モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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離れている時間

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午後の座学は、穏やかな光に満ちていた。
高い窓から差し込む日差しが、机の上のノートをやわらかく照らしている。

アイナは、無意識のうちに窓辺の席を選んでいた。
そこからは、少し距離はあるけれど、騎士科の建物が見える。

もちろん、授業はきちんと聞いている。
板書も取っているし、先生の言葉も頭に入っている。
治癒魔術師として、学ぶべきことが多いのは嫌というほどわかっている。

それでも――
ふと、視線が外へ流れる。

(……あ)

騎士科の訓練場の方角。
人の動きの中に、自然と探してしまう姿がある。

(いた)

胸の奥が、きゅっと静かに鳴った。

青い髪。
背筋の伸びた立ち姿。
遠目でもわかる、無駄のない所作。

私の好きな人は、とても目立つ。

いつからだろう。
探すことが、当たり前になったのは。

ほんの一瞬、口元が緩む。
気づかれないように、すぐに視線を教壇へ戻す。

(……集中、集中)

ペンを持つ指に、少しだけ力を込める。
学園に戻った。
私は学生で、彼も学生で。

今は、それでいい。

一方――
エルンストもまた、訓練の合間にふと顔を上げていた。

視線の先は、治癒魔術科の校舎。
その中の、窓辺。

(……いるな)

小さく、安堵の息が落ちる。

窓際に座るアイナの姿。
真剣な眼差しで教壇を見つめ、時折ペンを走らせる横顔。

戦場で見せる必死さとも、訓練中の気合とも違う。
静かで、凛としていて――それでも、柔らかい。

(ああ……)

胸の奥に、どうしようもない感情が満ちていく。

触れていない時間。
声を聞けない時間。
ただ同じ学園にいるだけなのに、それだけで足りないと感じてしまう。

(愛しい)

その言葉が、自然に浮かぶ。

抑える必要はない。
今は離れているだけだ。

同じ空の下で、同じ時間を過ごしている。
それだけで、心は繋がっているとわかっている。

エルンストは、再び前を向いた。
訓練に集中するために。

アイナもまた、ノートに視線を落とす。
学ぶために。

離れている時間は、確かに寂しい。
けれど――

その寂しさすら、
互いを想っている証のように、胸の奥で静かに温かかった。



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