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それぞれの出逢い
舞い込んできた依頼 前編
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今から5年前、アデルと初めて出会った日の物語———
王国歴575年6月12日
ここ数ヶ月、冒険者ギルドの掲示板は討伐依頼で埋め尽くされていた。
最初は「稼ぎ時だ」と喜ぶ冒険者も多かった。
だが、魔物の数は増える一方で討伐は次第に困難になっていった。
その日は冷たい雨が降っていて、湿った床板に靴音が響く。
ギルドマスターに呼び出された私はギルドの奥の部屋へと足を踏み入れた。
部屋の奥に立っていたのは、場違いなほど気品をまとった青年だった。
…誰だ、この婦女子が黙っていられないほどの美形は?
庶民じゃないことくらい、一目で分かった。
結局、私はその美形——アデルとかいう依頼者と一緒にしばらく行動することになった。
理由は「私の実力を確かめるため」らしい。
外ではまだ雨音が石畳を叩いていたけど、私としてはこの展開に面倒くさくてため息がこぼれた。
———…
後日、改めてギルド前でアデルと落ち合うと無遠慮なほどじっと見つめられた。正直、落ち着かない。
「やっぱ小さいな、お前...本当に戦えるのか?」
長いまつげに縁取られた紅い瞳でこちらを見透かすかの様な視線を向けてくる。
失礼な奴、でも顔には出さなかった。私ってば偉い。
「正直、信用はしてねぇぞ。だからこそ、俺がきちんとこの目で見てその実力を確かめないとな。」
口角を上げると背の高い彼は屈んで私の顔を覗き込む。
「おっと、怖がらせるつもりはないんだ。悪いな、実は俺も余裕ないんだわ。」
一瞬だが微かに眉間に皺を寄せるその表情が、状況の深刻さを物語っていた。
「しばらくは俺と一緒に行動してもらうぞ。そうだなぁ..期間は。」
すぐに気を取り直した様子で背を伸ばすと顎に指を添えて考え込む様子で私にとんでもない一言を放った。
「俺が満足するまで、どうだ?」
面白そうだろ?——
風に揺れる髪をなびかせながらも楽しそうに目を細めて提案してきたこの男に私はただ、うなずく事しか出来なかった。
ギルドマスターのジジイが珍しくペコペコしていたから恐らく…ただの貴族じゃないんだろうな。
「よし、物分りがいいな。ほら、ついてこいよ。」
背を向けて歩き出す彼の後について行く。
「まずは根本的な原因を探らないと意味がねぇからな。ただ闇雲に倒してもキリがねえ。」
増える一方の魔物。
その原因を探れると思うと、正直胸が高鳴った。
そろそろ魔物討伐にも飽きて来た頃だったからアデルさんとの出会いは、面白い事が起きそうな予感で久しぶりにワクワクしてきた。
ときめき気分の私に気付いたのか、彼は振り返った。
「そうか、この状況を楽しめるのか。くっ!はは!」
立ち止まると喉を鳴らして笑いだした。
「結構肝が据わってんな!実はな…」
そっと近付き耳元で囁く。
「絶賛、魔物の繁殖期らしくて数が増えてるみたいだぜ?それに乗っかって一部の過激派魔族が小さな村や町を襲ってるんだよ。」
言い終えると、彼はまた愉快そうに目を細めてこちらを覗きこむ、心無しか赤い瞳の奥で私を値踏みするかのような鋭さを感じさせた。
「魔族が…?ギルドマスターからは聞いてないです。」
——あのジジイがこの話を知らないはずがない、村や町の被害報告はギルドにも入ってくるはずだし。
それに…まさか緘口令でも敷かれてる?なぜ?ダメだ情報が少なすぎる。
もし、この話が本当なのだとしたらアデルさんは…ただの貴族じゃない?
余計なことばかりが頭をよぎる。
うん、考えるのやめよ。一般市民の私には関係ないもん、分からないものは分からない!
「だろうな。なんせ機密情報だから、な?」
口元に人差し指を立てる。
「ギルド一の実力者なんだろ?」
彼の人差し指が私の額にちょん、と触れると木々のさざめきが耳に入る。
コイツ!『知らなかった』で逃げられないように、わざわざ“機密情報”なんて言葉で脅してきたな!
「ほら、その実力を俺にも見せてくれよ。」
ニヤリと口角を上げると歩き出し、そのまま城門を通り抜ける。
待って?何で城の中に??しかも門番に止められずに顔パスして入っていったよあの人?一体何者なの…?
「ほら来いよ、俺と一緒にいれば大丈夫だから。」
彼は振り返ると、手招きしてきた。
その仕草はまるで——
「私は猫じゃないんだけど…」
思わず本音が出てしまった。
彼は瞬きをしたが直ぐに楽しげに私の事を——
そう、今思えばまさかコレが私のアダ名になるなんてこの時は思わなかった。
「それいいな、子猫ちゃん。」
思わず二度見するが抗議する暇もなく、私の手をとると優雅な微笑みを浮かべたまま、彼は私を城内へと導いた。
道なりに進むと広々とした石造りの訓練所に出た。
そこでは騎士たちが木剣を振り、汗を散らしながら声を張り上げている。
土埃が立ち込めて煙たい。
「おい、この子猫ちゃんの相手を何人か頼む。」
騎士の訓練を見ていた騎士団長であろう人物へ声を掛けると数人の兵士が前に出てきた。
その瞬間、ようやく事態を理解した。
「まさか…模擬戦ってこと!?」
驚く私に、アデルは口角を上げ愉悦の滲む表情を包み隠さずにさらけ出した。
「言ったろ?俺が満足するまで付き合ってもらうってな。さあ、楽しませてくれよ。ギルドマスター直々のお墨付きなんだろ?」
王国歴575年6月12日
ここ数ヶ月、冒険者ギルドの掲示板は討伐依頼で埋め尽くされていた。
最初は「稼ぎ時だ」と喜ぶ冒険者も多かった。
だが、魔物の数は増える一方で討伐は次第に困難になっていった。
その日は冷たい雨が降っていて、湿った床板に靴音が響く。
ギルドマスターに呼び出された私はギルドの奥の部屋へと足を踏み入れた。
部屋の奥に立っていたのは、場違いなほど気品をまとった青年だった。
…誰だ、この婦女子が黙っていられないほどの美形は?
庶民じゃないことくらい、一目で分かった。
結局、私はその美形——アデルとかいう依頼者と一緒にしばらく行動することになった。
理由は「私の実力を確かめるため」らしい。
外ではまだ雨音が石畳を叩いていたけど、私としてはこの展開に面倒くさくてため息がこぼれた。
———…
後日、改めてギルド前でアデルと落ち合うと無遠慮なほどじっと見つめられた。正直、落ち着かない。
「やっぱ小さいな、お前...本当に戦えるのか?」
長いまつげに縁取られた紅い瞳でこちらを見透かすかの様な視線を向けてくる。
失礼な奴、でも顔には出さなかった。私ってば偉い。
「正直、信用はしてねぇぞ。だからこそ、俺がきちんとこの目で見てその実力を確かめないとな。」
口角を上げると背の高い彼は屈んで私の顔を覗き込む。
「おっと、怖がらせるつもりはないんだ。悪いな、実は俺も余裕ないんだわ。」
一瞬だが微かに眉間に皺を寄せるその表情が、状況の深刻さを物語っていた。
「しばらくは俺と一緒に行動してもらうぞ。そうだなぁ..期間は。」
すぐに気を取り直した様子で背を伸ばすと顎に指を添えて考え込む様子で私にとんでもない一言を放った。
「俺が満足するまで、どうだ?」
面白そうだろ?——
風に揺れる髪をなびかせながらも楽しそうに目を細めて提案してきたこの男に私はただ、うなずく事しか出来なかった。
ギルドマスターのジジイが珍しくペコペコしていたから恐らく…ただの貴族じゃないんだろうな。
「よし、物分りがいいな。ほら、ついてこいよ。」
背を向けて歩き出す彼の後について行く。
「まずは根本的な原因を探らないと意味がねぇからな。ただ闇雲に倒してもキリがねえ。」
増える一方の魔物。
その原因を探れると思うと、正直胸が高鳴った。
そろそろ魔物討伐にも飽きて来た頃だったからアデルさんとの出会いは、面白い事が起きそうな予感で久しぶりにワクワクしてきた。
ときめき気分の私に気付いたのか、彼は振り返った。
「そうか、この状況を楽しめるのか。くっ!はは!」
立ち止まると喉を鳴らして笑いだした。
「結構肝が据わってんな!実はな…」
そっと近付き耳元で囁く。
「絶賛、魔物の繁殖期らしくて数が増えてるみたいだぜ?それに乗っかって一部の過激派魔族が小さな村や町を襲ってるんだよ。」
言い終えると、彼はまた愉快そうに目を細めてこちらを覗きこむ、心無しか赤い瞳の奥で私を値踏みするかのような鋭さを感じさせた。
「魔族が…?ギルドマスターからは聞いてないです。」
——あのジジイがこの話を知らないはずがない、村や町の被害報告はギルドにも入ってくるはずだし。
それに…まさか緘口令でも敷かれてる?なぜ?ダメだ情報が少なすぎる。
もし、この話が本当なのだとしたらアデルさんは…ただの貴族じゃない?
余計なことばかりが頭をよぎる。
うん、考えるのやめよ。一般市民の私には関係ないもん、分からないものは分からない!
「だろうな。なんせ機密情報だから、な?」
口元に人差し指を立てる。
「ギルド一の実力者なんだろ?」
彼の人差し指が私の額にちょん、と触れると木々のさざめきが耳に入る。
コイツ!『知らなかった』で逃げられないように、わざわざ“機密情報”なんて言葉で脅してきたな!
「ほら、その実力を俺にも見せてくれよ。」
ニヤリと口角を上げると歩き出し、そのまま城門を通り抜ける。
待って?何で城の中に??しかも門番に止められずに顔パスして入っていったよあの人?一体何者なの…?
「ほら来いよ、俺と一緒にいれば大丈夫だから。」
彼は振り返ると、手招きしてきた。
その仕草はまるで——
「私は猫じゃないんだけど…」
思わず本音が出てしまった。
彼は瞬きをしたが直ぐに楽しげに私の事を——
そう、今思えばまさかコレが私のアダ名になるなんてこの時は思わなかった。
「それいいな、子猫ちゃん。」
思わず二度見するが抗議する暇もなく、私の手をとると優雅な微笑みを浮かべたまま、彼は私を城内へと導いた。
道なりに進むと広々とした石造りの訓練所に出た。
そこでは騎士たちが木剣を振り、汗を散らしながら声を張り上げている。
土埃が立ち込めて煙たい。
「おい、この子猫ちゃんの相手を何人か頼む。」
騎士の訓練を見ていた騎士団長であろう人物へ声を掛けると数人の兵士が前に出てきた。
その瞬間、ようやく事態を理解した。
「まさか…模擬戦ってこと!?」
驚く私に、アデルは口角を上げ愉悦の滲む表情を包み隠さずにさらけ出した。
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