初体験しないまま死にたくなかった悪役令嬢

ChaCha

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危険な遊び※

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「クローゼットに、私と一緒に、隠れて欲しいの!」

……聞き間違いかと思った。

誰から、隠れるんだ?

思考より先に口が動く。

「……それは……どんな遊びだ?」

返ってきたのは、理由でも説明でもなく。

「いざ! クローゼットへ!!」

勢いだけで押し切る宣言だった。
俺の腕を掴み、マリエッタは衣装室へと向かう。

引きずられる、というより
――連れていかれる、が近い。

衣装室の扉が開き、
彼女は迷いなくクローゼットの前に立った。

……本気か。

ハンガーを左右に寄せ、
空間を作る仕草に、迷いがない。

嫌な予感が、確信に変わる。

「では、お先にヴィンから入って」

……意味が分からない。

……俺が?

「……ああ。これは……なにを?」

だが、断る理由も見つからず、
言われるまま中へ入る。

この時点で、彼女を止められないことは分かっている。

座るよう促され、
半ば言われるがまま、クローゼットの中へ。

次の瞬間。

「では、わたくしも……」

彼女も、入ってくる。

――近い。

思った以上に、距離がない。

パタン。

扉が閉まる音が、
やけに軽く響いた。

……暗い。

視界が、急に奪われる。

布と木の匂い。
こもった空気。
そして、彼女の気配。

呼吸の音が、
自分のものか、彼女のものか、判別できない。

「……暗いですわね」

「……そうだろうね」

声を抑える。
無意識に。

近すぎる距離が、
思考を鈍らせる。

――まずい。

ここは、屋敷の中だ。
人の出入りも多い。

それなのに。

彼女は、平然としている。

微かな動き。
衣擦れの音。

そして、俺の服を摘んだ。

「口付けして……くださる?」

甘い声音が俺に落ちた。

……。

喉が鳴った。

「……あなたの香りが好きで。
    風に流されないなら、
    もっと感じられると思って……」

言葉が、柔らかい。

彼女は完全に、分かって、やっている。

なんてことだ…
――無防備が、すぎる。

暗闇で位置を探り合う。

待て…待って欲しい…

いくら暗闇とはいえ、
明らかに位置をずらしている。

彼女の香りが鼻先に迫る。

胸の位置に、俺の顔が当たるように。

――わざとだ。

胸の高さに、触れた。

――擦れた。

ほんの一瞬。
だが、はっきりと。

それだけで、
彼女の吐息が漏れた。

理性が警鐘を鳴らす。

――危険だ。

「……君は、何をしているのかな?」

声が、思ったより低くなった。

「ヴィンを……感じてた、の」

……感じ、てた?

