3 / 7
「殺人事件だって」
しおりを挟む
本日早朝、部室前で地面に倒れた男子生徒が発見された。
教職員の119番通報により救急隊が駆けつけたが、バイタルを確認した時には既に死亡状態であった。
併せて警察への通報がなされ学校内に複数の赤色灯を点灯したパトカーや捜査車両が停まっている。
部室棟及び足跡のあった野球グラウンドには規制線が張られところどころに制服の警察官が立っていた。
規制線越しに作業着を着た警察官が地面にしゃがみ込み鑑識活動をしている様子が伺えた。
神北高校側は取り敢えず生徒を第一体育館に集めるように指示を出した。
登校した豊田達も一旦は第一体育館に集まった。
菊池はざわつく体育館の中で友人と何を話して良いか分からず床に座り教師の指示を待っていた。
「聞いた?部室の前で殺人事件だって」
杉山萌子が遠慮なく話しかけてきた。こういう時な空気を読まない友人は助かる。
杉山は菊池と同じ歴史部に所属する2年生だ。
本来は長身でスラリとした体型なのだが冬場になると増量、夏場になると減量を繰り返している。
今は中間体型だ。
冬に急に増量するのでプレーリードッグとかもこもこちゃんと呼ばれている。
実はスリム体型とふっくら体型双方にファンがいて派閥を作っているとか。
「部室の前?廊下ってこと?」
菊池が尋ねる。昨日使っていた部室の前で事件は流石に気持ち悪い。
「廊下じゃ無くてグラウンド側の地面って言ってたよ」
と、杉山。
それはそれで部活中、既に死体があったのかもと考えると気持ち悪い。
しばらくして、
「校長出てきたよ」
壇上に校長先生が上がった。
校長自ら男子生徒の訃報と本日の臨時休校を伝えた。
さらに昨日の部室棟の利用者は後で校内放送で呼び出すので校内に待機するように指示が出された。
体育館内では生徒達のすすり泣く声も聞こえていたが一人また一人と生徒達は帰宅の途についた。
「じゃあね」
杉山も手を振りきする。
歴史部の二人も他の生徒と同じ様に体育館で待機していても良かったのだが、たまたま昨日の部活に参加した生徒は豊田と菊池の二人だけだった。
要は二人きりで体育館にいるのが気恥ずかしかったのだ。
豊田が『現場を見に行こう』と菊池を誘い出した。
未だぬかるんでいるグラウンドを横目に陸上用のタータンの所で二人はキャッチボールを始めたのだ。
ボールとグローブは歴史部の隣室に置いてあったものを借りている。
制服を着て二人でキャッチボールをするほうが恥ずかしいと思うのだが。
「なんで俺達、キャッチボールしているんですか部長」
「部室が使えないのよ、衛」
左投げの菊池の球は独特の軌道で歴史部部長の豊田のグラブに吸い込まれた。
「良くキャッチ出来ますね、俺の球、癖球なんで野球部員でも嫌がりますよ」
「こう見えて私、中学はソフト部だったからね、良いリハビリになるでしょ」
小柄と言って良いくらいの身体で全身を使いボールを投げる。
ウインドミルだ。
ボールは高く舞い上がり降下する。
急に上空に投げられた球にも、菊池は難なく追いついた、流石だ。
「もう野球はやめてますよ」
菊池は元々野球部で投手をしていた。
185センチを超える上背の本格左腕。
期待の一年として、練習試合ではあるが初登板から強豪校のクリーンナップを相手に安打を許さず2つの三振を奪った。
上々のデビューだった。
そこまでは菊池の野球人生は順調だったのだ。
試合後、菊池は肘に僅かな違和感を覚えた。
軽い気持ちで近くの外科を受診したところ、左肘内側副靭帯損傷との診断結果だった。
手術を受け回復まで10ヶ月の診断結果は高校生には長過ぎた。
その結果、菊池は野球部をスッパリと辞めた。
何をするでもなく、無為な時間を過ごしていた菊池を『面白いやつがいる』と豊田が歴史部に勧誘したのが二人の出会いである。
二人が所属する神北高等学校は、広島県東部に位置する公立高校である。
特徴は公立でありながらスポーツ科があり部活動が盛んで常連と言っていいほど全国大会に出場している事くらいか。
スポーツ科があることの弊害もあった。
運動部は菊池の様なスポーツ科の生徒で締められているので、普通科の生徒に運動部入り込む余地が無くなっていた。
一方で副次効果としてあぶれた生徒達の熱意が非常に高くなった。
増築された第二体育館、通称、『部室棟』の空き部屋を拠点にして様々な文化系の部活や楽しむことを主としたスポーツ研究会が設立された。
乱立と言っていいほどの部活数があぶれた生徒達の受け皿となったのである。
第二体育館は一階には体育館及び部室群、二階には柔道場及びトレーニングルームの入る中々に立派な近代的な建物であった。
歴史部の部室は、部室棟の西側に並ぶ部室群の最北である。
「部室の前で人が亡くなっていたらしい、呼出しの放送待ちだよ」
「それは知ってますよ。でもなんであんな所で」
二人のキャッチボールは続く。
二人はキャッチボールをしながら横目で部室棟の方を見ていた。
「何も見えないわね」
足跡のあったであろう場所にはカバーが掛けられており、遺体の発見された歴史部の部室前はブルーシートで囲われており豊田はもち菊池の身長でも中の様子は伺えなかった。
二人は先ほどまで広げていったキャッチボールの距離を除々に狭めていく。
スナップスローの距離まで近づいた時に校内放送が流れる。
「菊池さん豊田さん歴史部の部室で待機お願いします。繰り返します……」
二人は足早に部室に向かった。
教職員の119番通報により救急隊が駆けつけたが、バイタルを確認した時には既に死亡状態であった。
併せて警察への通報がなされ学校内に複数の赤色灯を点灯したパトカーや捜査車両が停まっている。
部室棟及び足跡のあった野球グラウンドには規制線が張られところどころに制服の警察官が立っていた。
規制線越しに作業着を着た警察官が地面にしゃがみ込み鑑識活動をしている様子が伺えた。
神北高校側は取り敢えず生徒を第一体育館に集めるように指示を出した。
登校した豊田達も一旦は第一体育館に集まった。
菊池はざわつく体育館の中で友人と何を話して良いか分からず床に座り教師の指示を待っていた。
「聞いた?部室の前で殺人事件だって」
杉山萌子が遠慮なく話しかけてきた。こういう時な空気を読まない友人は助かる。
杉山は菊池と同じ歴史部に所属する2年生だ。
本来は長身でスラリとした体型なのだが冬場になると増量、夏場になると減量を繰り返している。
今は中間体型だ。
冬に急に増量するのでプレーリードッグとかもこもこちゃんと呼ばれている。
実はスリム体型とふっくら体型双方にファンがいて派閥を作っているとか。
「部室の前?廊下ってこと?」
菊池が尋ねる。昨日使っていた部室の前で事件は流石に気持ち悪い。
「廊下じゃ無くてグラウンド側の地面って言ってたよ」
と、杉山。
それはそれで部活中、既に死体があったのかもと考えると気持ち悪い。
しばらくして、
「校長出てきたよ」
壇上に校長先生が上がった。
校長自ら男子生徒の訃報と本日の臨時休校を伝えた。
さらに昨日の部室棟の利用者は後で校内放送で呼び出すので校内に待機するように指示が出された。
体育館内では生徒達のすすり泣く声も聞こえていたが一人また一人と生徒達は帰宅の途についた。
「じゃあね」
杉山も手を振りきする。
歴史部の二人も他の生徒と同じ様に体育館で待機していても良かったのだが、たまたま昨日の部活に参加した生徒は豊田と菊池の二人だけだった。
要は二人きりで体育館にいるのが気恥ずかしかったのだ。
豊田が『現場を見に行こう』と菊池を誘い出した。
未だぬかるんでいるグラウンドを横目に陸上用のタータンの所で二人はキャッチボールを始めたのだ。
ボールとグローブは歴史部の隣室に置いてあったものを借りている。
制服を着て二人でキャッチボールをするほうが恥ずかしいと思うのだが。
「なんで俺達、キャッチボールしているんですか部長」
「部室が使えないのよ、衛」
左投げの菊池の球は独特の軌道で歴史部部長の豊田のグラブに吸い込まれた。
「良くキャッチ出来ますね、俺の球、癖球なんで野球部員でも嫌がりますよ」
「こう見えて私、中学はソフト部だったからね、良いリハビリになるでしょ」
小柄と言って良いくらいの身体で全身を使いボールを投げる。
ウインドミルだ。
ボールは高く舞い上がり降下する。
急に上空に投げられた球にも、菊池は難なく追いついた、流石だ。
「もう野球はやめてますよ」
菊池は元々野球部で投手をしていた。
185センチを超える上背の本格左腕。
期待の一年として、練習試合ではあるが初登板から強豪校のクリーンナップを相手に安打を許さず2つの三振を奪った。
上々のデビューだった。
そこまでは菊池の野球人生は順調だったのだ。
試合後、菊池は肘に僅かな違和感を覚えた。
軽い気持ちで近くの外科を受診したところ、左肘内側副靭帯損傷との診断結果だった。
手術を受け回復まで10ヶ月の診断結果は高校生には長過ぎた。
その結果、菊池は野球部をスッパリと辞めた。
何をするでもなく、無為な時間を過ごしていた菊池を『面白いやつがいる』と豊田が歴史部に勧誘したのが二人の出会いである。
二人が所属する神北高等学校は、広島県東部に位置する公立高校である。
特徴は公立でありながらスポーツ科があり部活動が盛んで常連と言っていいほど全国大会に出場している事くらいか。
スポーツ科があることの弊害もあった。
運動部は菊池の様なスポーツ科の生徒で締められているので、普通科の生徒に運動部入り込む余地が無くなっていた。
一方で副次効果としてあぶれた生徒達の熱意が非常に高くなった。
増築された第二体育館、通称、『部室棟』の空き部屋を拠点にして様々な文化系の部活や楽しむことを主としたスポーツ研究会が設立された。
乱立と言っていいほどの部活数があぶれた生徒達の受け皿となったのである。
第二体育館は一階には体育館及び部室群、二階には柔道場及びトレーニングルームの入る中々に立派な近代的な建物であった。
歴史部の部室は、部室棟の西側に並ぶ部室群の最北である。
「部室の前で人が亡くなっていたらしい、呼出しの放送待ちだよ」
「それは知ってますよ。でもなんであんな所で」
二人のキャッチボールは続く。
二人はキャッチボールをしながら横目で部室棟の方を見ていた。
「何も見えないわね」
足跡のあったであろう場所にはカバーが掛けられており、遺体の発見された歴史部の部室前はブルーシートで囲われており豊田はもち菊池の身長でも中の様子は伺えなかった。
二人は先ほどまで広げていったキャッチボールの距離を除々に狭めていく。
スナップスローの距離まで近づいた時に校内放送が流れる。
「菊池さん豊田さん歴史部の部室で待機お願いします。繰り返します……」
二人は足早に部室に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる