モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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班のみんなと

買い出し袋がそれぞれの腕に増え、歩幅が少しだけ重くなった頃だった。

「俺、めっちゃお腹空いた」
「私も~」
「さっきからそれしか考えてない」

班のみんなの声が、示し合わせたみたいに重なる。

「何か食べて帰ろうよ」
「いいね」
「賛成!」

一気に空気がゆるんだ。

買い出しという名目で街に出ていたはずなのに、気づけば完全に“寄り道モード”だ。
それでも、準備は順調だった。
前回の野外訓練で何が足りなかったか、何が邪魔だったか。
それを共有しながら選んだ物たちは、どれも現実的で、ちゃんと生き残るためのものだった。

だからこそ、今この瞬間の「お腹空いた」は、正当な権利だと思う。

私は、無意識に隣を歩く存在を見上げていた。

エルンスト。

さっきからずっと、自然に輪の中にいる。
誰かの話に頷き、冗談には小さく笑って、班のみんなの名前もきちんと覚えている。

視線が合うと、にこ、と穏やかに微笑んだ。

(……あ)

胸が、きゅっと鳴る。

何も言っていないのに。
何も触れていないのに。

「いいね」

そう言って、エルンストは迷いなく頷いた。

「俺も、少し空いたところだ」

その一言で、班のみんなが一斉に色めき立つ。

「え、じゃあ一緒に行こう!」
「騎士科って何食べるの?」
「肉?やっぱ肉?」

「量が多い店がいいよね」
「アイナ、どこがいい?」

突然振られて、私は一瞬言葉に詰まった。

(……あれ?)

いつの間にか、選択権が私に回ってきている。
しかも、エルンストも当然のようにそこに含まれている。

ちら、と彼を見る。

変わらず、にこにこ。

(……これは)

これは、完全に「一緒にいる前提」だ。

「……あ、あの通りに、定食屋が」
「決まり!」
「早っ!」

私が言い終わる前に、即決された。

歩き出す班のみんなの背中を追いながら、私は小さく息を吐く。
隣に並ぶと、エルンストがほんの少しだけ距離を詰めてきた。

触れない。
けれど、近い。

その距離が、やけに落ち着かなくて、やけに安心する。

「騎士科B班も誘えばよかったな」

誰かのそんな一言に、空気がまた弾む。

「それな」
「次はそうしようよ」
「人数増えても大丈夫そうな店、探さない?」

「エルンスト君から伝えてみてよ」
「うん、お願い!」

一斉に向けられた視線を受けて、エルンストは少しだけ驚いた顔をしてから、すぐに頷いた。

「もちろん」
「次は、まとめて声をかけるよ」

その返事は、あまりにも自然で。
まるで、最初からその輪に属していたみたいだった。

(……すごい)

改めて思う。
この人は、どこにいても“居場所”を作ってしまう。

それは、騎士としての力量だけじゃない。
人との距離の取り方。
踏み込みすぎず、でも離れすぎない、その感覚。

私の胸の奥が、じんわりと温かくなる。

(……ずっと一緒にいる気だ)

その事実に、少しだけ焦る。
でも同時に、嬉しさも確かにあった。

班のみんなと笑いながら歩くこの時間。
そこに、エルンストが自然に溶け込んでいる。

恋人じゃない。
約束もない。

それでも。

(……奪われたくないな)

ふと、そんな気持ちが胸をよぎって、私は慌てて視線を前に戻した。

この時間が終わってほしくないと思っている自分は、もう誤魔化せなかった。

定食屋の看板が見えてくる。
漂ってくる、温かい匂い。

「うわ、いい匂い」
「生き返る」
「ここ正解だわ」

そんな声に混じって、エルンストが小さく言った。

「……来られてよかった」

それが誰に向けた言葉なのか、分からない。
でも、私は一瞬だけ、彼を見上げた。

視線が合う。
柔らかく、確かな眼差し。

胸の奥が、またひとつ、静かに鳴った。

班のみんなの笑い声に包まれながら、
この“当たり前みたいな時間”が、
少しずつ、確実に形を変えていく予感だけが、
私の中に残っていた。


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