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追放させる詐欺が流行ってるんだってよ!
電糸ネットワークというものがございまして
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ガラコン、ガラコンと馬車が妙な音を立ててゆっくりと動いていく。
いや、本当、なにこれ? この音? 大丈夫かなこの馬車……。
あれから、すぐに馬を見つけたオレは約束より早い八分で戻り、無事馬車に乗りながらのんべんだらりと元来た街に戻っている最中なのだった。
「みんな、降りちゃったね」
「そうだなあ……」
途中、馬車を一時的に停めて補給する乗り合い所があるんだけど、オレ達兄妹以外は全員そこで降りて別の馬車に乗り込んでしまった。一度襲われたからか、どうやら不安視されたらしいね。
オレも正直、二人で歩いて行ったほうがよほど安全だからそうしたかったんだけど……いかんせんユラがそのまま馬車で行くって言うものだからね。
おっさんも結構弱った顔をしていたし、ちょっと可哀想といえば可哀想だったから、まあ仕方ない。おっさんだって心細いだろうし、ちょっとしたサービスくらいはしてやらんでもない。
――揺り籠に心安らかな安寧を。
小さく呟き、こっそりと馬車を中心に結界を張っておく。
赤ん坊の揺り籠に張れるほど繊細で薄い結界なので気づかれることはない。気づかれることがあるとしたら、多分そのときは馬車がまた襲われたときだろう。
この結界があれば、街道沿いに出る魔物なんかは弾き飛ばせるくらいの威力はある。難易度の低い、ありふれた魔法だけどないよりはマシだと思う。
「それで、お兄ちゃん。さっきの冒険者端末って、前に私にくれたやつだよね? あれってそんなに高価なものだったの?」
「ん? あー、誕生日に渡したやつな。あれはな、ここ十数年で開発された魔法技術の詰まった端末だから……一般人にはちょっと高いと思う」
「ふうん……一般人にはってことは、冒険者ならそんなことはないの?」
さすがユラ。そこに気がつくとは!
ニコニコとユラの頭を撫でながら「そこに気づくとは、すごいぞユラ!」と褒めながら説明を続ける。
さっきのおっさんには説明しずらかったが、ユラなら少しくらい難しい話をしても理解できる。天才だからね!
「これはな、元々冒険者のために開発した技術なんだ。エレクトロ・スパイダーっていう魔物の習性を利用して……」
エレクトロ・スパイダー。魔物の名前である。世界中、いたるところに生息している、ごくごくありふれた魔物の一匹である。そこまで強くもなく、微弱な電気を帯びているくらいしか危険性はない。
しかしこいつらは見かけるのも激レアな魔物だ。
なぜなら、はじめてこいつらを発見して退治してしまうとそれ以降絶対に見つからなくなるからである。
そして、あるときこの謎に目を向けた者がいた。
そいつはまだエレクトロ・スパイダーを殺したことがなかったため、一匹、二匹と捕まえて飼ってみることにしたんだとさ。
それで、電気を食べるこの蜘蛛は電気に愛されたそいつにとって世話が非常に楽であり、そして友達といえるようになるほど仲良くなれた唯一の存在だったそうな。
研究しているうちにそいつは気づいた。エレクトロ・スパイダーは他の蜘蛛と違って、少し特殊な生態だったことに。
なんと、この蜘蛛達は地面に糸を埋め込んでその糸を伝って電気信号を送り、近くにいる同種と連絡を取り合っていたんだ。
だから一度襲われれば、もう二度と襲われないようにと、仲間内で映像付きの指名手配書を回して逃げ回るようになっていたらしい。
殺したことのある人に見つけられない理由がこれだ。
一度殺せばエレクトロ・スパイダーは全員そいつの顔を知る。だから積極的に逃げるようになり、結果的に激レア魔物になってしまったということだ。
蜘蛛二匹を飼っていたそいつはそのあとずっと、この電気信号を解明しようと研究した。幼いみそらで研究室にまで潜り込んでずーっと、ずーっとな。
「それでようやく発明できたのが、この冒険者端末ってことなんだよ」
「え、でも蜘蛛さん達と同じ糸を使ってるんだよね? 伝えたいことが混線……とかしないの?」
「大丈夫、ちゃんとこっちはこっちで別の電気信号を発信できるように開発したから、乗せてる糸が同じでも蜘蛛には聞き取れないんだ。人間の端末だけ識別できる信号を使っているよ。ユラは優しいねえ」
初めて聞いたのに発明の発表当時、提唱されていた問題点まで言い当てちゃうなんて、本当にすごいや。
「でも、お兄ちゃん。随分と詳しいのね? 『これはな、元々冒険者のために開発した技術なんだ』とか、『大丈夫、ちゃんとこっちはこっちで別の電気信号を発信できるように開発したから』とか、まるで自分が開発したみたいに喋るもの!」
うっっっっっ。
心臓を抑えた。
「そ、そうかなあ……? あっはははは……ゆ、有名な話だからなあ、これ。だけど、開発者の名前は公的に発表されてなくて、秘匿されてるんだよ。だから革命的な発見をしたのに、開発者に関しては謎だらけなんだってさあ」
「どうしたの? お兄ちゃん。あ、そういえばお兄ちゃんがアルフィンさんと一緒にギルドの研究室? に誘われてついて行ったのも十数年前よね。ということは、きっとその頃に開発されたのね、すごいわ!」
グボッフォァァァァァ!?
なにこの子……わざと? わざとなの? 賢くてなによりだけど、それはそれとしてお兄ちゃん死にそう。
そうですよ。これの開発者はオレだよ!!!!
当時七歳児でした!! んでもってユラはそのとき五歳ね!! 雷属性の天才とかなんとかもてはやされていて、調子乗っては幼馴染のアルフィンさんにしばき倒されてました!!!!
アルフィンはギルマスの娘でさ。オレは村で独自に研究していたところを当時のギルマス……アルフィンの親父さんに見られて、研究室まで連れて行かれたんだよ。
彼女とはそのときからの腐れ縁。もちろん、ギルマスってのは実力でなるもんだからアルフィンはちゃんと実力もある。親の七光りとかではないってオレもちゃんと知ってる。
だからってオレを都合よく高難易度の依頼にぶち込むのはやめてほしいけどね!?
オレの功績だって発表されていないのは、当時のオレがあんまりにも幼すぎたからだ。だって七歳児だよ? 世紀の大発明が七歳児の手によって行われたとか知られたら誘拐待ったなしでしょ。
あれから今でもオレの研究成果だってことは明かされていない。
だからギルマス代理にも「研究室にまでお前の席が残ってるわけない」とかなんとか皮肉られるわけですよ。
残念、あのときの研究室メンバーだけはオレが戻るのを今か今かと待ってますー! 今じゃ全員研究室のベテランだし、王室研究者にまでなった人もいるらしい。
やだ、オレの同期すごすぎ……?
とまあ、輝かしい功績ではあるんだけど、こればっかりは妹にも内緒だ。研究開始から十三年。オレは二十歳だし、ユラは十八歳である。
「今も昔も、あの研究室の連中はすごい人ばっかりだよ」
「そっか、じゃあお兄ちゃんもすごい人だね!」
ああ、無邪気な笑顔に浄化される……。
「いつも連絡くれてありがとう! お兄ちゃんが端末をくれたおかげで、遠く離れていてもお話しできたから嬉しかったなあ」
「そっかそっか、それはよかった。頑張った甲斐があったなあ」
本来、この端末は冒険者にのみ、ほぼ無料で配られている。これが開発されたおかげで遭難する人や、怪我をした人が死ぬ数が圧倒的に減るからだ。
一般人にも高価ではあるが一定数売られている。その理由はやはりこれがあると連絡が取れやすくなるので死者数が激減するからである。
現在秋の月。今年も残すところあと少しだが……本年度、アルフィンのギルドでは死者数ゼロを記録している。
あと少しで、全世界で初の『依頼中の死者ゼロを一年保持したギルド』になるかもしれないわけだな。もしそうなったらめでたいことだ。
……でも、そんなものすごい端末を、オレはタダ同然で妹にひとつプレゼントしている。なぜならそれは。
「オレも、ユラと話ができないとやる気出ないからなあ」
「もう、お兄ちゃんったら! おだててもなにも出ないよ~」
オレが!! ユラと話せないのが!! 辛かったから!! 発明したんです!! 研究中はアルフィン以外男しかいねーし!!
「ほら、もうすぐ街だよ」
「わあ! もうすぐ私も冒険者登録ができるのね!」
可愛い可愛い妹を眺めながら微笑む。
地下に張り巡らされたエレクトロ・スパイダーの糸。
ギルド共通の通称で『地下電糸網』は、劇的にその効果を現して数多の冒険者の命を救い、そして今じゃ『電糸掲示板』なるものができて冒険者同士の娯楽にもなりつつある。
言えない。
そんな立派な発明がされた理由が、妹と話したいがために連絡手段を作りたかっただけだなんて……。
確かにね? 最初は純粋な好奇心だったんですよ。でもその好奇心のせいで、妹と遠く離れた研究室に連れてこられちゃったからさあ……死ぬ気で研究したよね。うん。
だからオレは永遠に開発者と開発動機を発表できない。
そんなことしたら絶対に批判を受ける。
批判、怖い。オレはコミュ障ビビリなんだ。
そんな心労受けてたまるもんかよ!
いや、本当、なにこれ? この音? 大丈夫かなこの馬車……。
あれから、すぐに馬を見つけたオレは約束より早い八分で戻り、無事馬車に乗りながらのんべんだらりと元来た街に戻っている最中なのだった。
「みんな、降りちゃったね」
「そうだなあ……」
途中、馬車を一時的に停めて補給する乗り合い所があるんだけど、オレ達兄妹以外は全員そこで降りて別の馬車に乗り込んでしまった。一度襲われたからか、どうやら不安視されたらしいね。
オレも正直、二人で歩いて行ったほうがよほど安全だからそうしたかったんだけど……いかんせんユラがそのまま馬車で行くって言うものだからね。
おっさんも結構弱った顔をしていたし、ちょっと可哀想といえば可哀想だったから、まあ仕方ない。おっさんだって心細いだろうし、ちょっとしたサービスくらいはしてやらんでもない。
――揺り籠に心安らかな安寧を。
小さく呟き、こっそりと馬車を中心に結界を張っておく。
赤ん坊の揺り籠に張れるほど繊細で薄い結界なので気づかれることはない。気づかれることがあるとしたら、多分そのときは馬車がまた襲われたときだろう。
この結界があれば、街道沿いに出る魔物なんかは弾き飛ばせるくらいの威力はある。難易度の低い、ありふれた魔法だけどないよりはマシだと思う。
「それで、お兄ちゃん。さっきの冒険者端末って、前に私にくれたやつだよね? あれってそんなに高価なものだったの?」
「ん? あー、誕生日に渡したやつな。あれはな、ここ十数年で開発された魔法技術の詰まった端末だから……一般人にはちょっと高いと思う」
「ふうん……一般人にはってことは、冒険者ならそんなことはないの?」
さすがユラ。そこに気がつくとは!
ニコニコとユラの頭を撫でながら「そこに気づくとは、すごいぞユラ!」と褒めながら説明を続ける。
さっきのおっさんには説明しずらかったが、ユラなら少しくらい難しい話をしても理解できる。天才だからね!
「これはな、元々冒険者のために開発した技術なんだ。エレクトロ・スパイダーっていう魔物の習性を利用して……」
エレクトロ・スパイダー。魔物の名前である。世界中、いたるところに生息している、ごくごくありふれた魔物の一匹である。そこまで強くもなく、微弱な電気を帯びているくらいしか危険性はない。
しかしこいつらは見かけるのも激レアな魔物だ。
なぜなら、はじめてこいつらを発見して退治してしまうとそれ以降絶対に見つからなくなるからである。
そして、あるときこの謎に目を向けた者がいた。
そいつはまだエレクトロ・スパイダーを殺したことがなかったため、一匹、二匹と捕まえて飼ってみることにしたんだとさ。
それで、電気を食べるこの蜘蛛は電気に愛されたそいつにとって世話が非常に楽であり、そして友達といえるようになるほど仲良くなれた唯一の存在だったそうな。
研究しているうちにそいつは気づいた。エレクトロ・スパイダーは他の蜘蛛と違って、少し特殊な生態だったことに。
なんと、この蜘蛛達は地面に糸を埋め込んでその糸を伝って電気信号を送り、近くにいる同種と連絡を取り合っていたんだ。
だから一度襲われれば、もう二度と襲われないようにと、仲間内で映像付きの指名手配書を回して逃げ回るようになっていたらしい。
殺したことのある人に見つけられない理由がこれだ。
一度殺せばエレクトロ・スパイダーは全員そいつの顔を知る。だから積極的に逃げるようになり、結果的に激レア魔物になってしまったということだ。
蜘蛛二匹を飼っていたそいつはそのあとずっと、この電気信号を解明しようと研究した。幼いみそらで研究室にまで潜り込んでずーっと、ずーっとな。
「それでようやく発明できたのが、この冒険者端末ってことなんだよ」
「え、でも蜘蛛さん達と同じ糸を使ってるんだよね? 伝えたいことが混線……とかしないの?」
「大丈夫、ちゃんとこっちはこっちで別の電気信号を発信できるように開発したから、乗せてる糸が同じでも蜘蛛には聞き取れないんだ。人間の端末だけ識別できる信号を使っているよ。ユラは優しいねえ」
初めて聞いたのに発明の発表当時、提唱されていた問題点まで言い当てちゃうなんて、本当にすごいや。
「でも、お兄ちゃん。随分と詳しいのね? 『これはな、元々冒険者のために開発した技術なんだ』とか、『大丈夫、ちゃんとこっちはこっちで別の電気信号を発信できるように開発したから』とか、まるで自分が開発したみたいに喋るもの!」
うっっっっっ。
心臓を抑えた。
「そ、そうかなあ……? あっはははは……ゆ、有名な話だからなあ、これ。だけど、開発者の名前は公的に発表されてなくて、秘匿されてるんだよ。だから革命的な発見をしたのに、開発者に関しては謎だらけなんだってさあ」
「どうしたの? お兄ちゃん。あ、そういえばお兄ちゃんがアルフィンさんと一緒にギルドの研究室? に誘われてついて行ったのも十数年前よね。ということは、きっとその頃に開発されたのね、すごいわ!」
グボッフォァァァァァ!?
なにこの子……わざと? わざとなの? 賢くてなによりだけど、それはそれとしてお兄ちゃん死にそう。
そうですよ。これの開発者はオレだよ!!!!
当時七歳児でした!! んでもってユラはそのとき五歳ね!! 雷属性の天才とかなんとかもてはやされていて、調子乗っては幼馴染のアルフィンさんにしばき倒されてました!!!!
アルフィンはギルマスの娘でさ。オレは村で独自に研究していたところを当時のギルマス……アルフィンの親父さんに見られて、研究室まで連れて行かれたんだよ。
彼女とはそのときからの腐れ縁。もちろん、ギルマスってのは実力でなるもんだからアルフィンはちゃんと実力もある。親の七光りとかではないってオレもちゃんと知ってる。
だからってオレを都合よく高難易度の依頼にぶち込むのはやめてほしいけどね!?
オレの功績だって発表されていないのは、当時のオレがあんまりにも幼すぎたからだ。だって七歳児だよ? 世紀の大発明が七歳児の手によって行われたとか知られたら誘拐待ったなしでしょ。
あれから今でもオレの研究成果だってことは明かされていない。
だからギルマス代理にも「研究室にまでお前の席が残ってるわけない」とかなんとか皮肉られるわけですよ。
残念、あのときの研究室メンバーだけはオレが戻るのを今か今かと待ってますー! 今じゃ全員研究室のベテランだし、王室研究者にまでなった人もいるらしい。
やだ、オレの同期すごすぎ……?
とまあ、輝かしい功績ではあるんだけど、こればっかりは妹にも内緒だ。研究開始から十三年。オレは二十歳だし、ユラは十八歳である。
「今も昔も、あの研究室の連中はすごい人ばっかりだよ」
「そっか、じゃあお兄ちゃんもすごい人だね!」
ああ、無邪気な笑顔に浄化される……。
「いつも連絡くれてありがとう! お兄ちゃんが端末をくれたおかげで、遠く離れていてもお話しできたから嬉しかったなあ」
「そっかそっか、それはよかった。頑張った甲斐があったなあ」
本来、この端末は冒険者にのみ、ほぼ無料で配られている。これが開発されたおかげで遭難する人や、怪我をした人が死ぬ数が圧倒的に減るからだ。
一般人にも高価ではあるが一定数売られている。その理由はやはりこれがあると連絡が取れやすくなるので死者数が激減するからである。
現在秋の月。今年も残すところあと少しだが……本年度、アルフィンのギルドでは死者数ゼロを記録している。
あと少しで、全世界で初の『依頼中の死者ゼロを一年保持したギルド』になるかもしれないわけだな。もしそうなったらめでたいことだ。
……でも、そんなものすごい端末を、オレはタダ同然で妹にひとつプレゼントしている。なぜならそれは。
「オレも、ユラと話ができないとやる気出ないからなあ」
「もう、お兄ちゃんったら! おだててもなにも出ないよ~」
オレが!! ユラと話せないのが!! 辛かったから!! 発明したんです!! 研究中はアルフィン以外男しかいねーし!!
「ほら、もうすぐ街だよ」
「わあ! もうすぐ私も冒険者登録ができるのね!」
可愛い可愛い妹を眺めながら微笑む。
地下に張り巡らされたエレクトロ・スパイダーの糸。
ギルド共通の通称で『地下電糸網』は、劇的にその効果を現して数多の冒険者の命を救い、そして今じゃ『電糸掲示板』なるものができて冒険者同士の娯楽にもなりつつある。
言えない。
そんな立派な発明がされた理由が、妹と話したいがために連絡手段を作りたかっただけだなんて……。
確かにね? 最初は純粋な好奇心だったんですよ。でもその好奇心のせいで、妹と遠く離れた研究室に連れてこられちゃったからさあ……死ぬ気で研究したよね。うん。
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