4 / 140
第4話:異常な従属
しおりを挟む
森を抜けると、視界が開けた。
小さな村が広がり、木造の家々と畑が並んでいる。煙突からは薄い煙がのぼり、人々の生活の気配が漂っていた。
「……村だ」
リーネが小さく息をついた。
安堵に似た表情を浮かべる彼女を横目に、俺は胸の奥で不安を抑えきれずにいた。
あのスキル――『従属』。
もしまた勝手に発動するなら……。
◇
村の門をくぐった瞬間だった。
「やぁ、旅人かい? ――」
見張りの男が声をかけてきた途端、頭の奥で例の声が響いた。
『命令を確認――従属開始』
男の瞳が虚ろになり、片膝をついて俺に頭を垂れる。
「……ご命令を」
「……っ!」
思わず後ずさった。
だが、それだけでは終わらなかった。
農夫、商人、子供――目が合った村人すべてが同じように膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「……主……」
声が重なり合い、村全体に広がっていく。
気づけば、村人たちは一人残らず俺の従者になっていた。
「これが……俺のスキル……。出会った人間すべてを……」
寒気が背筋を這い上がる。
◇
その時、不意に隣から声がした。
「……あ……」
振り返ると、リーネが苦しそうに胸を押さえていた。
次の瞬間、彼女もまた膝をつき、静かに頭を垂れる。
「……私も……あなたに従います」
「リーネ……!」
慌てて手を伸ばすと、彼女は顔を上げ、微笑んだ。
「大丈夫です。嫌じゃありません。むしろ……こうしてでも、あなたのそばにいられるなら」
その言葉に胸が締めつけられる。
従わせてしまったという罪悪感と、真正面から受け入れられた安堵がせめぎ合った。
◇
しばらくして、俺はふと思い出した。
「……そういえば、クラスメイトには発動しなかった」
リーネが首を傾げる。
「え?」
「理由はわからない。……あの時、水晶で“無能”だと笑われた時も、追放される瞬間も。
でも、同じ教室にいた奴らには一度も発動してなかったんだ」
リーネは目を瞬き、少し考えるように沈黙した。
「……じゃあ、本当に例外が?」
俺は苦笑する。
「いや、一人だけ……教師の桜井先生には発動した」
リーネが驚きに目を見開く。
「……先生?」
「そう。よりによって担任にだけ発動して……いや、気持ち悪すぎて自分で解除したけどな」
情けなく笑う俺を見て、リーネは思わず吹き出した。
「ふふ……先生、かわいそうです」
◇
村人たちは今も整然と膝をつき、頭を垂れたまま動かない。
その異様な光景を前に、俺は自分の力の本質を理解する。
「……これが俺の異常なスキル。出会った人間すべてを従属させる……」
横でリーネは穏やかに微笑んだ。
「なら……私はその一人として、あなたに付いていきます。どこまでも」
その言葉は、村人たちの沈黙よりも重く、俺の心に深く響いた。
_______________________________
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第4話では、悠斗のスキルが「出会った人間すべてを従属させる」という異常な力であることが明らかになり、リーネまで従属してしまいました。
ただし、クラスメイトにはなぜか発動せず、教師の桜井先生だけ例外という伏線も描かれています。
次回は、この村での事件を通して、悠斗のスキルがさらに試される展開を描きます。
ぜひ引き続きお楽しみください!
小さな村が広がり、木造の家々と畑が並んでいる。煙突からは薄い煙がのぼり、人々の生活の気配が漂っていた。
「……村だ」
リーネが小さく息をついた。
安堵に似た表情を浮かべる彼女を横目に、俺は胸の奥で不安を抑えきれずにいた。
あのスキル――『従属』。
もしまた勝手に発動するなら……。
◇
村の門をくぐった瞬間だった。
「やぁ、旅人かい? ――」
見張りの男が声をかけてきた途端、頭の奥で例の声が響いた。
『命令を確認――従属開始』
男の瞳が虚ろになり、片膝をついて俺に頭を垂れる。
「……ご命令を」
「……っ!」
思わず後ずさった。
だが、それだけでは終わらなかった。
農夫、商人、子供――目が合った村人すべてが同じように膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「……主……」
声が重なり合い、村全体に広がっていく。
気づけば、村人たちは一人残らず俺の従者になっていた。
「これが……俺のスキル……。出会った人間すべてを……」
寒気が背筋を這い上がる。
◇
その時、不意に隣から声がした。
「……あ……」
振り返ると、リーネが苦しそうに胸を押さえていた。
次の瞬間、彼女もまた膝をつき、静かに頭を垂れる。
「……私も……あなたに従います」
「リーネ……!」
慌てて手を伸ばすと、彼女は顔を上げ、微笑んだ。
「大丈夫です。嫌じゃありません。むしろ……こうしてでも、あなたのそばにいられるなら」
その言葉に胸が締めつけられる。
従わせてしまったという罪悪感と、真正面から受け入れられた安堵がせめぎ合った。
◇
しばらくして、俺はふと思い出した。
「……そういえば、クラスメイトには発動しなかった」
リーネが首を傾げる。
「え?」
「理由はわからない。……あの時、水晶で“無能”だと笑われた時も、追放される瞬間も。
でも、同じ教室にいた奴らには一度も発動してなかったんだ」
リーネは目を瞬き、少し考えるように沈黙した。
「……じゃあ、本当に例外が?」
俺は苦笑する。
「いや、一人だけ……教師の桜井先生には発動した」
リーネが驚きに目を見開く。
「……先生?」
「そう。よりによって担任にだけ発動して……いや、気持ち悪すぎて自分で解除したけどな」
情けなく笑う俺を見て、リーネは思わず吹き出した。
「ふふ……先生、かわいそうです」
◇
村人たちは今も整然と膝をつき、頭を垂れたまま動かない。
その異様な光景を前に、俺は自分の力の本質を理解する。
「……これが俺の異常なスキル。出会った人間すべてを従属させる……」
横でリーネは穏やかに微笑んだ。
「なら……私はその一人として、あなたに付いていきます。どこまでも」
その言葉は、村人たちの沈黙よりも重く、俺の心に深く響いた。
_______________________________
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第4話では、悠斗のスキルが「出会った人間すべてを従属させる」という異常な力であることが明らかになり、リーネまで従属してしまいました。
ただし、クラスメイトにはなぜか発動せず、教師の桜井先生だけ例外という伏線も描かれています。
次回は、この村での事件を通して、悠斗のスキルがさらに試される展開を描きます。
ぜひ引き続きお楽しみください!
55
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~
夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。
「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。
だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに!
サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。
絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。
一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。
無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる