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10章

277話 アカメ忍者やるってよ

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「4レベル上げないとスキル1個全部上げきれないって中々よな」
 
 折角覚えた投擲スキルも未取得。
 覚えたから何でもかんでも即実戦投入出来て、使いこなしてあーだこーだ……出来りゃいいんだけど、そんな事は出来ないので、地道にレベルを上げて素直にスキルを覚えよう。

 それに一度覚えさえすればSPがあればいつでも手に入れる事が出来るんだし、手に入れたそばから全部覚えていったら浅く広くのそこまで強くない中途半端なキャラになるわな。

「……そもそも何でサブ取り始めたんだっけか」

 SP欲しいからサブに手を出したのに、まず先にサブで動けるようにならなきゃいけないって前提だったわ。ポンコツとトカゲみたいに趣味と長所を伸ばす為に選択しても良かった気がするな。

「なー、そう思わないか?」

 目の前で盾を構え、モンスターの猛攻を防いでいるちんちくりんの背中に問いかける。

「何の話ですか!?」

 相変わらず物理相手には強いなあ、こいつ。




 少々遡り。
 投擲のスキルを手に入れてから、投げまくって消費した手裏剣と苦無を補充するために忍者ギルドに行く途中で久々にちんちくりんに出会う。
 後ろに数人、ゲーム慣れしていないようなプレイヤーが数人いるのを見る限り、案内でもしていたって事か。そういえばよく初心者や新規を勧誘していると聞いたし、そっちの育成にでも力を入れたか?

「何やってるんですか、アカメさん」
「私の台詞だわ、それ」

 ちんちくりんが後ろにいたその初心者か新規らしいプレイヤーに待っていてと言ってから此方に来ると少々話し込む。
 
「何か久々に見たわねー、あんたの事」
「これでも大きいクランのマスターですから……まあ、今日は街案内とレベリングの手伝いなんですよ」
「ゾンビにビビり倒してたのが成長したもんねえ」
「それは秘密で……!」

 まあ、ちょっとした黒歴史だよな。
 あんだけびーびー言っていたのが1ヶ月も経ったらしっかりクランマスターしてるって言うんだから。
 最初は持ち上げられたお飾りマスターだったからって嘆いていたような覚えもあるんだが、状況に流されたのか適応したのか、どっちにしろ成長著しいな。

「そのレベリング、私にも付き合わせろって言ったら連れてってくれる?」
「別に良いですけど……アカメさんの強さじゃ初心者向けの所じゃ意味ないですよね」
「スキルも武器も何もないサブのLv1だから十分だって」

 銃持ってないよーとアピールするようにガンベルトや手を広げて見せる。
 やたらと胸に視線が来るけど、宇宙猫Tガン見しすぎだろ。私が知っている限りでは着ているのがいないから珍しいんだろうよ。

「うーん、いいですけど、今どんな状態なんですか?」
「ろくに刀も振れなきゃ、手裏剣や苦無を投げても3回に1回しかまともに当たらない忍者って感じ」

 何でそんな状態なんだよ、って顔をしたのだが、すぐにいつもの顔に戻る。
 多分だけどあいつの中で「アカメさんだし」って事で納得したんだろう。私に会った奴って大体そういう思考になるのは……私のせいだな。
 
 とりあえずレベリングに関してはよっぽど強い所に行かない限りは防具もステータスも揃っているから死なないはず。それにあんまりにも足を引っ張るって話ならその場でガンナーに切り替えて手伝いにすればいいし、問題ない。
 
「アカメさんが弱いって新鮮なんで、それでもいいですよ」
「ちんちくりんのくせに生意気になったわね」

 頬っぺたぐにぐに伸ばしてやろうと思ったが、人目があるしやめておいてやろう。
 そんな事を思っていたらちんちくりんからパーティー申請が飛んでくるので受理。後ろに3~4人いたが、レベリングするのはそのうち2人のようだな。
 4人パーティならそんなに足を引っ張らないだろう。

「今日は西エリアを進むんで、西門で待っててもらっていいです?」
「分かった、後で合流だな」
 
 じゃあ私も私で準備しておくか。ポーション買いそろえる位しかないけど。



 で、話は戻り。

「ガンナーってやっぱ固定ダメージが強い分弱いって言うか、ふり幅が大きいなって」 

 ちんちくりんが盾でどうにか堪えている所を横から手裏剣を投げて援護。相変わらず威力がないな。私の投げ物って。何だったら一緒に付いてきている初心者2人の方がダメージを出している。こうなると寄生って思われるから、外も中もあんまりいい風に見られないのが嫌な所だ。

「やっぱ何にもスキル無いと弱いわ」

 そんなにがっつり強い相手はいない西エリア1-3だが、よくよく考えりゃゲーム上じゃエリア最強のルートなんだよな。

「アカメさん、素直に銃使ったらどうです?」
「そりゃ使いたいけど、専用武器だからさっき投げた手裏剣よりもどこ飛んでいくかわからんないわよ」
「えー……銃使わないとアカメさん爆破くらいしかないじゃないですか」
「だから銃以外の手段を覚えようとしてるのよ」

 相変わらずのフルプレートにタワーシールドのちんちくりんが一息入れようと指示を出して、休憩しているなかで、話し込む。
 
「寄生だーって思われてんのは察してるしな」
「ですよね……うちの初期面子ならアカメさんに協力してくれると思うんですけど」
「ゲームやるのに有名人を知ってなきゃいけないなんてルールも無いんだし、しゃーないって」

 寧ろ無理やり付いてきた感じがあるので、そういった目に晒されるのは甘んじて受けるしかない。レベルさえ一つ上がれば投擲の精度が上がるから、もうちょっとまともに投げ付ける事が出来るはずなんだよ。

「まあ、もうちょいやったらいけると思うから」

 分かったと言い、休憩していた2人と合流して、さらに西エリア1-4の方へと向けて歩き出す。
 流石に足手まといと言うか、盾役のちんちくりんが出遅れない様にトラッカー使いっぱなしで索敵に集中するしか出来ないのが歯がゆいわ。
 今の所やれると言ったらトラッカーを使い不意打ちを貰わない様に先制攻撃で手裏剣飛ばし、ちんちくりん達を身構えさせるってくらいだな。

 うーん、やっぱり弱いなあ。
 思いっきり弱いって自覚しているけど、楽しんでる辺りいい性格しているな、私。

 それにしても茂みや木々の裏、隠れているのを探して攻撃を先当て出来るのはガンナーよりも忍者の方が向いているな。隠密ガンナー、確か二次選択の時に出ていたゴーストってのがより特化した相手、だったかもしれない。
 そんな事を思っていたらレベルが1つ上がる。それにしても本当にSPしか貰えないのな。
 あくまでもサブは足りないSPを補う為、もしくはスキルの幅を増やす為のものと割り切った方がいいな。
 ちなみに投擲の具体的なスキル内容はこう。


スキル名:投擲 レベル:1
詳細:【パッシブ】
  :物を投げる際により正確にかつ素早く遠く投げられる
備考:レベル上昇により効果がアップ


 結構普通だったが、その効果はと言うとすげえ出てくる。
 明らかに投げたときの音が違うし、何だったら2発に1回当たるようになったから命中率もアップ。銃剣を覚えたての時もそうだったが、やっぱりLv1でもスキル1個覚えているだけで一気に快適になる。
 改めて、このゲームの神髄と言うのを理解した気がする。
 色々と現実の動きや、自分の想像通りに動くことは出来るが、どうしてもぎこちなさが出ているので上手くいかないと、ゲーム側で制限をされているわけだ。
 そしてその制限を解除して、なおかつ動きを良くしていくのがスキルなんだと頭と体ではっきり理解出来たわ。理解していなかったと言う訳ではないが、こんなにも効果が出ると思わなかっただけだが。

「スキルってすげーわ、これがゲームにメリハリを生んでる気がする」

 戦闘が終わっての休憩中、近くにあった木に手裏剣と苦無を投げると、面白いように当たるようになっている。

「アカメさん、そんなに投げてると敵が寄ってくるんじゃ」
「やっとまともに投げられたからなー……銃じゃないから音もしないし、今すげえ楽しいんだわ」

 上手投げ、下手投げ、横投げ、自由自在……って訳でもないけど、明らかに精度が上がっているから単純に楽しい。
 こらー、サブ職上げる意味もあるってもんだな。

「ようやく戦力になってきたから、もっと援護できるわ」

 ちんちくりんに「にぃ」っと口角を上げてギザ歯を見せる笑みを浮かべつつ、手の中で苦無を回す。
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