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漆の怪【ひとはしらのかみさま】
おしら様
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なんだか、騒がしい。
外が、騒がしい。うるさい。
……いや、悲鳴か?
「悲鳴!?」
布団から飛び出して急いで準備し、駆け出す。
尚も資料館の外からは悲鳴と怒号が響き渡っていた。
紅子さんやアリシア、ましてや透さんの声ではない。それに一旦は安心して、しかし朝から悲鳴が上がる状況は異常だとリンを伴いながら思考する。
外に出てみれば、果たして〝現場〟が広がっていた。
絶叫。
絶叫。
絶叫。
そして、村人達の悲鳴。
なすすべもなく、その状況を見守るしかない者達は視線を逸らすことすらもできず立ち尽くす。
助けようなんて行動は無意味に終わると脳に直接叩き込むような、そんな光景。
「べ、紅子さん……この状況はいったい」
「お兄さん、起きたんだね」
「よかった! しも……令一さんは無事ですね!」
「起こしに行かなくてごめんね。悲鳴が聴こえて焦っちゃって」
紅子さん、アリシア、透さんに近づいて状況を確認すればそんな言葉が返ってくる。
「あれは……?」
「運転手さんだよ」
「え……」
紅子さんの言葉に声を漏らす。
「アリシアちゃん、見ちゃだめだよ」
「は、はい……すみません透さん」
透さんが背後からアリシアの目と耳を塞ぐ。
そうだな、俺だって気分が悪いんだ。子供が見ていいものではない。
そこでは――運転手の青雉さんの首が捻れていく光景がただただ展開されていた。
無理矢理なにか力の強いものに首を捻じ曲げられているように、体を動かせずに彼は〝曲がって〟いく。
首が後ろに向かって捻れ曲がっていく。
180°の回転をしてもなお、首は捻れていき、白い泡を吹いた彼は事切れる。
そして、頭が一回転、二回転、三回転とオーバーキル気味にしたあと、その体が崩れ落ちていく。
まるでなにかの力から解放されたように。
「……」
「お兄さん、あれはどうしようもないよ」
「ああ」
そうだ、俺がなんとかしようとしても、きっと青雉さんの回転を止めることはできなかった。分かっている。けれど、だからこそ無力感に苛まれた。
「祟りじゃ!」
「おしら様の祟りだー! 彼はおしら様の怒りに触れたんだ!」
村人達が水を打ったように静まり返ったと思ったら、次々と声が上がっていく。
「おしら様?」
「うーん、知らない名前だな。あとで調べておくよ」
「アタシもその名前は知らないねぇ」
「神様でしょうか」
俺が呟いてから透さんが提案する。
あんな光景を見てすぐにその発想が出てくるあたりがすごいな。
俺なら混乱してなにも言えなくなるからな。辛うじてみんながいるから、今は冷静でいられるのだが。
「あんた達、悪いお知らせがあるわ」
そのとき、村の入り口の方から華野ちゃんが歩いてきた。
彼女も冷静な表情で、青雉さんの遺体を横目に俺達のほうへとまっすぐとやってくる。
「どうしたんだ?」
代表して俺が問うと、華野ちゃんは困ったような顔で言った。
「昨日の大雨で、入り口の洞窟が土砂で埋まってるわ。残念だけれど、閉じ込められちゃったみたい」
その言葉に頭が真っ白になる。
外に出られない……? いや、俺達は怪異事件が起きると踏んでここに来ていたのだから、構わないはずなんだが。
「……あの幽霊の子に、〝また会える〟ね」
ハッとする。
――またね。
透さんによれば、白い幽霊はそう言ったのだという。
つまり、最初からこの状況になるのが分かっていた?
おしら様とやらの祟り、白い幽霊の言葉、この状況。
どうやらこの村……一筋縄ではいかなそうだ。
『一柱の神様』――開幕。
外が、騒がしい。うるさい。
……いや、悲鳴か?
「悲鳴!?」
布団から飛び出して急いで準備し、駆け出す。
尚も資料館の外からは悲鳴と怒号が響き渡っていた。
紅子さんやアリシア、ましてや透さんの声ではない。それに一旦は安心して、しかし朝から悲鳴が上がる状況は異常だとリンを伴いながら思考する。
外に出てみれば、果たして〝現場〟が広がっていた。
絶叫。
絶叫。
絶叫。
そして、村人達の悲鳴。
なすすべもなく、その状況を見守るしかない者達は視線を逸らすことすらもできず立ち尽くす。
助けようなんて行動は無意味に終わると脳に直接叩き込むような、そんな光景。
「べ、紅子さん……この状況はいったい」
「お兄さん、起きたんだね」
「よかった! しも……令一さんは無事ですね!」
「起こしに行かなくてごめんね。悲鳴が聴こえて焦っちゃって」
紅子さん、アリシア、透さんに近づいて状況を確認すればそんな言葉が返ってくる。
「あれは……?」
「運転手さんだよ」
「え……」
紅子さんの言葉に声を漏らす。
「アリシアちゃん、見ちゃだめだよ」
「は、はい……すみません透さん」
透さんが背後からアリシアの目と耳を塞ぐ。
そうだな、俺だって気分が悪いんだ。子供が見ていいものではない。
そこでは――運転手の青雉さんの首が捻れていく光景がただただ展開されていた。
無理矢理なにか力の強いものに首を捻じ曲げられているように、体を動かせずに彼は〝曲がって〟いく。
首が後ろに向かって捻れ曲がっていく。
180°の回転をしてもなお、首は捻れていき、白い泡を吹いた彼は事切れる。
そして、頭が一回転、二回転、三回転とオーバーキル気味にしたあと、その体が崩れ落ちていく。
まるでなにかの力から解放されたように。
「……」
「お兄さん、あれはどうしようもないよ」
「ああ」
そうだ、俺がなんとかしようとしても、きっと青雉さんの回転を止めることはできなかった。分かっている。けれど、だからこそ無力感に苛まれた。
「祟りじゃ!」
「おしら様の祟りだー! 彼はおしら様の怒りに触れたんだ!」
村人達が水を打ったように静まり返ったと思ったら、次々と声が上がっていく。
「おしら様?」
「うーん、知らない名前だな。あとで調べておくよ」
「アタシもその名前は知らないねぇ」
「神様でしょうか」
俺が呟いてから透さんが提案する。
あんな光景を見てすぐにその発想が出てくるあたりがすごいな。
俺なら混乱してなにも言えなくなるからな。辛うじてみんながいるから、今は冷静でいられるのだが。
「あんた達、悪いお知らせがあるわ」
そのとき、村の入り口の方から華野ちゃんが歩いてきた。
彼女も冷静な表情で、青雉さんの遺体を横目に俺達のほうへとまっすぐとやってくる。
「どうしたんだ?」
代表して俺が問うと、華野ちゃんは困ったような顔で言った。
「昨日の大雨で、入り口の洞窟が土砂で埋まってるわ。残念だけれど、閉じ込められちゃったみたい」
その言葉に頭が真っ白になる。
外に出られない……? いや、俺達は怪異事件が起きると踏んでここに来ていたのだから、構わないはずなんだが。
「……あの幽霊の子に、〝また会える〟ね」
ハッとする。
――またね。
透さんによれば、白い幽霊はそう言ったのだという。
つまり、最初からこの状況になるのが分かっていた?
おしら様とやらの祟り、白い幽霊の言葉、この状況。
どうやらこの村……一筋縄ではいかなそうだ。
『一柱の神様』――開幕。
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