グッと俺の下半身が反応する。

腕が、勝手に回る。
逃がさないように。

いや、違う。
これ以上、踏み込ませないためだ。

……本当だ。

「……これは、君の香りを、
   俺も、取り込みたいからだ。
   いいね?」

了承を取る形を、装う。

「ぜひ。堪能してくださいませ」

即答。

躊躇がない。

背中に触れ、指でなぞる。
首筋に、鼻先を掠め、彼女の香りを吸う。

「……なんと、甘美な香りだ」

言葉が、勝手に落ちた。

溢れ落ちる吐息が俺を誘う。

これは、彼女が始めた遊びだ。

だが――
遊びとして、扱ってはいけない。

胸の奥で、
何かが静かに軋む。

正直に言うと、
理性が削られる音がした。

「触れても……いいかな?」

最後の、確認。

拒まれなければ、
引き返せなくなる境界。

「もちろんですわ。
    愛しいヴィン」

……ああ。

完全に、危険だ。

ここは、クローゼットだ。
屋敷の中で、
誰かがすぐ外を通る。

それなのに。

この距離。
この暗闇。
この無防備さ。

――彼女は分かっているのか。

それとも、
分かっていないからこそ、ここまで来たのか。

どちらにせよ。

「危険な遊びだ」

そう思った時点で、
もう、手遅れなのだろう。

軽い口付けは、
すぐに逃げ場のない深さに変わる。

吐息と、水音。
くちゅ…はぁ…ちゅ…っ…ぐちゅ…
深い…溺れるように絡む舌が理性を溶かしていく。

彼女が、俺の手を取った。

胸へ、誘導される。

――カリッ。

指先が、布の上から突端を捉えた瞬間、
彼女の身体が跳ねた。

……これは。

確信に近い。

……反則だ。

自分が一番、分かっていた。

彼女は、俺を欲しがっている。

こんな場所で…君は……

背に回した手に力がはいる。
抱き寄せれば簡単だ。

だが、それをしない。

しない、という選択を、
今この距離で続けることが、どれほど難しいか。

その瞬間。

ガチャ。
ざわざわ。

外の音。

反射的に、肩を抱く。

「……しっ。マリエッタ、おいで」

胸元を庇うように引き寄せ、
魔術陣で結界を展開する。

――この薄い扉一枚で、世界が分かれている。

音は遮断している。
それでも、完全ではない。

完全に閉じてしまえば、
彼女は、もっと無防備になる。

それが、怖い。

外では、
侍女たちの声が楽しげに行き交っている。

衣装の話。
肌の手入れの話。

そのすぐ裏で、
俺たちは、呼吸を揃えている。

暗さに慣れた視界の中で、
彼女の輪郭が浮かび上がる。

俺に跨るようにして、見上げていた。

俺の腕から逃げない。
絡む視線を逸らさない。

近い。
近すぎる。

……本当に、分かっていないのか。

それとも、
分かっていて、ここまで来たのか。

どちらにしても。

「……君は」

言葉を探す間、
一拍、沈黙が落ちる。

近すぎる距離が、思考を鈍らせる。

吐息が触れる。
同じ速さの呼吸。

――合わせてしまえば、終わる。

「本当に、危ない遊びを思いつくね……」

低く、抑えた声で。叱責ではない。

事実の確認に近い。

耳元に、囁く。

「隠れんぼ、か……確かに」

責める気はない。
むしろ、感心と呆れが混じる。

わずかに、笑ってしまった。

笑ったことで、
彼女の胸の奥が鳴ったのが、分かる。

……いけない。

楽しんでいるように見せたら、
彼女は、もっと近づいてくる。

だから。

「……でも」

もう一拍。

意識的に、間を置く。

言葉で、線を引くための沈黙。

「これは……反則だ」

今度は、はっきりと。

視線を外さず、
けれど、触れない。

彼女の背に回した手は、
支えるだけで、留める。

それ以上、何もしない。

しない、という選択が、
どれほど強い抑制か。

彼女は、まだ知らない。

この距離で、
触れずにいることが、どれほど危険か。

そして――
それを、俺が選んでいるということも。

この遊びは、
確かに、楽しい。

だが同時に。

一歩間違えれば、
もう、戻れない。

だからこそ。

今は、ここで止める。

止められるうちは、
まだ、遊びでいられる。

……そう、自分に言い聞かせながら。

俺は、彼女から目を離さなかった。

……なのに……

その直後。

……くちゅ。

小さな水音が、はっきりと耳に届いた。

――今のは。

思考より先に、呼吸が乱れる。

――まさか。

だが否定する余地はない。

彼女は、履いていない。

「……君は……うそ、だろう?」

声が、低く擦れた。
咎める言葉じゃない。
確認だ。
自分自身への。

逃げ道を探すより先に、
指が、動いてしまった。

止めるべきだと分かっている。
だが、既に遅い。

布の内側へ。

くちゅ。
ぬるり。

触れた瞬間、
彼女の身体が震えたのが、はっきり分かった。

「……ぁっ……」

吐息と水音が、混じる。

――しまった。

そう思った時には、
もう、戻れない。

胸元で主張している淡い突端に、
無意識に視線が落ちる。

指先で、確かめるように弄る。

そして――
彼女の熱を纏ったままの指で、

二点を同時に
――きゅっと。

一瞬、彼女の身体が跳ねた。

声にならない音。
喉の奥で押し殺した気配。

……完全に、反応している。

「……はぅ……ん……」

その声が、決定打だった。

腰が、勝手に動いたのが分かる。
自分の意思とは関係なく。

終わらせるべきだ。
今すぐ。

そう思いながら、
指は離れない。

声を殺した反応。
腰が跳ねる。

完全に、求めている。

奥へ、入れてはダメだ。
それだけは…

だが、なぞる。
秘豆と割れ目を何度も。何度も。

ぐちゅ…くちゅ…
蜜が溢れて指に絡む。

彼女の香りが、濃くなる。
肌に浮かぶ、確かな熱。

指を奥へと入れない、という選択が、
かえって残酷だと分かっていながら。

――何度も、執拗に擦る。

「……ぁ……はぁ……」

彼女が必死に声を殺しているのが分かる。

重なる呼吸。
求めている、というより、
もう、受け止めきれない、という反応。

……危険だ。

その瞬間。

「…あっ…い…」

ぐっと、身体が押し返され

びくり、と。

彼女の内側が、すべて反応した。

触れているのは、ほんの一部。
それなのに。

俺の指で、達したのか?

――全身が、こちらに向いている。

外の音が、急に鮮明になる。

――ガチャ。

「……あれ? 開かない……」

ガチャガチャ。

現実が、割り込んでくる。

一拍。

「みんな。今からちょっと、手伝ってくれない?」

ざわめきが遠ざかる。

……コンコン。

「お嬢様。そろそろ公爵様たちが戻られますよ。
お遊びは――また、次回で」

足音が去る。

静寂。

キー……

クローゼットが、開いた。

一気に、現実が戻る。

乱れた彼女。
乱れた、自分。

「……鬼に、見付かっていたようだ」

囁いたのは、
冗談めかすためじゃない。

これ以上、続けないための言葉だ。

「ふふ」

彼女が笑った。

軽い口付け。
ほんの一瞬。

――それだけで、十分すぎるほど、伝わる。

痛いほど、主張している俺の下半身を…
いつものように瞳を閉じ、憎い奴を殺意を持って思い浮かべる。

深呼吸だ。

よし。大丈夫だ。

立ち上がり、手を差し出す。

彼女の指が、そっと乗る。

衣服を整える。
丁寧に。
いつも通りに。

何事も、なかったかのように。

「……とても、よかったです」

本心だと、分かる。

「それは……よかった」

小さく、笑った。

まるで、夢だったかのような軽さで。
腕を絡め、クローゼットを出る。

――だが。

胸の奥に残るのは、
軽さじゃない。

確かに、
摘まれた感覚。

それを、
俺の方が、強く覚えていた。

今夜はまた、眠れない夜が確定した。

「なんてことをさせるんだ…マリエッタ」

危ない遊びは…ほどほどにして欲しい。
いや、たまにして欲しい。

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