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第一章:バックグラウンド
其の一『誘い』
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キーンコーンカーンコーン……
キーンコーンカーンコーン………
キーンコーンカーンコーン…………
「じゃあ夏休み前の授業はこれで終わりです! 夏休み明けにまた会いましょう、くれぐれも怪我しないように! 日直さん、号令お願い」
「起立!」
日直の号令によってクラスメイトが全員椅子を引いて立ち上がる。
「さようなら」
「「「「「「さようなら」」」」」」
「はいさようならー」
クラスはこの瞬間、明日から学生のみに許された長期休暇である夏休みが始まり、しばらく学校に来なくてもいいという開放感からがやがやと騒がしくなっていた。
今日は夏休み前ということで午前中だけで学校は終わり、すでに何人か「飯食いに行こうぜー」とか「カラオケ行こうぜー」だとかと言った話が聞こえてくる。
事実、香月琳も午後からは暇なので昼食を取り次第適当にどこかに出かける予定ではある。と言っても近場の本屋くらいなのだが。
「んー……」
琳が体を伸ばしているところへ、今日の日直であり小学校からの友人である宗像総一郎が眼鏡をかけ直しながらやって来た。
総一郎は所謂いいとこのお坊ちゃんで、学力優秀の秀才君である。性格は基本冷静でその上容姿も良く女子に人気で中学の頃はバレンタインデーのチョコが下駄箱一杯に詰まっていたというラブコメ主人公も真っ青な経験をしてきた逸材である。
また、琳とは中高と陸上部で競い合った戦友でもある。
「香月」
「よお総一郎。帰るのか?」
「あぁそのつもりだが、何かあったか?」
「ちょっと付き合えよ、どうせ帰っても宿題やるだけだろ」
「別に構わないが」
「よし、生贄第一号決定だ」
「生贄……あぁそういうことか」
琳の発言で何かを察した総一郎、彼は何かがこちらへと走ってくる足音に気が付くと「夏休みか……」と昔を懐かしむかのようにしみじみと呟いた。その声色にはどことなく諦めらしき表現も含まれていた気がする。
そしてその何かの正体が教室に入ってきて、琳と総一郎を見つけるや否や真っすぐにやって来た。
「先輩方! この後お暇っすよね!?」
「初手がそれってお前……」
「一之瀬さんらしいと言えばらしいな」
中学校時代からの後輩である一之瀬葵は夏休みという長期休暇を迎えた高揚感からかいつにも増して元気が良く、ポニーテールが揺れている。
葵は一つ下の後輩で現在高校二年生。性格は天真爛漫で、元気一杯のスポーツ女子。運動神経が良くて中高と陸上部に所属しており、高校一年生で全国大会出場し短距離走で第二位の成績を修めている。
琳と総一郎とは中学の時に知り合い、二人と同じ部活をやっていたことをきっかけに交流が始まった。それ以来毎年夏休みと冬休みには決まって葵から遊びに誘われているのだ。
「んで? どこ行くんだ?」
「そっれはっすねー………」
葵はそう言いながらスマホを取り出して何やら指をせわしなく動かしている。
「これ見てくださいよ」
そう言って琳と総一郎が見せられたのはとある動画だった。
その動画の内容とは、どこかの山奥を撮影していたもので音声は枯れ葉を踏む音や風の音くらいしかなく声などは入っていなかった。
「なんだこれ」と琳が呟き、「どこの森だろう」と総一郎が推測を始める。
「まぁ見ててくださいって、ここからっすから」
葵はそう言いながらスマホを二人に近づけた。
すると動画では「ガサガサ……」と茂みの奥を何か黒い影が横切った、撮影者はその茂みの方に走っていくが何も見つからない。
そしてようやく撮影者と思しき二つの声が入った。
『なんもねえな』
『えー……つまんなーい』
男女のペアがいるのだろう。ちらちら写る靴やズボンからして前が男性で後ろが女性だと思われる。
その二人組は茂みに近寄っても何もないと分かると、帰り始めた。
目の前に神社の本殿があるところを見ると、神社のあるどこかの山をそのまま突き進んで行っていたということ。
するとその時、後ろからまた『ガサガサ……』と音が鳴りカメラがそちらの方へと向いた。だが何もない。
再びカメラが前へ向き直した時、後ろの女性が悲鳴を上げた。
カメラがそちらへと振り返ると、背中から大量の血を流した女性がうつ伏せになって倒れている。
次の瞬間、カメラの右端から黒い塊が男性を突き飛ばしてカメラが宙を舞い、慶大の石畳に『ガチャン!』という音を立てて落ちた。
男性は悲鳴を上げているようだが何が起こっているのかは分からない。
映像はそこで途切れてしまっていた。
「……どうっすか」
「どうって言われても……」
「奇怪な映像だとしか言えないな」
「気づいてないんすか? ほらこの部分」
そう言って葵は動画を止めてズームした。そこには「如月神社」とぼやけて写っていた。
「え、ここってすぐそこじゃん」
実はこの如月神社、学校から徒歩で十分くらいの場所にある神社だったのだ。
「面白そうなんで行きましょう!」
「阿保かお前」
「どうしてそうなるんだ」
「酷いっす、お二人とも!」
その後葵の熱烈な誘いに断り切れず、琳と総一郎の二人は渋々ついて行くことにした。
昼食を近くのファミレスで食べてそのまま山に直行、という流れだ。
「それじゃあ探検隊出動っすよ!」
「あーこら走るなって」
「先が思いやられるな」
三人は元気に教室から飛び出した葵の後を追うようにして教室から出ていった。
そしてその様子を、一人の少女がじっと見ていたことに三人は気づいていなかった。
キーンコーンカーンコーン………
キーンコーンカーンコーン…………
「じゃあ夏休み前の授業はこれで終わりです! 夏休み明けにまた会いましょう、くれぐれも怪我しないように! 日直さん、号令お願い」
「起立!」
日直の号令によってクラスメイトが全員椅子を引いて立ち上がる。
「さようなら」
「「「「「「さようなら」」」」」」
「はいさようならー」
クラスはこの瞬間、明日から学生のみに許された長期休暇である夏休みが始まり、しばらく学校に来なくてもいいという開放感からがやがやと騒がしくなっていた。
今日は夏休み前ということで午前中だけで学校は終わり、すでに何人か「飯食いに行こうぜー」とか「カラオケ行こうぜー」だとかと言った話が聞こえてくる。
事実、香月琳も午後からは暇なので昼食を取り次第適当にどこかに出かける予定ではある。と言っても近場の本屋くらいなのだが。
「んー……」
琳が体を伸ばしているところへ、今日の日直であり小学校からの友人である宗像総一郎が眼鏡をかけ直しながらやって来た。
総一郎は所謂いいとこのお坊ちゃんで、学力優秀の秀才君である。性格は基本冷静でその上容姿も良く女子に人気で中学の頃はバレンタインデーのチョコが下駄箱一杯に詰まっていたというラブコメ主人公も真っ青な経験をしてきた逸材である。
また、琳とは中高と陸上部で競い合った戦友でもある。
「香月」
「よお総一郎。帰るのか?」
「あぁそのつもりだが、何かあったか?」
「ちょっと付き合えよ、どうせ帰っても宿題やるだけだろ」
「別に構わないが」
「よし、生贄第一号決定だ」
「生贄……あぁそういうことか」
琳の発言で何かを察した総一郎、彼は何かがこちらへと走ってくる足音に気が付くと「夏休みか……」と昔を懐かしむかのようにしみじみと呟いた。その声色にはどことなく諦めらしき表現も含まれていた気がする。
そしてその何かの正体が教室に入ってきて、琳と総一郎を見つけるや否や真っすぐにやって来た。
「先輩方! この後お暇っすよね!?」
「初手がそれってお前……」
「一之瀬さんらしいと言えばらしいな」
中学校時代からの後輩である一之瀬葵は夏休みという長期休暇を迎えた高揚感からかいつにも増して元気が良く、ポニーテールが揺れている。
葵は一つ下の後輩で現在高校二年生。性格は天真爛漫で、元気一杯のスポーツ女子。運動神経が良くて中高と陸上部に所属しており、高校一年生で全国大会出場し短距離走で第二位の成績を修めている。
琳と総一郎とは中学の時に知り合い、二人と同じ部活をやっていたことをきっかけに交流が始まった。それ以来毎年夏休みと冬休みには決まって葵から遊びに誘われているのだ。
「んで? どこ行くんだ?」
「そっれはっすねー………」
葵はそう言いながらスマホを取り出して何やら指をせわしなく動かしている。
「これ見てくださいよ」
そう言って琳と総一郎が見せられたのはとある動画だった。
その動画の内容とは、どこかの山奥を撮影していたもので音声は枯れ葉を踏む音や風の音くらいしかなく声などは入っていなかった。
「なんだこれ」と琳が呟き、「どこの森だろう」と総一郎が推測を始める。
「まぁ見ててくださいって、ここからっすから」
葵はそう言いながらスマホを二人に近づけた。
すると動画では「ガサガサ……」と茂みの奥を何か黒い影が横切った、撮影者はその茂みの方に走っていくが何も見つからない。
そしてようやく撮影者と思しき二つの声が入った。
『なんもねえな』
『えー……つまんなーい』
男女のペアがいるのだろう。ちらちら写る靴やズボンからして前が男性で後ろが女性だと思われる。
その二人組は茂みに近寄っても何もないと分かると、帰り始めた。
目の前に神社の本殿があるところを見ると、神社のあるどこかの山をそのまま突き進んで行っていたということ。
するとその時、後ろからまた『ガサガサ……』と音が鳴りカメラがそちらの方へと向いた。だが何もない。
再びカメラが前へ向き直した時、後ろの女性が悲鳴を上げた。
カメラがそちらへと振り返ると、背中から大量の血を流した女性がうつ伏せになって倒れている。
次の瞬間、カメラの右端から黒い塊が男性を突き飛ばしてカメラが宙を舞い、慶大の石畳に『ガチャン!』という音を立てて落ちた。
男性は悲鳴を上げているようだが何が起こっているのかは分からない。
映像はそこで途切れてしまっていた。
「……どうっすか」
「どうって言われても……」
「奇怪な映像だとしか言えないな」
「気づいてないんすか? ほらこの部分」
そう言って葵は動画を止めてズームした。そこには「如月神社」とぼやけて写っていた。
「え、ここってすぐそこじゃん」
実はこの如月神社、学校から徒歩で十分くらいの場所にある神社だったのだ。
「面白そうなんで行きましょう!」
「阿保かお前」
「どうしてそうなるんだ」
「酷いっす、お二人とも!」
その後葵の熱烈な誘いに断り切れず、琳と総一郎の二人は渋々ついて行くことにした。
昼食を近くのファミレスで食べてそのまま山に直行、という流れだ。
「それじゃあ探検隊出動っすよ!」
「あーこら走るなって」
「先が思いやられるな」
三人は元気に教室から飛び出した葵の後を追うようにして教室から出ていった。
そしてその様子を、一人の少女がじっと見ていたことに三人は気づいていなかった。
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