転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など書き換えればいいじゃない〜

Josse.T

文字の大きさ
22 / 49

第19話 魔界

しおりを挟む
サフシヨ様の来店から更に1か月が経った。

・・・正確に言えば、「イカタコウイルスの件で文句を言いに来てから1か月」という意味だが。

というのも、その数日後、今度は正式に客としてサフシヨ様が来店されたのだ。
「このまま使徒の紋章の持ち主が増えればそう遠くないうちに聖女の座を降ろされかねないから」だそうだ。

もともと関白との兼任も大変なはずなので、どうせなら他のフワジーラ家の人間を寄越してそいつを次の代の聖女にすればいいのでは、と提案したが駄目だった。
さすが貴族脳、とでも言うべきか。奴隷紋の先入観からか、他のフワジーラ家の人々は紋章の改造を生理的に受け付けないらしい。

友人の頼みなので無料、といければ格好良かったのかもしれないが、生憎そんなことをしている金銭的余裕はない。
貧乏な客に対しては「料金分のローンを貸し出している」という程で施術しているため現金が入らず、コラーゲンの討伐報酬を切り崩して生活しているからだ。

その点サフシヨ様は王族をも凌ぐ資金力で現金一括払いにしてくれたため、いい即金になった。

これまでの施術例数は11件。
少ないのは決して客の入りが悪いからではない。
客が手にした戦闘力に慣れるまで模擬戦をしてやることにしているのだが、それが案外日数がかかるのだ。

ちなみに、模擬戦で開幕ハイボルテージペネトレイトを使ってくるのは意外にも女性客ばかりだ。理由を訊くと、「勇者様の技がかっこよかったので」だそうだ。ミーハーか。

……そして今日は、久しぶりの閉店日だ。
まあ個人事業主なのだし勝手にしろという話ではあるが、今日は少し試したい事がある。

まず俺は結界魔法で作った試験管の中にコラーゲンのイカ墨を入れ、その上でその試験管の中に自分の血も入れる。
そしてその試験管の中の混合液に対し、思いつきで作った特殊魔法を2つかける。

「抗原提示」
「免疫促成」

しばらくおいてから、試験管を高速でぶん回した。

……我ながらにやり方がガサツだった気もするが、いい感じに遠心力で分離はできてるな。
あとは鑑定魔法でどの層が抗体かを見分け、注射器でその層だけを取り出した。

改めて抽出した液体を詳細に鑑定するとこんな感じだ。

【イカタコウイルス血清】
イカタコウイルスを完全に無効化する。
この血清を打った人に対しては、イカタコウイルスパンデミック時であっても契約魔法の行使が可能。


……目当てのものは出来たようだな。

イカタコウイルス、奴隷契約だけではなくあらゆる契約魔法を解除してしまうらしいからな。
事情次第では、本当に契約魔法を必要とする人に提供できるよう治癒手段を用意しておこうと思ったのだ。
まあ滅多なことがない限り持ち出すつもりはないが。

作れることも判明したので、そろそろ量産体制に入るか。

──そう考えていると、不意に部屋の中央に黒い扉のようなものが現れた。
そう、転移門だ。
……模擬戦で転移魔法を教えた覚えはないのだがな。使徒の紋章を持つと自然と使えるようにでもなるのだろうか。

「早速ローンを返しに来たか。いい心がけだな」

「……そうだ、借りを返しに来た。いい心がけ、ってのは煽っているつもりか?」

転移門から出てきたのは俺の顧客──ではなく、魔王・プレート=テクト=ニクスだった。
これはちと「借り」の意味が違いそうだな。

「不法侵入だぞ。帰らないならば訴える」

「……ハハ、ハハハ。俺を奴隷にでも落とすつもりか? 契約魔法を使えなくしておいて、一体どうやって罰を実行するつもりは言うてみい!」

なるほどな。今回はハコネやアタミの事とは別件で、契約魔法無効化による何らかの被害の賠償を求めてやってきたという訳か。

しかし、ここ王都の中心部で暴れられては困るな。戦わずに済むならそれが最適だが、せめてそれとなく存分に暴れられる場所に誘導したいものだ。

まあ何とかできるはずだ。なんせ俺の前世は彫り師。極道の世界で幾多の修羅場を潜り抜けてきた男が、ただ圧倒的な力に任せて生きてきた奴に誤魔化し、隠蔽、交渉の手腕で負けるはずがないのだ。


「『契約魔法を使えなくしておいて』か。まるで俺が何かをしでかしたような言い草だな」

「隠そうとしても無駄だ。お前以外の誰に全世界での契約魔法無効化などができよう」

「魔王ともあろうお方が、随分と雑な特定方法ではないか。しかしそこまで頭に血が昇るとは、相当被害が深刻なようだな。ひとまずはそこから話をするのが筋なんじゃないのか?」

「黙れ、黙れ、黙れぇぃ! 罪人が何をのうのうと!」

「まあ待て。確かに俺を殺せばお前の気は済むかもしれない。だが、仮にもその身勝手な報復が結果的に真犯人の利益になったとしても、被害を受けた者は報われるというのか?」

言うと、魔王はハッとしたような表情になり、しばらくしてから重々しい表情でこう聞いてきた。

「……何か、真犯人に関する情報でも持っているのか?」

「そうだな。実は、俺はその真犯人の家から命からがら盗み出した『契約魔法復活薬』を持っていてだな」
そう言って、抽出した血清を見せる。

「今教えられるのはここまでだ。これ以上、例えば真犯人の正体を聞きたいとでも言うならまずはそちらにどのような被害が出ているのか説明しろ」

魔王は少々黙り込んでから、やがてこう話し出した。
「……俺の妻、ハコネが暴徒に殺された。暴徒と化したのはハコネ領の領民。その真犯人とやらのせいで『強制徴税』の契約魔法が切れたのが原因だ。……はっきり言ってその薬は今更不要。すぐにでもその真犯人の居場所へ連れてゆけ」

・・・

・・・

・・・は?
どう聞いたって魔王妃ハコネの自業自得にしか聞こえないぞ。
圧政を黙殺した魔王も魔王だ。同罪とまでいう気は無いが、どうやったらこの因果律から「契約魔法を無効化させた奴を殺す」という結論が出てくるんだ。

とはいえ、イカタコウイルス血清が無意味と判明した今、真犯人(尤もこちらに罪があるとは微塵も思えないが)は俺な訳だし、戦闘は不可避だろう。
となれば、これまでの嘘に最後に一役買ってもらうのが最善か。

「ところでだが、この転移門はどこに繋がっている?」

「魔族の大陸だ。それを聞いて何になる」

「……真犯人はこっちだ。ついて来い」

そう言って俺は魔王が作った転移門を渡った。
俺も行くのだからこれは嘘ではない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...