モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

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桃色と銀色がおかしい

久しぶりの学園食堂は、相変わらずの騒がしさだった。
新学期初日。
無料。食べ放題。
学生にとっては神の祝福みたいな空間である。

トレイを手に取り、いつもの席へ向かう途中で、私はふと足を止めた。

「……おかしい……」

口から零れた呟きは、自分でも驚くほど真剣だった。

向かいに座ったヴィルが、スープを一口すすりながら首を傾げる。

「なにが?」

私は視線を、食堂の少し奥へ向けた。
そこにいるのは、誰が見ても分かる二人。

桃色の髪が光を受けてきらきらしているヒロイン。
その隣に座る、銀髪で灰色の瞳のベルンハルト。

――なのに。

「……二人の距離?」

思わず、そう言ってしまった。

近い、はずだった。
少なくとも、去年までは。

けれど今は。
同じテーブルに座っているのに、妙に間が空いている。
ヒロインは落ち着きなく視線を泳がせ、ベルンハルトはいつもより背筋が硬い。

空気が、ぎこちない。

ため息混じりに、ヴィルが肩をすくめた。

「それ、お前らもな」

ちらり、と向けられた視線の先。
私はようやく、自分の横に“いつもと違う圧”があることに気づいた。

……近い。

近すぎる。

エルンストが、当然のように私の隣を陣取っている。
肘が当たる距離。
いや、当たっていないのに、存在感だけで分かる距離。

そして、ヴィルに向けて――
にこり、と冷たい笑顔。

氷点下。

私は、その静かな牽制にまったく気づかず、首を傾げ続けていた。

「なんということ……まるで、交際前より破綻した雰囲気だ……」

ぽつり、と零した言葉に、ヴィルが小さく鼻で笑う。

食堂の奥では、ヒロインがベルンハルトから半歩距離を取り、そわそわと落ち着かない様子で座り直している。
ベルンハルトは何か言いたそうに口を開きかけて、結局黙った。

「……居心地、悪そうだよね」

胸の奥が、きゅっと縮む。

「俺の心も救ってくれよ」

ヴィルが冗談めかして言う。

「いったい……二人に何が……」

「ほんとにな」

そう言いながら、ヴィルは私の皿を指差した。

「あ、それ不味かったぞ」

「え?」

一口、食べる。

「……めっちゃ不味い!!」

即座に顔をしかめる私に、ヴィルが吹き出した。

いつものやり取り。
いつもの空気。

――なのに。

ヒロインとベルンハルトの間に漂う、張り詰めた違和感が、どうしても気になった。

何かが起きた。
確実に。

胸の奥に、冷たいものがすとんと落ちる。

それは、まだ形にならない不穏。
でも、確かにそこにあった。

新学期の始まりは、
どうやら、穏やかでは終わらないらしい。


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