったのだ。
しかし、Mk-Ⅱは違う。惑星全体に行き届く感染力で、魔族同士の契約をも無効化しだしたのだ。
高位魔族が領民の低位魔族にかけた「強制徴税」の契約魔法を。
ユフイン領やアタミ領は特にその影響を受けなかった。それはそのはずだ。そもそもイカタコウイルスが蔓延する前に契約主が死に、契約魔法が無効となっているのだから。
魔王直轄領も特に何事もなかった。
そもそも「強制徴税」は、不当に高い税率をかける際反発をなくすために開発された魔法だ。
良き為政者であり、初めから領地運営に必要十分な税率しかかけていない魔王は「強制徴税」を使用していなかったのだ。
問題があったのはハコネ領。
全ての領民が、暴徒と化した。
「もうてめえの重税なんて払わねえよ!ぶっ殺してやる!パラリラパラリラ~」
「カーモンベイベーハコネちゃん!クーデターの勃発をインスパイアード!」
「パラリラだぜぇ?パラリラだろぉ?」
ハコネの屋敷は瞬く間に暴徒に囲まれた。
「何事ですか!サイレントヒル!」
ハコネの特殊魔法で、暴徒の8割が吹っ飛んだ。
契約魔法が無効になり、確かにハコネは窮地に立たされている。しかし、それでもハコネは魔王妃。並みの暴徒など敵ではない。
……あくまでも「並みの暴徒」は。
残った2割は、ハコネ領でも特に強いとされた魔族たちだ。
ハコネと暴徒は激戦を繰り広げた。
そして、漸く暴徒が最後の1人となった時。
ハコネは力尽き、暴徒と刺し違える形となり命を落とした。
次の日の朝。
暴動の知らせを聞いた魔王は、無残な姿と成り果てたハコネを見るなりこう呟いた。
「これというのも、全てはあの『最凶の氷雷使い』が元凶に違いない。なんとしてでもあの男を屠らねば俺の気が済まぬ!」
愛に溺れた魔王には、千堂 淳のしたことは単なるきっかけに過ぎず、全てはハコネの自業自得であることを認める事など到底不可能だった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる