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最後の留守電
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一人暮らしを始めて三か月。
仕事にも慣れ、帰宅後はゆっくりテレビを見るのが習慣になっていた。
その夜も、リビングでドラマを見ていると、スマホに着信通知が表示された。
番号は非通知。取らずに放置すると、すぐに留守番電話のマークが点滅する。
再生ボタンを押すと、ザー…という雑音の中、遠くで人の声がした。
「……聞こえる……?」
女の声だった。低く、息がかすれている。
心臓が跳ねたが、ただの間違い電話だと自分に言い聞かせ、その夜は眠った。
翌日も同じ時間、また非通知から着信があった。
今度は出てみたが、無言のまま数秒で切れた。
留守電を再生すると、昨日よりもはっきりした声が入っていた。
「……後ろに……」
慌てて振り返ったが、もちろん誰もいない。
気味が悪くなり、着信拒否の設定を試みたが、非通知には効果がなかった。
三日目。
仕事中にもかかわらず、また非通知の着信があった。
さすがに不気味で同僚に相談すると、「気にしすぎだろ」と笑われた。
だがその夜、帰宅して留守電を再生した瞬間、背筋が凍った。
「……入れて……寒い……」
その声のすぐ後に、カチリとドアノブが回る音が録音されていた。
録音時間は私がまだ会社にいた時間帯だ。鍵は掛かっていたはずだが、確かめると、玄関の鍵が半分だけ回った状態になっていた。
警察に相談すると、「いたずらの可能性が高いが念のため巡回を強化します」とだけ言われた。
少しは安心したが、不安は拭えない。
そして四日目の夜、また着信があった。
怖くて出られず、留守電を再生すると、声はもうすぐ耳元にあるような近さで囁いた。
「……中、あたたかいね……」
ゾッとした。
私の留守電はスマホではなく、自宅の固定電話にも同時に保存されるタイプだ。
つまり、この声は部屋の中の電話機に直接吹き込まれている。
慌てて警察に再通報し、事情を説明した。
警官が来るまでの間、部屋中の戸締まりを確認し、息を潜めて待った。
幸い、何事もなく夜が明けた。
ただ、固定電話の留守電には新しいメッセージが残っていた。
再生すると、ガサガサと服が擦れる音、そして私の寝息が録音されていた。
「……やっと隣に……」
布団のすぐ横から聞こえるような、生々しい囁き。
私はその夜、眠っている間に誰かが部屋にいたのだ。
恐怖のあまり荷物をまとめ、翌日には友人の家へ避難した。
だが数日後、友人の家でも非通知の着信があった。
「なんで番号がわかるんだ…」と呟きながら留守電を再生すると、あの女の声が響いた。
「……見つけた……もう離れない……」
私は友人の家を飛び出し、ホテルに泊まることにした。
フロントでチェックインを済ませ、部屋に入った瞬間、固定電話が鳴った。
ホテルの部屋番号は誰にも教えていない。
震える手で受話器を取ると、受話口から、あの囁きが聞こえた。
「今夜こそ、入れてね」
私は受話器を落とした。
その音がまだ耳に残る中、視線の先、ベッドの上に置かれた私のスマホが震えた。
画面には新しい留守電通知が表示されている。
録音時間は、ついさっきフロントで手続きをしていた数分間。
再生すると――部屋の扉がゆっくり開く音と、スリッパが床を擦る音。
それに続く、私の名前を呼ぶ声。
録音の最後、女が小さく笑って言った。
「……鍵、もう開けてあるから」
仕事にも慣れ、帰宅後はゆっくりテレビを見るのが習慣になっていた。
その夜も、リビングでドラマを見ていると、スマホに着信通知が表示された。
番号は非通知。取らずに放置すると、すぐに留守番電話のマークが点滅する。
再生ボタンを押すと、ザー…という雑音の中、遠くで人の声がした。
「……聞こえる……?」
女の声だった。低く、息がかすれている。
心臓が跳ねたが、ただの間違い電話だと自分に言い聞かせ、その夜は眠った。
翌日も同じ時間、また非通知から着信があった。
今度は出てみたが、無言のまま数秒で切れた。
留守電を再生すると、昨日よりもはっきりした声が入っていた。
「……後ろに……」
慌てて振り返ったが、もちろん誰もいない。
気味が悪くなり、着信拒否の設定を試みたが、非通知には効果がなかった。
三日目。
仕事中にもかかわらず、また非通知の着信があった。
さすがに不気味で同僚に相談すると、「気にしすぎだろ」と笑われた。
だがその夜、帰宅して留守電を再生した瞬間、背筋が凍った。
「……入れて……寒い……」
その声のすぐ後に、カチリとドアノブが回る音が録音されていた。
録音時間は私がまだ会社にいた時間帯だ。鍵は掛かっていたはずだが、確かめると、玄関の鍵が半分だけ回った状態になっていた。
警察に相談すると、「いたずらの可能性が高いが念のため巡回を強化します」とだけ言われた。
少しは安心したが、不安は拭えない。
そして四日目の夜、また着信があった。
怖くて出られず、留守電を再生すると、声はもうすぐ耳元にあるような近さで囁いた。
「……中、あたたかいね……」
ゾッとした。
私の留守電はスマホではなく、自宅の固定電話にも同時に保存されるタイプだ。
つまり、この声は部屋の中の電話機に直接吹き込まれている。
慌てて警察に再通報し、事情を説明した。
警官が来るまでの間、部屋中の戸締まりを確認し、息を潜めて待った。
幸い、何事もなく夜が明けた。
ただ、固定電話の留守電には新しいメッセージが残っていた。
再生すると、ガサガサと服が擦れる音、そして私の寝息が録音されていた。
「……やっと隣に……」
布団のすぐ横から聞こえるような、生々しい囁き。
私はその夜、眠っている間に誰かが部屋にいたのだ。
恐怖のあまり荷物をまとめ、翌日には友人の家へ避難した。
だが数日後、友人の家でも非通知の着信があった。
「なんで番号がわかるんだ…」と呟きながら留守電を再生すると、あの女の声が響いた。
「……見つけた……もう離れない……」
私は友人の家を飛び出し、ホテルに泊まることにした。
フロントでチェックインを済ませ、部屋に入った瞬間、固定電話が鳴った。
ホテルの部屋番号は誰にも教えていない。
震える手で受話器を取ると、受話口から、あの囁きが聞こえた。
「今夜こそ、入れてね」
私は受話器を落とした。
その音がまだ耳に残る中、視線の先、ベッドの上に置かれた私のスマホが震えた。
画面には新しい留守電通知が表示されている。
録音時間は、ついさっきフロントで手続きをしていた数分間。
再生すると――部屋の扉がゆっくり開く音と、スリッパが床を擦る音。
それに続く、私の名前を呼ぶ声。
録音の最後、女が小さく笑って言った。
「……鍵、もう開けてあるから」
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